日々是マーケティング

女性マーケターから見た日々の出来事

音楽配信と電子書籍

2012-01-11 19:23:30 | ビジネス
先日、朝日新聞に「米音楽産業 激変の波」という記事が掲載されていた。
記事の内容の中心は、いわゆる「ダウンロード」によって音楽を楽しむ人が増えることで、低価格化が進み、音楽市場そのものが縮小する傾向にある、というモノ。
日本ではまだ「定額・聴き放題」というネットサービスが始まっていないが、いずれは日本でもこのようなサービスが開始されるかも知れない。

私がこの記事を読んで、考えたのは「音楽を作るコスト」という点と、電子書籍にもこのようなコトが起きるのではないか?という点だった。

昨年暮れ、書籍の「自炊化」についての話題があった。
まだまだ日本の出版社が積極的ではない「電子書籍化」に、自主的に本をスキャンし配信をするサービスに対して、出版社側や作家さんたちが問題視したのである。
この話題を知ったとき、30年以上前に起きた「レンタルレコードによる複製」という問題を思い出した。
この問題の発端は、「レコードを借りて、自宅でカセットテープなどに録音し、音楽を楽しむ」というコトが、著作権に反しているのではないか?というところから始まった。
もともと、レコード業界では「レンタルレコード」という商売を認めない、というトコロがあった。
しかし現実は、レコードを気軽に買えない(当時はLPレコード1枚2,500円くらいが相場だった)若年層を中心に「レンタルレコード店」は支持され、レコードからCDになると、音質の劣化が少ないためにますます人気を博すようになってきた。
そこでレコード業界が中心になって出した対策案が、発売後一定期間レンタル店で取り扱わない、というコトだった。
その当時のレコードやCDには「個人で楽しむために録音する場合のみ、認められています」という趣旨の注意書きまでジャケットに印刷されていた。

今では、音楽配信そのものが当たり前のコトになってしまっているので、「何でそんなことが問題になったの?」と、思われる若い方もいらっしゃるだろう。
実は、このような注意書きや規制がなくなったのは、「音楽配信」を各レコード会社が行うようになってからなのだ。
と同時に、上述したとおり楽曲の単価も下がりはじめた。

ただ、このような状況になりつつある現在、個人的に懸念しているのは「ヒット曲は生まれても、ヒットアルバムは生まれないのでは?」というコト。
1枚のアルバムを作るために創られる楽曲の数々は、アーティストたちにとってはどれも大切なモノだろう。
しかしその全体を聴くこと無く、CMや映画、テレビドラマなどで取り上げられた一部分だけで、そのアーティストやバンドを知ったつもりになる、というコトに懸念というか違和感があるのだ。
音楽が身近になるコトは素敵なコトだと思うが、その素敵なクリエイティブの全体像を見ることが無い、というのはとても残念なことのように思う。

「電子書籍」の場合、どのような発展・進歩となるのかは、まだわからない。
ただ、「音楽配信」というお手本があるのだから、そこから学ぶべき点はいくつもあると思う。
単に「自炊化反対」では、時代の流れに遅れてしまうだろう。
しかし、忘れてはいけないのは「無から創ることへの対価」という点だ。
なんとなく、その視点が抜けて「電子書籍反対VS自炊」が語られているような気がしている。

そんな音楽業界だが、この記事が掲載される数日前に米音楽業界、楽曲販売が7年ぶりに上昇という記事も掲載されていたことも付け加えたい。