中小企業の「うつ病」対策ー人、資金、時間、情報に余裕がない

企業の労働安全衛生、特にメンタルヘルス問題に取り組んでいます。
拙著「中小企業のうつ病対策」をお読みください。

休職・復職の基本シリーズ⑥

2020年03月31日 | 情報

「休職した時から、復職の準備が始まる」

休職に入ったら、すぐに復職の準備を始めることがポイントです。
多くの企業で、休職者から復職願いが提出されて、慌てて対応している、
慌てて対応しなければならない事例が、たくさんあるからです。

 

休職とは、労働者が疾病等で就労できない場合に、
労働契約を維持したまま一定期間、労働を免除するという、解雇猶予措置とも言われています。
ですから、休職者にとっては、自由に好きなだけ休める権利を与えられたわけではありません。
労働者には労務の提供が可能な状態まで回復したら、職場復帰する義務があります。

 

従って、療養が必要で労務の提供ができない状態が続いているのかどうかを確認するため、
企業が休職中の労働者に定期的に診断書の提出等をもとめることに何ら問題はありません。

主治医からの、休職者(患者)との接触は治療の妨げになるという主張については、
あらかじめ、前述した「休職・復職マニュアル」を提供して、
了承を取り付けておけば問題はありませんし、
むしろ主治医との良好な関係を構築する上で大切なことになります。
さらに、
休職者の了承を取り付けたうえで、主治医との面談を実現し、
上述した「休職・復職マニュアル」を説明しておくことが、
復職に向けての作業を円滑にするポイントになります。

(注;厚労省の手引きでは「主治医と連絡を取ったうえで接触すべき」となっています。)

なお、主治医との面談には、診療時間に食い込むことになりますので、
相当の謝礼が必要になることを承知しておいてください。

 

また、休職者からも、「会社から接触されたことで病状が悪化した」と主張されることが考えられます。
しかし、休職期間に入る前に、休職者には予め必要事項を説明していますし、
安全配慮義務の履行の観点から問題はありません。
さらに、会社が接触する必要性を、主治医より説明してもらえば、休職者も納得せざるを得ません。

 

因みに、意外なことかもしれませんが、企業の考え方を理解しない、
または企業を鼻から毛嫌いする医師(主治医)がいないわけではありません。
その一例として、患者と所属企業との接触を一切拒否する場合があります。
ですから、先手を打って、主治医との良好な関係を構築することが何よりも大切なことと云えます。
この良好な関係が、後々に登場してくる「復職」問題に大きく寄与することになります。

 

さらに、休職期間に入る前に、残っている年次有給休暇を使用することも可能です。
現実には、年次有給休暇を使用することが多いと思いますが、
使用する・しないは、当該休職者の意思を尊重してください。

 

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自殺動機、健康問題が最多(続編)

2020年03月30日 | 情報

懇意にしていただいている精神科専門医の話によると、

うつ病をり患すると、重大な決断を、短時間で、安易にしてしまうそうです。

また、知人から「死にたい」と仄めかされたら、笑って「冗談云うのはやめてよ」というような

発言をしてはいけないとそうです。全力で思いとどまるような行動をとるべきだとされています。

以下、新聞報道から識者の発言のみの抜粋です。

 

2020.3.27 読売

自殺 判断力欠く精神状態…昨年の自殺者 2万人超

 

○国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦・薬物依存研究部長

「死にたい、と言う人ほど実際は死なない」と考える人もいるが、そんなことはない。

自殺した人の多くは、死の数か月前に「死にたい」と訴えているという調査がある。

その言葉の裏側には、「死にたいぐらいつらい」「つらさが少しでも和らぐのであれば本当は生きたい」

という思いがある。だから誰かに伝えているのだと思う。

直前になると言わない人は、確かにいる。自分が楽になる唯一の方法を邪魔されないように、

私たちを欺くわけだ。だからこそ、その手前で口に出してくれることはありがたい、と考えたい。

何度も言われると気が重くなるし、「もういいかげんにして」と言いたくもなるだろう。

でも、誰にでも訴えるわけではない。

この人なら分かってくれるのでは、と信頼しているからこそ、口にするのだ。

もし「死にたい」と言われたら、まずは否定せずに真剣に聞いてあげること。

「自殺はいけない」という説教や説得はすべきじゃない。安心して本音が語れなくなるからだ。

「生きてりゃいいこともあるさ」という、安易で無責任な励ましもダメ。

そうではなく、できれば何に困って悩んでいるのかを聞きたい。

それらはたぶん複数あって、自分にできるのは話を聞くことと割り切り、

難しい問題は都道府県にある精神保健福祉センターや保健所に一緒に相談に行くことを提案してもいい。

家族や友人は一人で抱え込まないことが大切だ。

 

○日本自殺予防学会理事長の張賢徳・帝京大溝口病院精神科教授

昔から日本人は自殺に対する心のハードルが低い。

日本の文化が自殺率の高さに影響しているのは確かだろう」

 

○札幌医大神経精神科の河西千秋・主任教授

「自殺者数を減らす最も有効な方法だが、

拠点病院の整備や地域との連携がもっと普及しなければならない。

診療報酬の引き上げなど、一層の政策の強化が必要だ。」

 

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心の健康保つ秘訣は?

2020年03月27日 | 情報

対処法

・「この感染症に関する信頼できる情報を得る」
・「日々のルーティンを作って実行する」
・「電話やSNSなどを活用したバーチャルなつながりを保つ」
・「自分の力では変えることのできない状況を受け入れるため『感謝の日記』をつける」など

 

長くなる在宅、心の健康保つ秘訣は? 米心理学会が伝授
2020.3.22
 日経

 

新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、長期間、人との接触を控えた生活を強いられる中で、
精神的な健康を保つにはどうすべきか
米心理学会が学術的な知見をもとに対処法の要点をまとめ、発表した。
日本心理学会は、その日本語訳を同学会のホームページに掲載した。

米心理学会が発表した文書は、
「もしも『距離を保つ』ことを求められたなら:あなた自身の安全のために」
Keeping Your Distance to Stay Safe)というタイトル。
感染者の隔離や、感染した可能性のある人への検疫、学校やコンサート、公共交通機関など
人が集まる場所を避ける「社会的距離の確保」などが呼びかけられていることを受け、
数日から数週間、在宅で過ごすなどの状況を念頭に置いた。

心に起きる変化として、「他人にうつすのではないか」「仕事を休み続けるとどうなるのか」といった
不安や恐怖のほか、抑うつ、倦怠(けんたい)、怒り、イライラ感などを挙げた。
感染者らが周囲から汚いものと扱われているように感じる場合もあり、
また新型コロナウイルスの対応に関わる医療従事者や、
従来メンタルヘルスの問題を抱えている人などは特に、精神的苦痛を受けやすいという。

対処法として、「この感染症に関する信頼できる情報を得る」「日々のルーティンを作って実行する」
「電話やSNSなどを活用したバーチャルなつながりを保つ」
「自分の力では変えることのできない状況を受け入れるため『感謝の日記』をつける」などを紹介

心の支えであるペットに頼ることも「つながりを保つ一つの手法」とした。
ペットはウイルス感染のリスクが不明なため米疾病対策センターは接触を避けることを推奨しているが、
日本の厚生労働省はホームページで「ウイルスが感染した事例は見つかっていない」などとしている。

日本心理学会広報委員長の三浦麻子大阪大教授は「隔離のような極端なケースではなくても、
人との関わりが阻害されたときに起きることと、その影響を軽減する方法が的確にまとめられている。
我慢すればなんとかなる問題ではないことがわかってもらえると思う」と話している。

 

日本心理学会HP

https://psych.or.jp/about/Keeping_Your_Distance_to_Stay_Safe_jp/

もしも「距離を保つ」ことを求められたなら:あなた自身の安全のために

 

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休職・復職の基本シリーズ⑤

2020年03月26日 | 情報

私傷病か、労災か、の問題です。
最近も同様なブログをアップしていますが、重要なことですので、重複することも厭わないことにします。

精神疾患の場合は、繰り返しになりますが、企業では、私傷病か労災かを俄かに判断できないので、
とりあえずは私傷病として事務処理をしても、問題になりませんと申し上げてきました。
しかし、時間が経過して、落ち着いて原因分析してみれば、
私傷病か、労災か、どちらに該当するかは、判断できるのではないでしょうか。

 

判断材料としては、厚労省の「精神障害の労災認定」があります。

https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken04/dl/120427.pdf

 

この基準に照らしてみると、概ねどちらに該当するか、想定できます。

結果、大概は、労災に該当するという結論に至ることでしょう。
しかし、どのように処理するかは、御社の考え次第です。
そのまま私傷病として処理するのか、あえて労災として労基署に申請するのか、経営判断です。
僅かですが、労災として、労災申請する事例もありますが、
殆どの場合、そのままにしてしまうのが大多数と推測します。
なお、労災申請をしても、認定されない場合もあります。

 

労基署もこうした傾向は、十分に承知しているようですが、現状以上の踏み込みはないようですね。
しかし、当事者は違います。
東芝(うつ病・解雇)事件(東高裁平23.2.23判)に代表されるように、
企業にとっては、禍根を残すようなことにも成りかねませんので、ご注意ください。

 

余談ですが、このような事案を私傷病として処理してしまい、
企業体として、健康経営や安全衛生優良企業の認定を受けてしまうことに、
躊躇してしまうことはありませんか?

ただし、当ブログで紹介してきたように、労災申請しない代わりに、
定年まで在職させるような妥協策が採用されていればよいのですが。

最近の当ブログ参考事例です。
果断な処置 2020.3.23

いずれの事案も、事業者はハラスメントがあったことを認めています。
今後は、このような流れが定着するのでしょうか?
もちろん、ハラスメントが無くなることが最善なのですが。
さらに、報道からの判断ですが、当事者のヤマハ株式会社さんの短期間での対応に、
最大限評価することができます。
長年にわたって培われてきた企業風土・文化の賜物なのでしょうが、この企業風土・文化とやらが曲者で、
そう簡単には成熟しませんし、一方で簡単に壊れてしまうモノなのですね。

ヤマハでパワハラ、30代の社員が自殺 課長職に起用後
3/20(金) 朝日

大手楽器メーカーヤマハ(本社・浜松市)の男性社員が今年1月、
上司から厳しい指導を受けて体調を崩し、自ら命を絶っていたことがわかった。
会社側は、体調不良の背景にパワーハラスメントがあったことを認め、
「関係者におわびし、再発防止に全力を挙げる」としている。

会社や関係者によると、亡くなったのは研究開発部門の30代の男性社員。
昨春、課長職に起用されたことで、
研究開発部門の執行役員だった50代の上司の男性と接する機会が増えた。
上司は2017年に他社から中途採用された。
会社によると、男性社員は、昨年6月ごろから体調を崩し、精神科を受診。
11月から休職して実家で療養していたが、今年1月、自死した。
社内の通報窓口に昨年末、男性へのパワハラを示唆する情報が寄せられていたという。
ヤマハは、男性の死を受け、第三者の弁護士に調査を依頼。
男性が体調を崩したのは、上司によるパワハラ行為の影響があったと認定し
上司を3月末で退職扱いとした。上司は1月から出社していないという。
ヤマハの山畑聡常務執行役は「ご遺族には大変申し訳なく思う。内部通報まで気がつかなかった。
対話重視で風通しの良い職場を作り、コンプライアンスを強化したい」と話している。

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休職・復職の基本シリーズ④

2020年03月25日 | 情報

当該従業員が休職に入る場合には、あらかじめ以下についての説明が必要です。
ただし、会社の説明を全く受け付けないような病状の場合には、無理をすることはありません。
産業医のアドバイスを受けて、時期を見計らって実施しましょう。
併せて、必要に応じて、本人の了承を取り付けたうえで、家族にも同様の説明をします。

 

・所属長に、当該従業員が休職に入ることを説明し、業務の引継ぎ等を確認します。
なお、当事者が業務の引継ぎができないことも考慮しておきます。

・まずは、休職中は療養に専念し、疾病の速やかな回復を心掛けることが大切であることを
明確にしておきます。

・どこで療養するのか、住所、電話番号、メールアドレス等について、休職中の居宅等を再確認します。

・会社側の窓口を決めます。 
休職者と会社を繋ぐ重要な役割です。理想は1人に特定することです。
これが複数だと問題になります。それぞれに発言内容に微妙な差がでることにより、
休職者の心理に不要な影響を与えることが懸念されるからです。

会社側の窓口は、人事労務部門、健康管理スタッフ、衛生管理者等が適任です。

一方で、ハラスメントの問題も含みますので、組織の上司、所属長等は、不適任です。
組織の上司、所属長には、本来の職務に専念してもらいましょう。

・次に、コミュニケーションを取る頻度です。月に1回と緊急時とかいうようにします。
それと、連絡手段です。原則は、メールとして、緊急時は電話にするとかです。

 ・定期的に、診断書の提出を求めます。

基本的には、初期は1ヵ月おき、その後は、3ヵ月、6ヵ月おきにとします。
ただし、提出時期の判断は、定期的な面談を担当する従業員より随時報告をさせ、産業医を交えて検討します。

 ・会社は、休職する従業員に対して、就業規則のなかで、必要な部分を説明します。
例えば、私傷病休職とは何か、賃金規程とは何かです。
休職規程では、休職期間は何日なのか。勤続年数によって休職期間が異なるのが通常です。
それから、賃金規程です。休職中は、賃金、賞与の支払いはありません。

・なお、一度に沢山のことを説明しても理解が進みませんので、
復職の条件、復職の手続き、復職できない場合の対応等の先々の話は、
疾病の回復度合いなどを勘案しながら、頃合いを見計って説明してもかまいません。

 ・休職中は、賃金、賞与の支払いはありませんが、当然に社会保険に加入しているでしょうから、
健康保険から通常の賃金の約3分の2に相当する「傷病手当金」が1年6か月間支給されます
(国民健康保険にはない制度です)。

ですから、休職期間の上限を1年6か月間にしている企業が多いのです。

•一方で、休職期間中に給与がもらえなくても、
社会保険料(会社と折半)と税金(住民税)を支払う必要があります。
傷病手当金との相殺や、会社の仮払い等の手法もありますが、
会社が、休職者から毎月、社会保険料を徴収することをお勧めします。

その理由としては、この社会保険料の徴収時に、会社担当者は休職者と面談し、
治療状況や休職者の気持ち等の情報を収集し、会社内で共有することができるからです。
加えて、労働契約法第5条の安全配慮義務を果たすことにもなります。

とりわけ考慮しなければならないのは、「単身者」です。
精神疾患で、ひとり居宅に閉じこもっている場面を想定してみてください。
定期的に面談することは、安全配慮義務の履行の観点からも必要な作業になります。


・最も大切なことは、復職を認める条件の説明です。
これは、企業の考え方で全く異なります。両極端を示せば、以下のようになります。

●休職者の主治医による、復職できることを認める診断書が提出されれば、復職を認める。

または、

●休職者が、休職前の職務を遂行できると自己判断すれば、復職を認める。

多くの企業は、上述の2条件の中間のどこかを自社の経営方針や企業文化に従い、
検討・模索を重ねて、規定しているようです。

 

小職としては、今回のように5060人規模の企業の場合には、
「休職者が、休職前の職務を遂行できると自己判断すれば、
休職前の職務への復職を認める」をお勧めします。
この程度の規模の企業における人的資源や資金の余裕を考慮すると、
大企業のような復職規程を模倣するのは無理がありますので、理想を追求せず次善策の選択が現実的です。

なお、詳細を省きますが、裁判例(片山組事件・最1小平10.4.9判)にもあるように、
若干の現実的な対応も必要です。

 

・一方で、休職中は経過を把握するためとはいえ、出社させて産業医との定期的な面談を設定することは、
お勧めできません。お勧めできない理由としては、 

○主治医の診断・了解もなしに出社させることは、病状が回復途上にあるので、
病状をかえって悪化させかねない。

○休職中は、事故などに遭遇しても、労災保険が適用されない。

○そもそも、休職中の従業員に対して、業務命令で出社させることは出来ない。

等々が挙げられます。

なお、どうしても出社させることができるのは、復職直前の面談になるでしょう。

 

・休職者には、上述した内容を書面にして3部作成し、説明の上1部を交付します。
後日で構いませんので、主治医にも差し上げてください。
できれば、主治医に直接手渡し、詳しく説明しておけば、後々の作業を円滑に進めることができます。
なお、あまり芳しいことではありませんが、「休職・復職マニュアル」として明文化しておけば、
今後同様な問題が起きても便利です。

 

 

 

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