中小企業の「うつ病」対策ー人、資金、時間、情報に余裕がない

企業の労働安全衛生、特にメンタルヘルス問題に取り組んでいます。
拙著「中小企業のうつ病対策」をお読みください。

パワハラは認定せず

2022年11月30日 | 情報

職員自殺 新潟市に賠償命令…地裁判決 パワハラは認定せず
2022/11/25 読売

新潟市で2007年5月、市水道局の男性職員(当時38歳)が自殺したのは上司のパワーハラスメントやいじめが原因だったとして、
遺族が市に約7900万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が24日、新潟地裁であった。
島村典男裁判長は、パワハラやいじめの存在は認めなかったが、仕事で悩む男性への配慮を怠ったなどとして市側の過失を一部認定。
市に約3500万円の支払いを命じた。

判決によると、男性は07年4月から、未経験者には比較的難しい業務を担当したが、4月中に必要な業務を終わらせられず、
5月の連休明けに上司に 叱責(しっせき) されることを恐れて精神的に追い詰められ、自殺した。

男性の自殺を巡っては、上司が他の職員の前で繰り返し説教するなどパワハラを行ったとして、
11年に公務災害と認定されたが、市側は認定内容を否定。謝罪も拒み、遺族が提訴した。

島村裁判長は判決で、男性が不慣れな業務について指導を受け、質問できる環境づくりを上司が怠った過失を認めたが、
男性が自ら周囲に相談しなかった点を考慮して賠償額を減額した。

公務災害認定と判断が異なる点については、認定手続き時にパワハラを証言した同僚の陳述の変遷を指摘。
市から圧力を感じた可能性を考慮する必要があるとしても、認定手続き時の陳述を証拠採用できないとした。

男性の妻は、判決後の記者会見で「パワハラが認められず残念。市は猛省し、実効性のある再発防止策を講じてほしい」と話した。
一方、市は「判決内容を精査のうえ対応したい」とのコメントを出した。

 

以下、報道からの感想です。

(1)「公務災害と認定されたが、損害賠償額が減額」

通常、公務災害を認定されれば、民事では殆ど争う余地がないのですが、
当事案では、市側が「認定手続き時にパワハラを証言した同僚の陳述の変遷」を突いた結果、
認定手続き時の陳述を証拠採用されず、結果、損害賠償額が減額されています。

(2)「男性が自ら周囲に相談しなかった」

司法は男性が男性が自ら周囲に相談しなかった点を指摘しましたが、当該職員が果たして相談できる状況、
心情、職場環境にあるのかどうか疑問を感じます。
「言うは易く行うは難し」の典型でしょう。裁判官に問いたいですね。「あなたならできますか?」

(3)「質問できる環境づくりを上司が怠った過失を認めたが」

上記(2)の関連ですが、会社側と上司との双方に過失があったと考えます。
最近の労働環境では、何でもできる、何でもこなす所謂「ゼネラリスト」は存在価値がなくなっています。
一般論として従前に比して、各業務が格段に複雑化、高度化していますので、
他部門から異動してきた人材には、十分な情報提供と研修時間が必要なのです。しかし、それがありませんでした。

(4)「認定手続き時にパワハラを証言した同僚の陳述の変遷」

パワハラやいじめの存在を認めなかった理由になっています。
一方で、「市から圧力を感じた可能性を考慮する必要があるとしても」と司法はエクスキューズしていますが、
市側と同僚職員の「ちから関係」を考慮すれば、やりすぎでしょう。

(5)「市から圧力を感じた可能性を考慮する必要があるとしても、認定手続き時の陳述を証拠採用できないとした」

ということは、使用者側の「圧力」は、ある程度まで認められることになります。

結論として、下世話になりますが、司法機構に起きている実情を重ね合わせてみると、
当判決を言い渡した裁判官も業界の不条理を感じているのでしょうね。
中小規模の企業経営者や、企業に就労している労働者にとっては、参考にしなければならない裁判です。

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28.29日は休載です

2022年11月25日 | 情報

28.29日は出張しますので、当ブログを休載します。
再開は、30日(水)です。よろしくお願いします。

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安全衛生管理体制について

2022年11月25日 | 情報

以降、基本的なことに集中して解説します。

◎安全衛生管理は「事業者の責任」であり、組織の大小に関わらず、実施すべき事項は同じです。
ただし、小さな組織では、経営者自らが実施することになりますが、
大きな組織では、経営者1人では対応できませんので、権限を持つ者を選任してその者に管理させることになります。 
○ 安全管理・衛生管理の技術的事項を管理させる「安全管理者、衛生管理者」
○ 安全管理・衛生管理を担当させる「安全衛生推進者、衛生推進者」  

◎安全衛生委員会(衛生委員会)は、事業場の安全衛生対策の推進について、事業者が必要な意見を聴取し、
その協力を得るために設置運営されます。
安全衛生問題を調査審議するための場であって、団体交渉を行なうところではありません。
(ただし、これは原則であって、応用問題も可能と小職は考えています。)
労使が納得の行くまで話し合い、労使の一致した意見に基づいて行動することが望ましいとされます。
なお、会議の開催に要する時間は労働時間(法定時間外の時は、割増賃金)です。(昭和47年9月18日付け発基第91号)

開催にあったては、
・委員会の運営規程(調査審議事項、構成員、開催、議事の決定等)を定める
・毎月一回以上開催する
・議事の概要を労働者に周知する
・議事で重要なものを記録し、3年間保存する
ことが求められています。(昭和47年9月18日付け基発第602号)

◎衛生委員会の活性化に向けて、格好の資料がありますので、参照してください。

「衛生委員会活性化テキスト」 独立行政法人 労働者健康安全機構作成

https://www.kanagawas.johas.go.jp/files/libs/1825/202010140950391358.pdf

以下、目次です。
Ⅰ 衛生委員会の活性化に向けて
Ⅱ 衛生委員会の構成とそれぞれの主な役割
Ⅲ 衛生委員会のルール
Ⅳ 衛生委員会の進行例
Ⅴ 議事録の作成・周知・保存について
Ⅵ 個人情報の取り扱いについて
Ⅶ 衛生委員会チェックリスト(事務局向け)

参考資料
1.衛生委員会の委員とは?
2.月ごとの議事(例)  
3.衛生委員会の資料(例)
4.衛生委員会に関係する法令

 

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冬季うつ病の症状と対策

2022年11月24日 | 情報

◎うつ病を発症させるきっかけ、です。
物理的ストレサー 天候、気温、騒音、匂い、職場環境 等
化学的ストレサー 食事、酸素、薬物、たばこ、飲酒 等
生物的ストレサー 過労、寝不足、病気、老化、体力低下、妊娠(マタニティーブルー)、
         出産、育児、更年期、難病、慢性疾患、後遺症、感染 等
心理的ストレサー 将来に対する不安、葛藤、不満、恐怖、不安、憎悪、疑心暗鬼、配偶者・家族・ペットの死、失恋等
社会的ストレサー 職場における自分の立場、肩書き・役職の重み上司・部下の目、友人関係、仕事のミス・目標未達成、
         親子喧嘩、子供の自立、事故、災害、戦争等


冬の落ち込みは寒さから 冬季うつ病の症状と対策
こころの健康学 認知行動療法研修開発センター 大野裕
2022年11月22日 日経

寒く感じられる日が増えてくると、冬季うつ病について聞かれることがある。
冬季うつ病は季節性感情障害とも呼ばれ、冬になると太陽光に当たる時間が減るために生じるとされ、
光療法と呼ばれる高照度の光を使った治療が行われる

これは北欧のように太陽光を浴びる時間が極端に少ない地域に多く見られる状態で、
過去の日本での調査でははっきりとその存在を確認できなかったと聞いている。
そうは言っても、冬場になるとうつ病とはいえないが、何となく元気がなくなる体験をする人は少なくない。

最近届いたアメリカ精神医学会のニュースレターに、
約10人に4人の米国人が冬に気分の落ち込みを経験しているという調査結果が載っていた。
疲れやすさを感じ、不機嫌になり、好きだったことに興味が無くなった。
睡眠時間が増えたり、寝つきが悪くなったりしているのだという。
その調査では、休日に家族や友人と時間を過ごすことや、おいしい食べ物を楽しむことで気分が良くなるという結果も報告されている。

この調査結果からは、冬場の気分の落ち込みは、日照時間の短さよりも、
寒さのために楽しい活動ができなくなっていることが主な要因になっていると考えられる。

新型コロナウイルス感染症やインフルエンザが増えてくる可能性が指摘されていることもあって、
閉じこもりがちの生活を送るようになる人も多いだろう。
心の健康を保つには家の中で、そして感染対策をしながら家の外で、喜びや楽しみを感じられる活動を増やすことが役に立つ。

◎大野裕先生運営 「こころのスキルアップ・トレーニング」

https://www.cbtjp.net/profile/

◎略歴;精神科医
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター顧問
一般社団法人 認知行動療法研修開発センター理事長
近年、精神医療の現場で注目されている認知療法の日本における第一人者で、
国際的な学術団体Academy of Cognitive Therapyの設立フェローで公認スーパーバイザーであり、日本認知療法・認知行動療法学会理事長。
一般社団法人認知行動療法研修開発センター理事長、日本ストレス学会理事長、日本ポジティブサイコロジー医学会理事長など、
諸学会の要職を務める。

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繰り返しになりますが

2022年11月23日 | 情報

繰り返しになりますが、ひとは、「ハラスメントのみ」であれば、「また長時間労働のみ」であれば、
(事例を多く承知していますので)なんとか耐えられるような気がしていますが、
ハラスメント+長時間労働になると、ひとが耐える限界を越えてしまうような気がします。

ここで推奨したいのは、メンタルタフネスの考え方です。
メンタルが強ければ、多少のストレスにも耐えることができます。そのための訓練も必要です。

参考① メンタルタフネスとは、(一社)安全衛生マネジメント協会
メンタルタフネスとは、ストレス耐性という意味で用いられる言葉である。
一般的にアスリートやスポーツ選手は非常にストレスフルな状況で、最高のパフォーマンスを出すことを要求される。
このようにプレッシャーやストレスが高まった状態で、良いパフォーマンスを出せる人材をメンタルタフネスのある人材と呼ぶ。
ビジネスシーンでも同様に、ストレスやプレッシャーがかかる状況で、パフォーマンスを出さなければならないシーンが多々あることから、
メンタルタフネスの概念に注目が集まっている。
基本的には、ストレスに対する正しい知識を身に付けたり、ストレスに対する対処行動を学習していくことが
メンタルタフネスの獲得につながるとされている。
一流スポーツメンタルトレーナーは、メンタルタフネスを育てる専門家である。

https://www.aemk.or.jp/word/ma12.html

参考② ストレス脆弱性理論

この理論は、環境由来のストレス(業務上又は業務外の要因による心理的負荷)と個体の反応性、脆弱性(個体側要因)との関係で
精神的破綻が生じるかどうかが決まるという考え方
で、ストレスが非常に強ければ個体側の脆弱性が小さくても精神障害が起こるし、
逆に個体側の脆弱性が大きければストレスが弱くても破綻が生じるとするものです。
因みに、この考え方は厚労行政の基本になっています。


日本製鉄社員「過労自殺」 残業急増、上司叱責も 労基署認定
11/17(木) 毎日

国内最大手の鉄鋼メーカー「日本製鉄」(本社・東京都)の社員だった水谷翔紀(しょうき)さん(当時28歳)が2020年2月に自殺したのは、残業時間の急増と上司の叱責による複合的な要因でうつ病を発症したためだとして、半田労働基準監督署(愛知県半田市)が労災認定したことが、関係者への取材で判明した。未経験の修繕業務を命じられて業務が増えたほか、上司に何度も責められて疲弊していた。遺族は今後、日本製鉄に損害賠償を求める方針だ。

認定は22年4月20日付。遺族側代理人の立野嘉英(よしひで)弁護士(大阪弁護士会)によると、水谷さんは10年に技術職で入社し、名古屋製鉄所(愛知県東海市)で施設管理を担当していた。19年10月、発電設備の定期修繕を1人で初めて任された。3カ月後には別の大型発電設備の修繕も担うようになり、残業が増えた。時間外労働は月76時間で、その前月に比べて3倍に跳ね上がっていた。

主な業務内容は修繕工事を安全に実施するための準備や検査だったが、20年2月の工期が迫る中、現場では作業が思うように進んでいなかった。水谷さんは短期間に計3回、同じ上司から「何を考えているんだ」などと叱責されていた。

2月6日朝、社員寮の駐車場で倒れている水谷さんが見つかった。この直前に9階の自室ベランダから転落したとみられ、搬送先で亡くなった。寮の自室には遺書が残されていた。

水谷さんは母親に「仕事がきつい。会社を辞めたい」と漏らしていたほか、1月中旬以降は交際相手に無料通信アプリ「LINE(ライン)」で仕事の悩みや不眠を訴えるメッセージを送信。「上司からボロカス言われた」「心身共に疲れた」などと記されていた。遺族は21年10月に労災を申請した。

半田労基署は、水谷さんが20年2月上旬にうつ病を発症していたと認定した。発電設備の修繕はミスの許されない緊張感を伴う業務だったとし、残業時間が3倍に急増したことで心理的な負荷がよりかかったと指摘。亡くなる前日も含めて近接した時期に上司による叱責も相次ぎ、自殺につながったと判断した。

日本製鉄は取材に「個人情報に関わるため、コメントを差し控える」と回答した。


担当替えで残業月76時間、「何を考えているのか」と上司は叱責…日本製鉄の28歳労災死
2022/11/17 読売

日本製鉄名古屋製鉄所(愛知県東海市)の社員だった水谷 翔紀しょうき さん(当時28歳)が2020年2月に自殺したのは、残業の急増と上司の 叱責しっせき によりうつ病を発症したためだとして、半田労働基準監督署(同県半田市)が労災と認定していたことがわかった。認定は22年4月20日付。

遺族と代理人の弁護士によると、水谷さんは10年4月に技術職として入社。19年10月から経験のない大型発電設備の修繕担当になって業務量が増え、20年1月は時間外労働が76時間に上り、前月より51時間増えた。上司とのトラブルもあり、「何を考えているのか」などと叱責されたという。

労基署が開示した文書では、こうした複合的な要因で20年2月上旬頃、うつ病を発症したとしている。

遺族によると、水谷さんは2月6日朝、社員寮の駐車場に倒れているところを発見された。9階の自室から転落したとみられ、病院で死亡が確認された。自室に遺書があったという。

遺族は同社に損害賠償を求める方針。母親の友美さん(65)は「異変に気づいてあげられず、悔やんでも悔やみきれない」と述べた。

同社は取材に「個人情報に関わるためコメントを差し控える」と回答した。

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