はんどろやノート

ラクガキでもしますか。

終盤探検隊 part115 ≪亜空間最終戦争一番勝負≫ 第14譜

2019年04月11日 | しょうぎ
 指し手  △5九金


    [鏡と、鏡のかけらのこと]

 あるところに、ひとりのわるい小人の魔ものがいました。それは魔ものの中でも、いちばんわるいほうのひとりでした。つまり、「悪魔」です。ある日のこと、悪魔は、たいそういいごきげんになっていました。というのは、この悪魔は、まことにふしぎな力をもつ、一枚の鏡をつくったからでした。つまり、その鏡に、よいものや、美しいものがうつると、たちまち、それが小さくなり、ほとんどなんにも見えなくなってしまうからです。ところが、その反対に、役に立たないものとか、みにくいものなどは、はっきりと大きくうつって、しかもそれが、いっそうひどくなるというわけです。たとえようもないほど美しい景色でも、この鏡にうつったがさいご、まるで、煮つめたホウレンソウみたいになってしまうのです。どんなによい人間でも、みにくく見えてしまいます。さもなければ、胴がなくなって、さかさまにうつってしまうのです。(中略) 「こいつは、とてつもなくおもしろいや」と、悪魔はいいました。たとえばですよ、なにか信心深い、よい考えが、人の心の中に起こってきたとしますね、すると、鏡の中には、しかめっつらがあらわれてくるのです。小人の悪魔は、自分のすばらしい発明に、思わず、吹き出してしまいました。
   (中略)
 そして、それが、人間の目の中にはいると、そこにいすわってしまうのです。そうすると、その人の目は、なにもかもあべこべに見たり、でなければ、物のわるいところばかりを、見てしまうようになるのです。なにしろ、一つ一つの、ほんの小さな鏡のかけらでも、鏡ぜんたいと、同じ力を持っているのですからね。

     (『雪の女王』ハンス・クリスチャン・アンデルセン著 矢崎源九郎訳 新潮文庫)


 ハンス・クリスチャン・アンデルセンは19世紀、デンマーク生まれの作家。
 そして『雪の女王』は、アンデルセンのよく知られている作品である。しかしその物語の中の「鏡」のことまで覚えている人はどれくらいいるだろう。

 アンデルセンの作った『雪の女王』という物語は、女の子ゲルダが、<雪の女王>の虜(とりこ)になってしまった男の子カイを救出に行く物語である。
 しかし<雪の女王>はカイを強引にさらっていったというわけでもない。いつのまにか、ふらふらと<雪の女王>のそりの中に座って、おとなしく<女王>の城まで連れ去られてしまった。
 「諸悪の根源」という言葉があるが、この場合、<雪の女王>がそれだったというわけではない。

 根本の原因は「鏡」だった。
 悪魔が面白がってつくった「鏡」が、あるとき粉々に割れてしまった。それが小さな小さな破片となって世界中にばらまかれることとなった。
 その「鏡」のとても小さな破片の一つが、男の子カイの目にたまたま入ったので、その瞬間からカイは何かが変わってしまった。それがこの事件の始めにあった原因だ。

 しかし、この物語は、女の子ゲルダが、見事に「カイ救出の旅」をやりとげ、「鏡」のかけらの災いを消し去ることに成功する。女の子の一途な気持ちと行動がもたらしたハッピーエンドの物語である。



<第14譜 まぼろしの勝ち筋があとになって次々と…>

4二銀左図
 先手の「3四歩」に、図の「4二銀左」が、後手の≪亜空間の主(ぬし)≫の用意していたであろう“勝負手”であった。
 この手に意表をつかれた我々(終盤探検隊)は、動揺し、しかし同時に、冷静になれと自分たちに言い聞かせ、「▲9一竜」を選択したのであった。

 だが、後でこの図を調査研究してみると、ここで「4一角、3二歩、5八金、同と、9一竜」、あるいは、「5八金、同と、9一竜」と指せば、はっきり先手が良くなる順が存在することがわかった。(前回の譜で紹介した)

 そしてさらにこの図を精査していくと、他にも先手勝てるかもしれないというほどの有力手が浮上してきたのだ。

 ▲6五歩、それからもう一つ、▲7三歩成である。

 その調査結果を、今回の譜で以下報告していきたい。 


6五歩 の調査研究]

 なぜ、我々は後手「4二銀型」に対しての▲6五歩について、本番の戦いにおいて考えることをしなかったのか、まったく不思議である。
 我々はこの「最終一番勝負」の直前に、「3二銀型」と「3四銀型」に対しての6五歩の攻め(これをそれぞれ『桃太郎作戦』、『桃太郎作戦Ⅱ』と名付けて)研究調査していたのである。タイミングは違うが『赤鬼作戦』でもこの6五歩の攻めは出てきていて、有効だと知っていた。
 それなのになぜかこの時には「6五歩」の攻めがあることをすっかり忘れてしまっていたのである。
 ≪ぬし≫のもたらすなんらかの魔法にかかっていたのであろうか。それを考えても、≪ぬし≫の勝負手「4二銀左」の一手は、たしかに成功していたと、後からみても思えるのである。

後手6五歩図1
 この「6五歩」(図)に、5五銀上と逃げると、7三歩成で、これははっきり先手が良い。
 だからここは後手「5九金」と、金を取る。
 以下、「6四歩、同銀」(次の図)

後手6五歩図2
 結論を先に述べておくと、この「6五歩」の作戦は成功で、先手が勝てる。
 ここで2つの手があり、一つは「▲2五飛」であり、もう一つは「▲9一竜」である。どちらも先手良しというのが我々の戦闘後の調査研究の結論である。
 「▲2五飛」は、後手陣の弱い「2三」に利かせつつ、後手の7五金をけん制する(打ってくれば同飛と取って優勢)というもの。

 その手もあることをここで指摘しておき、以下は、「▲9一竜」(次の図)からの指し方を明らかにしておきたい。 

後手6五歩図3
 「9一竜」(図)と進め、後手7五金を打たせて勝つという方針を取る。

 手番の来た後手の有力手は、(1)7五金 と、他に (2)6六歩 と、それから、(3)6三桂

変化7五金図01
 まず7五金(図) から。
 7七玉、8五桂、8八玉と進む(次の図)

変化7五金図02
 ここで7六桂、9八玉、7七桂成で、先手玉に“詰めろ”がかかる。
 しかしそこで8九金と香車を温存して受け、6八とに、4一角、3二歩、3三香(次の図)

変化7五金図03
 と攻めるのが、前譜でも学習した後手「4二銀型」の陣形の攻略法で、この図は「先手勝ち」。

変化7五金図04
 7六桂ではダメなので、代えて7六金(図)とする。
 これには7九香。この展開も前譜で出てきたが、その時は、「5八と型」だった。今回は「5七と型」なので、ここで“6七と”がある。
 6七と、7六香、7七桂成、9八玉、7八とに、8九銀と受ける(次の図)

変化7五金図05
 さあ、先手は勝てるだろうか。
 ここから<a>8九同とと、<b>6六歩が考えられる。
 <a>8九同とは、6六角、5五銀引、7七角で、成桂を抜く。
 しかしまだ8五桂からからみついてくる。
 そこで―――

変化7五金図06
 3三桂(図)という痛快な手があった。
 同桂は、1一角、同玉、3二金で、先手の勝ちが決まる。放っておけば、3二金、同玉、4一角以下後手玉詰み。
 なので後手3二歩だが、4一飛、3一銀打、2一桂成、同玉、5九角と進めれば、後手に持駒の銀を自陣に使わせたので後手の攻めが細くなり、はっきり先手良し。
 なおも9九と、同玉、9七桂成という攻めはあるが、それには1五角(次の図)

変化7五金図07
 この手は2二金、同玉、3三金以下の“詰めろ”になっており、その詰みを4四銀と防いでも、4二角成で“受けなし”。
 だから後手は2四桂でがんばるしかなさそうだが、3五桂、2二香に、9八金といったん受けて、先手勝勢である。

変化7五金図08
 8九とだと、6六角で成桂を抜かれてしまう――ということであれば、6六歩(図)が当然有力手として考えられる。次に8九とや6七歩成が入ると先手玉は受けが厳しくなる。
 しかし、ここは先手が勝てる図になっている。一例として、3八飛からの攻防を紹介しておこう。
 3八飛(3三角以下の詰めろ)、3二歩、7八銀、同成桂、同飛、6七歩成、3八飛(次の図)

変化7五金図09
 ここで後手6五銀は、3三歩成、同銀、4一金があって、先手勝勢になる。
 なので、4七銀不成と、先手は飛車を攻めて移動させる。先手は3五飛。
 以下、7八と(詰めろ)、9六歩、7七銀(次の図)

変化7五金図10
 後手の7七銀(図)は攻めとともに、先手6六角を防ぐ意味もある。
 しかしここはもう手番の先手が「どう決めるか」という場面で、手はいろいろある。1五桂からの攻めを示しておく。
 1五桂(1一角、同玉、2三桂不成以下の詰めろ)、3一桂、4一角、5六銀成、2三桂成、同桂、2四金(次の図)

変化7五金図11
 これで先手の勝ちが決まった。2三金、同玉、1五桂から詰ます狙いだが、それを3一桂と受けても、3三角以下の詰みがある。


変化6六歩図01
 後手(1)7五金の手に代えて、(2)6六歩(図)だとどうなるだろう。 
 7五金をすぐ打たないところが後手の工夫したところで、もし先手が4一角、3二歩、3三香とやってくれば、後手は香車を入手することになるので、“8四桂”と打って先手玉を詰ます狙いである。7五金を保留することで8四桂からの攻めも選択できるわけだ。
 といってこの6六歩をうっかり同玉と取ると、8五桂としばられて、先手は負けになってしまう。

 ではどうするか。4一角は、とりあえず打つ(次の図)

変化6六歩図02
 後手は3二歩。 (代えて3一金は、5二角成、同歩、6一飛で、先手良し)
 3二歩に、先手5二角成とする。 これを同歩は、3三角以下詰みがある。
 5二角成以下、7五金、7七玉、6七歩成、8八玉、7六桂、9八玉、7八と、8九香(次の図)

変化6六歩図03
 後手陣に受けはもうないので、後手は先手玉に“詰めろ”でせまるしかない。だから、8九と。
 それには、7七角と王手で打って、後手6六歩。これでこの瞬間、先手玉の“詰めろ”は解除された。
 よって、4二馬で、先手勝ちになる。

 ではこの図から、8八桂成、同香、7六桂の“詰めろ”にはどうするか。
 8九銀と受けても勝ちはあるが、まだたいへん。それより、後手玉に“詰み”が生まれている。

変化6六歩図04
 4四角から“詰み”。(他の詰まし方もある)
 この詰み筋が生まれたのは先手に「桂」が入ったから。
 4四同歩、3三歩成、同銀(同桂の変化のときに桂が必要になる)、3四桂、同銀、3一銀、同玉、5一竜、2二玉、3三金(次の図) 

変化6六歩図05 
 以下、詰み。

 このようにして、(2)6六歩 の変化は、4一角~5二角成の攻めで先手勝てる。


変化6三桂図01
 さらに「後手6五歩図3」(先手9一竜)まで戻り、そこで後手 (3)6三桂(図)以下の攻防を見ておこう。
 6三桂は、次に7五銀とする狙い。

 調査の結果、ここで、先手の勝ちへとつながる道筋が2つあるとわかった。
 7三歩成と、4一角である。
 どちらも、簡単に勝ちになる道ではないが、我々の研究では確かに先手勝ちになったのだ。

 ここでは7三歩成から続く道のほうを示しておく。
 以下、7五銀、8五玉に、9四金(次の図)

変化6三桂図02
 後手の9四金(図)もこれが最善で、代えて8四金、9六玉は、先手良し。
 9四金には、7四玉しかない。(9六玉だと8四桂の一手詰め)
 7四玉に、8四金、6五玉で、次の図。

変化6三桂図03
 ここで〔ア〕5三金で、先手玉は絶体絶命に見える。
 他に〔イ〕4四歩、〔ウ〕5三桂もあり、先手の受けがあるのかどうか。
 (〔エ〕6四歩、5四玉、5三金、4五玉は、後手の4六銀が浮いているので後手負けになる)

変化6三桂図04
 まず〔ア〕5三金(図)から。
 先手玉はたしかに“絶体絶命”を思わせるのだが、ここで3三角と打ってどうなるか(次の図)

変化6三桂図05
 すなわち、3三角(図)以下、後手玉が詰んでいれば先手が勝つのである。
 3三同桂、同歩成(次の図)

変化6三桂図06
 ここで3三同銀は、3四桂と打つ手があって、同銀、1一角、同玉、2一金、同玉、5一竜以下、後手玉は詰んでいる。
 したがって、図から後手は3三同玉。
 そこで3六飛、3五角(最善と思われる応手)、4五桂(次の図)

変化6三桂図07
 厳密には後手玉は詰んではいなかった。しかし、4四玉、5三桂成となって、あの金を取って先手玉も“詰めろ”を解除できた。5三桂成は後手も同銀しかなさそうだ。
 そこで3四金と打ち、同玉、2五角、同玉、2六金(次の図)

変化6三桂図08
 2六同角、同飛、3四玉、2五銀、3三玉、3四香、2二玉、3三角(次の図)

変化6三桂図09
 詰んだ!!

 つまり、後手〔ア〕5三金は3三角以下「先手勝ち」となる。

変化6三桂図10
 〔イ〕4四歩(図)にはどうすればよいか。この手は、次に後手6四歩、5四玉、5三金の詰みがあり、6三ととしても、5三桂、同と、6四歩、5四玉、5三金で意味がない。
 これまた先手“絶体絶命”を思わせるが、ここで3三歩成という技がある。

変化6三桂図11
 3三同銀だと、先ほどの6四歩以下の先手玉の詰めろが解除されるというのがポイントで、それは4一飛で先手が勝ちになる(以下△4二銀には6二角、△3一歩には6三と同金3四桂)
 また3三同玉も3四香から後手玉が詰む。
 したがって、3三同桂と後手は取ることになる。

 そこで先手はどうするか。次の手がある(次の図)

変化6三桂図12
 5四銀(図)と打つ手である。
 これで、後手は6四歩が(打ち歩詰めの反則になるので)打てない。うかうかしていると先手6三と(桂馬を取って3四に打つ)があるし、先手4一角(詰めろ)もある。
 なので後手は5三桂と打ち、同銀不成と応じ(これで桂馬を入手したので後手玉に3四桂からの詰みが生じている)、6四歩、同銀成、同銀、7六玉、6五銀、7七玉、2五桂(後手玉の懐を広げ詰めろを解除)、4一角(次の図)

変化6三桂図13 
 4一角と打って先手勝ち(3二歩には、5二角成)

変化6三桂図14
 この図は、第3の手〔ウ〕5三桂に、5四玉としたところ。
 ここで5六とという手がある。またここで4四歩にはどうすればよいのだろう。

変化6三桂図15
 5六とには、5七香で受かっている。

変化6三桂図16
 では4四歩にはどうするか。この手は次に後手4三銀が狙いなので、その手を受ければよい。3三歩成、同桂、4一飛を紹介しておく(次の図)

変化6三桂図17
 4一飛(図)が“詰めろ逃れの詰めろ”である。3一歩と詰みを防げば、6一角で、次に5二角成を狙う。
 4一飛に、後手は有効手がなくなった。
 4三銀、同飛成、同金、同玉くらいしかないが、飛車一枚ではどうにもならず、先手勝ち。


 以上の調査により、「後手6五歩図3」から後手 (1)7五金 と、 (2)6六歩 、および、(3)6三桂 以下は「先手良し」となった。

後手6五歩図1
 よって、▲6五歩 で先手勝てる、と結論したい。



4二銀左図
 そしてここで、さらに7三歩成でも勝てそうだとわかってきたのであった。


▲7三歩成 の調査研究]

 以前、≪亜空間戦争≫において、我々は「7三歩成」に、『白波作戦』と名前を付けて、これで勝てるのではないかと試してみた。

5八金図(夏への扉図)
 「3二銀型」。 ここで7三歩成は先手勝てなかった。  

3四同銀図
 「3四銀型」(上の図から3三歩、同銀、3四歩、同銀と進めたところ)
 ここで7三歩成もチャレンジしたが、先手敗れた。

 こういう体験が蓄積されて、ここでも、「7三歩成では勝てない」と、先入観が出来上がってしまっていたようである。

7三歩成図1
 さて、今回直面した新型――「4二銀型」――ここでの7三歩成は、どうだろう。

 ▲7三歩成 (図)に、同銀は、8三竜で先手良しになる。
 よって後手は5九金と金をとるが、先手はそこで7四ととする(次の図)

7三歩成図2
 「3四銀型」の場合、ここで「8四桂」があるので、先手負けになっていた。(「3二銀型」も同じ)
 ところがこの「4二銀型」の場合は結論が逆になるのである!(ここが最重要ポイント)

 8四桂、同と、7五金、7七玉、6五桂、8八玉、6七と、4一角、3二歩、3三桂(次の図)

7三歩成図3
 この攻めがあるので、先手が勝ち。
 以下は、3三同桂、同歩成、同銀に、3四桂と打つ手がある。続いて同銀、1一角、同玉、3一飛(次の図)

7三歩成図4
 2一角に、3二角成で、後手玉は“必至”である。

7三歩成図5
 今の一直線の攻め合いでは後手が負けになる。なのでこの図は、途中で後手が3二歩(図)と受けた場合。
 これには4一角がわかりやすい。このままならやはり3三桂と打ちこめば先手の勝ちだ。

7三歩成図6
 なので、後手はさらに4四銀と「3三」を強化する。
 これには、5二角成、同歩、4一飛、3一角、5四桂と攻めていく。
 以下、5三銀右引、4二桂成、同銀、6四角、5三銀引(代えて5三歩には5二金)、4六角(次の図)

7三歩成図7
 次に3三銀以下の“詰めろ”になっている。後手受けもない(5一桂は、同竜、同銀、3三銀から詰む)ので、先手勝ちが確定した。

7三歩成図8
 「7三歩成図2」まで戻って、先手7四とに対して、7三桂(図)とする有力手がある。
 これには先手8三竜。以下、5五銀引に先手の指し手が難しい。
 どうやら8六歩が好手のようだ。先手はどこかで7三の桂を取って、4一角、3二歩、3三桂が実現すれば勝ちになる。
 後手は9五桂(7三となら7五金で後手勝ち)
 先手は8五歩と8六に空間を作る。8六~9五という逃走ルートができた。
 形勢は難しく、ソフト「激指」はむしろ後手持ちだが、最新のソフトを使った研究では先手が良くなる。
 以下、5六と、6七歩(次の図)

7三歩成図9
 とはいえ、この局面は最新ソフトでも評価値的には先手が苦しい。ところがこの後を研究していくと、どうやら先手が良くなる。それほど“難しい局面”なのだ。
 この図で「6七同と」も後手の有力手で、以下6四と、同銀上、6七玉、6五桂、7六玉は先手厳しい戦い。しかし6四と、同銀上、1五角(詰めろ)、3二歩、6七玉で、続いて6五桂には5九角と金を取る手があるので、先手良しになる。

 この図から「7五歩、同と、6六歩」の展開を見ていく。
 後手7五歩――これを8六玉とかわしたくなるが、それだと9四歩とされ、次に後手7六金、9六玉、8七桂成を狙われて、先手が悪い。
 だから7五歩は同とと取り、後手6六歩には、2五飛と打つ(次の図)

7三歩成図10
 これが攻防の飛車打ちで、ここで先手に“希望の道”が開けてきた。後手の「4二銀型」のこの陣形は「2三」が弱点で、いつもこの2五飛があるのだ。
 次に先手4五角が狙いでそれを打たれると後手まずい。かといって金を受けに使うようでは後手勝てない(2四金は、同飛、同歩、3三歩成、同銀、4五角、3四歩、4一角)
 なので後手4四歩と受けるが、8六玉、9四歩、6四と、同銀引(同銀上だと5四角があった)、5四歩(同銀に5三歩が狙い)、7五金、9六玉、6二銀、8二角(次の図)

7三歩成図11
 9一の香を取って、2六香と打てれば先手勝ち。
 6五銀、9一角成、7四銀、2六香、8五銀、同竜、同金、同飛、同桂、同玉(次の図)

7三歩成図12
 先手勝勢。
 きわどかったが、後手の「4二銀型」の弱点の「2三」を狙った2五飛の好手が、先手を勝ちに導いた。


7三歩成図1
 以上の調査結果から、▲7三歩成 も先手勝ち筋と認定する。




4二銀左図(再掲)
 さらにもう一つ、この図から先手を勝ちに導く「新たな手」が発見された。


8二飛 の発見]
 
8二飛図
 ▲8二飛(図) である。
 以下、6二歩に、8三飛成で先手良し、というもの。(詳しい解説は省略する)
 
 なぜ我々がこの手を調べる気になったかというと、それは次の参考図の手を知っていたからなのだ。

参考図(3四銀型での8二飛)
 「3四銀図」において、コンピューターソフト「elmo」が一推ししていた手が「8二飛」(図)である。
 それ以前に我々はこの「3四銀図」での勝ち筋を探しているときに、7二飛(6二歩に7三歩成)や、8三竜の手を調べ、それらはどうやら先手勝てないという結果になっていた。
 だからそれに類似している「8二飛」という手は盲点になっていて、「激指」も一応この手をいくつかの候補手の中に挙げていたのに、我々は気に止めなかった。
 それを「elmo」が第1番手の候補手として「8二飛」を挙げていたので、我々は急いでこれを調べ、これも「先手勝ち筋の一つ」と認識できたのだった(これは『終盤探検隊part112』で紹介している)
 
 ところがその「elmo」も、「4二銀左図」においては、▲8二飛 は有力手としては示していなかったし、ほかの最新ソフト群でも目立たない手だった。
 けれど念のためにと我々が調べてみれば、確かにこれは「先手良し」になる手なのだとわかったのだった。そのような「人間」+「ソフト」の知恵の積み重ねがあって、上の ▲8二飛 は発見できたのである。




 以上は、本番の戦いの後に、最新ソフトなどを使って調査した結果であり、つまり、出現することのなかった “まぼろしの勝ち筋” 群である。


第14譜指始図(▲9一竜)
 「亜空間戦争最終一番勝負」の実戦は、それらの“まぼろしの勝ち筋”の群れを捕らえることなく、「▲9一竜、△5九金」 (指了図へ)と進行した。

 我々は、いくつもの“まぼろしの勝ち筋”を逃したようだ。

 だからといって、「終盤探検隊は失敗した」とは思ってほしくない。


第14譜指了図(△5九金まで)

 我々は、▲9一竜 で勝つ道 を選んだのだ。


第15譜につづく

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