中小企業の「うつ病」対策ー人、資金、時間、情報に余裕がない

企業の労働安全衛生、特にメンタルヘルス問題に取り組んでいます。
拙著「中小企業のうつ病対策」をお読みください。

産業医活動の留意点

2020年06月10日 | 情報

専属産業医が他の事業場の非専属の産業医を兼務するには、

産業医の職務の遂行に支障を生じない範囲内において行われ、

産業保健活動をそれら事業場で一体として行うことが効率的であること等の
一定の要件の下に認められています。
(平9.3.31付け基発第214号「専属産業医が他の事業場の非専属の産業医を兼務することについて」)

また、当該要件の一つである、専属産業医の所属する事業場と非専属事業場との
「地理的関係が密接であること」ついて、

「当該2つの事業場間を徒歩又は公共の交通機関や自動車等の通常の交通手段により、
1時間以内で移動できる場合も含まれるものとして取り扱うこととされています。
(平25.12.25基安労発1225第1号「専属産業医が他の事業場の非専属の産業医を兼務する場合の
事業場間の地理的関係について」)

 

今般、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に伴って、
遠隔産業衛生研究会から嘱託産業医の皆様に向けての提言」が公表されました(20.4.6)

https://www.sanei.or.jp/images/contents/416/Information_JSOH-telemed.pdf

 

以下、メンタルヘルス対策を中心に概要を紹介します。

 

◎新型コロナウイルス感染症流行下において、訪問での産業医業務を行うことには次のようなリスクとベフィットがある。

リスク:嘱託産業医は臨床医を兼務したり、複数の事業場を巡回したりすることが多いため、事業場に感染を持ち込んでしまうリスクがある。さらに事業場訪問の際に感染し、院内感染を引き起こすリスクがある。

ベネフィット:事業所の現状の把握、さらに3密(密閉・密集・密接)の回避など感染予防対策の実施状況の確認については、現場・現物でのほうが行いやすいこと等が挙げられる。

 

◎産業保健の 3 管理、総括管理

1.作業環境管理

作業環境管理のうち産業医の職務として義務となっている職場巡視については以下のように提言する。

1-1)工場等有害作業またはそれに類する作業が行われている事業場に対する職場巡視

1 回の職場巡視を行うことを原則とする。ただし出務前に必ず産業医の体調確認を行い問題なくともマスクなどの着用下での実施を原則とする。また産業医の体調が不良の場合は巡視を延期する必要があるが、その場合でも労働安全衛生規則十五条はやむをえない場合(例えば産業医自身が感染者やその濃厚接触者である場合など)を除いては順守するべきである。

1-2)いわゆるオフィス等危険が少ない事業場の場合

労働安全衛生規則十五条を満たし、巡視以外の方法で労働者のおかれた作業環境に関する情報(たとえば、労働者の出勤割合、出勤している人の役職や業務内容、感染者発生に備え座席のレイアウトなど)を十分に把握できる場合は、2 月に 1 回の巡視にすることを検討する。
360 度映像リアルタイム配信サービスやスマートフォンによるビデオ通
話等は、ほぼ視覚情報のみに限られることやセキュリティについて配慮すれば、職場巡視の補助としては考えられるとする学会発表がある(黒崎ら第 29 回産業衛生学会全国協議会)

現状、職場巡視の代替にはなりえないが、情報把握の補助としてこのような方法を検討してもよいだろう。

2. 作業管理

作業管理についても、職場巡視については作業環境管理と同様に考えられる。

3.健康管理

健康診断事後措置や健康相談、長時間労働者やストレスチェック高ストレス者に対する面接指導などの健康管理については、遠隔での代替可能性を検討するよう提言する。
遠隔で
の代替方法としては、メールや書面郵送による指導、電話での面接、TV 電話や Web 会議システムを用いた面接などがある。

なお産業医の業務は医師法ではなく労働安全衛生法 14 条で規定されており、

その職務は医師法が規制する診療や治療などの医療行為に該当しないと解釈されている。
また、オンライン診療指針において、遠隔産業医面接は医療行為である「オンライン診療」ではなく、
「遠隔健康医療相談(医師)」の一つとして例示されている。
したがって、遠隔産業医面接は原則として医療行為に該当せず、非対面診療の禁止を定めた医師法 20 条との関係でただちに違法となるものではないと考えられている。

ただし面接に関しては、以下の点について注意が必要である。

3-1) 長時間残業、ストレスチェックの面接指導に関して

平成 27 年9月 15 日付け基発 0915 5 号の要件を順守すること。


 3.3-1)
以外の面接について

画質の確保、適切な音質、接続の安定性などが問題であるため対面のほうが遠隔面談に比べ優位であり、遠隔面接が直接対面に比肩するようになるにはまだ時間が必要であるという研究があり(北田 精神科治療学 34(2) 181-4,2019)、適応対象を選定する必要があることが指摘されている。また、診療分野では「オンライン診療の適切な実施に関する指針」が存在しており参考にできる。以下に、準用可能な順守事項の抜粋を示す。ただし、初診は原則対面とする点については、オンライン診療自体も緩和される動きがあり、面接の内容によっては初回であっても良いものと考える(例:健康診断事後措置での保健指導など)。

*オンライン診療指針から準用可能な遵守事項

「適用対象」

・初診は原則として直接の対面による診療を行うこと

・急病急変患者については、原則として直接の対面による診療を行うこと

「診察方法」

・患者の状態について十分に必要な情報が得られていると判断できない場合には、速やかにオンライン診療を中止し直接の対面診療行うこと

・同時に複数の患者の診察を行ってはならないこと

・医師のほかに医療従事者が同席する場合は、その都度患者に説明を行い、患者の同意を得ること

・騒音のある状況など、患者の心身の状態に関する情報を得るのに不適切な場所でオンライン診療を行うべきではないこと

・第三者に患者の心身の状態に関する情報の伝わることのないよう、医師は物理的に外部から隔離される空間においてオンライン診療を行わなければならないこと(患者側も同様)

3-3) 対面で行う必要があると判断した場合は、感染防止に留意して実施するようにする。


4
総括管理

事業場の労働安全衛生マネジメントシステムの構築や運用に関して、産業医として適切な意見をのべる総括管理は、遠隔でも対応できることが少なくない。特に訪問回数が月に 1度程度の嘱託産業医は、日々刻々と変化していく科学的知見や現場・社会の状態にあわせ、積極的に遠隔で対応していくことが望まれる。

コロナウイルスによる生物学的曝露に伴う、労働者の安全衛生リスクを適切に評価してリスク低減を図るべく、産業医は、ウイルスを事業場に持ち込ませない、万が一持ち込まれても事業場内で感染連鎖を起こさないために適切な指導をすることが期待される。

また生物学的な災害ともいえる今回の事態に対する BCP 対応(感染者や疑い者が発生した場合に備えたチーム編成、事業場内のゾーニング等)に関する専門的意見も期待されよう。

 

4. 衛生委員会・安全衛生委員会(以下衛生委員会等)

衛生委員会等については以下の通り提言する。

4-1) 衛生委員会等が対面のみで行われる場合

令和 2 5 月末までは出席せず、議事録等で衛生委員会の内容を精査したのち意見を述べることを考慮に入れてもよい。

4-2) 衛生委員会等が TVWeb 会議等で行われる場合

産業医は衛生委員会に参加すべきである。ただし TVWeb 会議を利用するために出勤等を伴う場合はリスクとベネフィットを考慮に入れてどうするかを事業者と相談の上決めること。


5.
補遺

日本医師会においては産業医活動の優先順位があげられている。その中で産業医が行うべき業務については以下の 4 つである。【日本医師会「産業医契約書の手引き」P16 より】

・職場巡視を行うこと

・衛生委員会(又は安全衛生委員会)に参加すること

・健康診断およびストレスチェックに関する労働基準監督署への報告書を確認し、捺印すること

・職業性疾患を疑う事例の原因調査と再発防止に関し、助言や指導を行うこと

 

 

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