職員自殺 新潟市に賠償命令…地裁判決 パワハラは認定せず
2022/11/25 読売
新潟市で2007年5月、市水道局の男性職員(当時38歳)が自殺したのは上司のパワーハラスメントやいじめが原因だったとして、
遺族が市に約7900万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が24日、新潟地裁であった。
島村典男裁判長は、パワハラやいじめの存在は認めなかったが、仕事で悩む男性への配慮を怠ったなどとして市側の過失を一部認定。
市に約3500万円の支払いを命じた。
判決によると、男性は07年4月から、未経験者には比較的難しい業務を担当したが、4月中に必要な業務を終わらせられず、
5月の連休明けに上司に 叱責(しっせき) されることを恐れて精神的に追い詰められ、自殺した。
男性の自殺を巡っては、上司が他の職員の前で繰り返し説教するなどパワハラを行ったとして、
11年に公務災害と認定されたが、市側は認定内容を否定。謝罪も拒み、遺族が提訴した。
島村裁判長は判決で、男性が不慣れな業務について指導を受け、質問できる環境づくりを上司が怠った過失を認めたが、
男性が自ら周囲に相談しなかった点を考慮して賠償額を減額した。
公務災害認定と判断が異なる点については、認定手続き時にパワハラを証言した同僚の陳述の変遷を指摘。
市から圧力を感じた可能性を考慮する必要があるとしても、認定手続き時の陳述を証拠採用できないとした。
男性の妻は、判決後の記者会見で「パワハラが認められず残念。市は猛省し、実効性のある再発防止策を講じてほしい」と話した。
一方、市は「判決内容を精査のうえ対応したい」とのコメントを出した。
以下、報道からの感想です。
(1)「公務災害と認定されたが、損害賠償額が減額」
通常、公務災害を認定されれば、民事では殆ど争う余地がないのですが、
当事案では、市側が「認定手続き時にパワハラを証言した同僚の陳述の変遷」を突いた結果、
認定手続き時の陳述を証拠採用されず、結果、損害賠償額が減額されています。
(2)「男性が自ら周囲に相談しなかった」
司法は男性が男性が自ら周囲に相談しなかった点を指摘しましたが、当該職員が果たして相談できる状況、
心情、職場環境にあるのかどうか疑問を感じます。
「言うは易く行うは難し」の典型でしょう。裁判官に問いたいですね。「あなたならできますか?」
(3)「質問できる環境づくりを上司が怠った過失を認めたが」
上記(2)の関連ですが、会社側と上司との双方に過失があったと考えます。
最近の労働環境では、何でもできる、何でもこなす所謂「ゼネラリスト」は存在価値がなくなっています。
一般論として従前に比して、各業務が格段に複雑化、高度化していますので、
他部門から異動してきた人材には、十分な情報提供と研修時間が必要なのです。しかし、それがありませんでした。
(4)「認定手続き時にパワハラを証言した同僚の陳述の変遷」
パワハラやいじめの存在を認めなかった理由になっています。
一方で、「市から圧力を感じた可能性を考慮する必要があるとしても」と司法はエクスキューズしていますが、
市側と同僚職員の「ちから関係」を考慮すれば、やりすぎでしょう。
(5)「市から圧力を感じた可能性を考慮する必要があるとしても、認定手続き時の陳述を証拠採用できないとした」
ということは、使用者側の「圧力」は、ある程度まで認められることになります。
結論として、下世話になりますが、司法機構に起きている実情を重ね合わせてみると、
当判決を言い渡した裁判官も業界の不条理を感じているのでしょうね。
中小規模の企業経営者や、企業に就労している労働者にとっては、参考にしなければならない裁判です。