≪最終一番勝負 第18譜 指始図≫ 5五銀引まで
指し手 ▲9三角成
[ 八咫鏡(やたのかがみ)]
故(かれ)ここに天照大御神(あまてらすおおみかみ)見畏みて、天石屋戸(あまのいわやと)を開きて、さし籠りましき。ここに高天原皆暗く、葦原中國(あしはらのなかつくに)悉に闇(くら)し。これに因りて、常夜往きき。ここに萬の神の聲(こえ)は、さ蠅なす満ち、萬の妖(わざわひ)悉におこりき。ここをもちて八百萬神、天の安の河原に神集ひ集ひて、高御產巢日神(たかみむすびのかみ)之子、思金神(おもいかねのかみ)を思はしめて、常世長鳴鳥(とこよのながなきどり)を集めて鳴かしめて、天安河の河上の天堅石を取り、天金山の鉄(まがね)を取りて、鍛人天津麻羅(かぬちあまつまら)を求ぎて、 伊斯許理度売命(いしこりどめのみこと)に科せて鏡 を作らせしめ、玉祖命(たまのおやのみこと)に科せて、八尺勾璁(やさかのまがたま)の五百津之御須麻流之珠(いほつのみすまるのたま)を作らしめ、天兒屋命(あめのこやねのみこと)、布刀玉命(ふとだまのみこと)を召して、天香山の真男鹿(まおしか)の肩を内抜きに抜きて、天香山の天の波波迦(ははか)を取りて、占合(うらなひ)まかなはしめて、天香山の五百津真賢木(いほつまさかき)を根こじにこじて、上枝に八尺勾璁の五百津之御須麻流之珠を取りつけ、中枝に八咫鏡(やたのかがみ)を取り繋(か)け、下枝に白丹寸手、青丹寸手を取り垂でて、この種種の物は、布刀玉命、布刀御幣(ふとみてぐら)と取り持ちて、天兒屋命、布刀詔戸言祷き白して、天手力男神(あめのたぢからお)、戸の掖に隠れ立ちて、天宇受賣命(あめのうずめのみこと)、天香山の天の日影を手次(たすき)に繋けて、天の真拆(まさき)をかづらとして、天香山の小竹葉を手草に結いて、天石屋戸にうけ伏せて踏みとぐろこし、神懸(かむがかり)して、胸乳をかき出で、裳緖を陰(ほと)に押し垂れき。高天の原動みで、八百萬の神共に咲(わら)いき。 (『古事記』天石屋戸神話より)
日本神話のなかの「天石屋戸(あまのいわやと)神話」である。
この中に、「鏡」が出てくる。三種の神器の一つ「 八咫鏡(やたのかがみ)」である。『古事記』のこの記述によれば、この時に、鍛人天津麻羅(かぬちあまつまら)と伊斯許理度売命(いしこりどめのみこと)がつくったことになっている。
天照大御神(あまてらすおおみかみ)が天石屋戸に閉じこもってしまったので、その女神を笑わせようと、ありとあらゆる手立てを講じたのだが、その一つの手が、「鏡」による魔術だったというわけだ。
この女の神様を笑顔にするために、みんなで全力を尽くすという、ユニークな神話であるが、最後に「八百萬の神共に咲(わら)いき」となって、みんなで笑うという素晴らしい結末になっている。
『古事記』の成立は天武天皇の時代であるから7世紀。つまり今から約1300年前。
しかし様々な“神話”を一つにまとめたのがこの時ということで、この「天石屋戸神話」自体は、もっと前からずっと語り継がれてきたのだろう。
<第18譜 まぼろしの「2五飛戦法」>
≪最終一番勝負 第18譜 指始図≫ 5五銀引まで
先手「6六角」に、後手は「5五銀引」(図)と応じてきた。
まあ、予想通りだ。
≪最終一番勝負 指了図≫ 9三角成まで
先手を持っている我々――終盤探検隊――は、予定通り、「9三角成」(図)。
ここで後手に、“8四金”と“9四歩”の選択肢がある。
第19譜につづく
以下は、“戦後研究”である。
数手前に戻って――――
≪5九金図≫
<1>2五香 → 先手良し
<2>4一角 → 先手良し
<3>6六角 = ≪一番勝負≫で我々が選択した手
<4>8六玉 → 先手良し
<5>8五玉 → 先手良し
<6>2五飛 → ?
我々はこの将棋の“戦後研究”の中で、ここで <6>2五飛 がある可能性を発見した。
コンピューターソフト「激指14」はこの2五飛を7番目の候補に挙げていた。とはいえ、評価値は-707で「後手有利」としている。
しかし我々は、<4>8六玉や<5>8五玉の調査研究の中で“2五飛”と打つ手ががこの後手の「4二銀型」の陣形に対して有効であることに気づき、それならこの局面で「2五飛」もあるのではないかと思ったのだった。
2五飛基本図
この「 2五飛 」 の狙いは、受けては後手の指したい7五金をけん制している。
そして、攻めては、4一角、3二歩に、“3三香”の攻めを狙っている。「2五飛」と「4一角」と「9一竜」の3つの大駒が、「3三香」を加えることで、爆発的な破壊力のある攻めを生む可能性を持っているのである。その攻めに大いに期待したい。
そしてその攻めを封じる手段が後手にあるかどうかがポイントである。
2五飛基本図(再掲)
ここで考えられる後手の有力な応手は、次の9つ。
【1】7四歩
【2】5五銀引
【3】6五歩
【4】4四歩
【5】6三桂
【6】6五桂
【7】8四歩
【8】3五金
【9】3二歩
このように指し手の広い局面だが、一つ一つ調査結果を以下書いていく。
どれか一つでも、「後手良し」の結論に固まれば、その時点でこの「2五飛戦法」は終了となる。
変化7四歩図01
【1】7四歩(図)は、後手の狙いとしては次に7五銀である。
この 7四歩 は、最新ソフトが最善手として示した手で評価値は[ -432 ]で後手有利と示しているが、終盤探検隊がさらに先を調査した結果を先に言えば、この手には「4一角」と打って先手が勝てる。
変化7四歩図02
「4一角」に、「3二歩」(図)。
ここで「5二角成」と「3三香」の2通りの攻めがあり、この場合はどちらを選んでも、先手が有利になる。
この攻めが今回の先手の「2五飛戦法」の基本となる攻めなので、ここでは両方その内容を確認しておく。
まず「5二角成」から。
「5二角成」を同歩と応じると、3三金以下後手玉が詰むので、取れない。(この即詰みがあるのも「2五飛」の効果)
そこで後手は7五銀と攻めてくる。これには8五玉(7七玉は先手悪い)
以下、8二桂、8六歩(次の図)
変化7四歩図03
後手玉はまだ詰まないので、先手玉に後手が“詰めろ”で攻めてくれば、それを受けなければいけない。
ここで後手は9四歩。これも詰めろだ。
そこで7三角と打つ好手があった。8四歩(この歩を突かせることで後手の8四桂が消えた)、9六玉、7六金(次の図)
変化7四歩図04
部分的には先手がピンチ。8九香と受ける手が見えるが、9五歩、同玉、8三桂、9六玉、9五歩、同竜、5二歩で、先手負け。
ところが、ここで7三角を打った手の真価を発揮する手順が現れる。2三飛成と、攻めに転じるのである。以下、同玉、2四金、同玉、4六角成、3五金合、4二馬(次の図)
変化7四歩図05
後手玉は詰んでいた! 4二同銀、2五銀、同玉、2六銀以下、持駒の香車が威力を発揮して“詰み”となる。(7三角は“詰めろ逃れの詰めろ”だったのだ)
変化7四歩図06
先手の「5二角成」に、3五金(図)と打ってきた場合。
これにも切り返しがある。
変化7四歩図07
4四角(図)である。
これを同銀は4二馬だし、同歩は、2三飛成、同玉、2四金、同玉、1五金、2三玉、2四香までの“詰み”。
なので3三桂打のような手になるが、2六香、3一桂、3三歩成以下、先手が勝てる。
変化7四歩図08
もう一つの攻め筋が「3三香」(図)。
この攻めは後手に「香」が渡ったとき、そして場合によっては「角」を渡したときに、先手の玉が大丈夫かどうか、そこが重要な要素になる。
「2五飛」と設置しておいてこの「4一角~3三香」の攻めは、かなりの破壊力がある。
これを“同桂”と取るとその瞬間に2一金、同玉、2三飛成から後手玉が詰むので、“同桂”がない。これが後手の応手を限定している。
桂で取れないので、この「3三香」を取るとしたら、3三同銀しかない。以下、同歩成、同玉に、3四歩(次の図)
変化7四歩図09
これで詰んでいる。3四同銀に、4五銀、3三玉、3四金、4二玉、3二角成、同玉、2三飛成、4二玉、3三角、4一玉、5一角成、同金、4三竜以下。
変化7四歩図10
「3三香」に、3一銀(図)。
これには、5二角成。(同歩なら3二香成以下後手玉詰み)
変化7四歩図11
そこで 3三歩 と後手は「香」を入手。
ここで5一竜で勝てればわかりやすいが、それは後手の“思うつぼ”。 7五銀で先手玉が先に詰んで負けになる。
しかし“5一馬”があった(次の図)
変化7四歩図12
5一馬(図)は、“詰めろ逃れの詰めろ”。 3三馬、同桂、1一角からの後手玉の“詰み”を狙いつつ、この5一馬は8四に利かせている。
以下は、7五銀、8五玉、8四金、同馬、同銀、7四玉、4七角(王手飛車)、6五歩、2五角成、8三玉(次の図)
変化7四歩図13
“王手飛車”を食らっても、先手が優勢。(以下3四歩、5四歩、同銀、5一角が予想される手順)
変化7四歩図14
「5二角成」に対し、すぐ 7五銀(図)としたらどうなるか。
8五玉、8四金、9六玉―――ここまで先に決めておいて、そこで3三歩と「香」を取る。先手玉に“詰めろ”(9五香まで)がかかり、これは受けにくいが…(次の図)
変化7四歩図15
この場合は3二金(図)から、後手玉に“詰み”があるのだ。
後手の6四銀が7五銀と出てきて、5三の銀が“浮き駒”になっているので、この場合は“詰み”が生じている―――というからくりである。
3二同銀、3一角、同玉、5三馬以下。
変化7四歩図16
「3三香」に、3一金(図)。
この金打ちには、2通りの勝ち方があり、先手が勝てる。
一つは、3二香成、同金、1一角、同玉、3二角成という攻め方。
変化7四歩図17
以下、5八角に、8六玉(図)と逃げて、8四香には9六玉として、先手勝勢。
「2五飛」がしっかり受けに働いている。もしこの「2五飛」の存在がなかったら、7五銀、7七玉、6七角成、8八玉、6六馬、9八玉、2二香で、後手玉が受かって、後手勝勢になっているケースである。
変化7四歩図18
もう一つは、3二香成、同金に、5二角成(図)という攻め方。
5二同歩は、3三金、同銀、同歩成、同玉、3四歩、同玉、4五銀以下“詰み”がある。
(3三金に1一玉には、2一竜、同玉、2三飛成)
なのでこの馬は取れないが、後手6二桂と頑張る手でどうなるか。
先手は4一馬。この手は次に後手玉が詰むわけではないが、3三歩成、同銀、3一角からの寄せを狙っている。
以下、予想される手順は、7五銀、7七玉、8五桂、8八玉、7六銀、7八歩、3一歩、4五角(次の図)
変化7四歩図19
後手の攻め足が先手7八歩の受けで止まった。(攻めを続けるなら8四香だが8六金で受かる)
先手からは3三歩成、同銀(同金は2三飛成、同金、3二金以下詰み)、3一角、1一玉、3二角成の攻めがある。
なので後手は3一歩と受けに回ったのだが―――
4五角(図)と打って、「2三」を狙えば、後手はもう受けがない。(2四香としても、同飛、同歩、3三歩成以下詰み)
先手の勝ちが決まった。
変化5五銀引図01
【2】5五銀引(図)。
この手に対しても、やはり4一角と打って、3二歩に、「3三香」と「5二角成」と、どちらの攻めでも先手がやれる。
ここでは、「5二角成」を見ておこう(次の図)
変化5五銀引図02
「5二角成」の後、7五金、7七玉、6六銀、8八玉、7六桂、9八玉、7七銀成、8九香、9五桂、7九金と進めて、この図になった。
これで先手玉への“詰めろ”は続かないので、後手が攻めるとすれば6七と~7八とだが、6七とには、ここでも4五角がある。これでもう後手に受けがない。
4四歩と先に受けてその手を消すなら、4一馬と入り、6七とに、5一竜で、先手勝ち。
それなら、開き直って5二歩と馬を取って「詰ませてみろ!」と勝負してきたとき、どうやって詰ますか。(金香を受けに使ったため持駒が減っている)
“答え”は、3三角と打って、同銀、同歩成、同玉、3四歩、同玉、3五金、3三玉、2三飛成(次の図)
変化5五銀引図03
これで、“詰み”。
変化6五歩図01
【3】6五歩(図)。
これも、「4一角、3二歩、5二角成」でも、「4一角、3二歩、3三香」でも、どちらも先手良しになるというのが調査結果。
(ただしこの場合は、「4一角、3二歩、3三香」に、後手“3一金”以下の変化が難しく、「4一角、3二歩、5二角成」を選んだほうが、わかりやすく勝てる)
この手に関しての調査の内容は省略する。
変化4四歩図01
【4】4四歩 は、先手の狙い筋を先受けした手で、この図は、4四歩 に「4一角、3二歩」まで進んだところだが、ここで5二角成は、同歩と取られ、先手失敗する。「4三」のスペースがある関係で、後手玉が詰まないからだ。
しかしここで「3三香」の攻めならば、調べたところ、どうやら成立している。
「3三香」に、同銀 なら、(同歩成を保留して)5二角成とするのがよい。(次の図)
変化4四歩図02
これでわかりやすく「先手勝ち」になっている。
先手玉は詰まないので、後手は4二銀左引くらいしかなさそうだが、それには3三歩成とし、同銀(同桂は2三飛成以下、同歩は3二金以下詰み)に、5一竜で、先手勝勢である。
変化4四歩図03
「3三香」に、3一金(図)の場合、注意すべきことがある。
ここでも「5二角成」や「3二香成、同金、5二角成」は、“同歩”と取られて先手負ける。
そうなるとここは、「3二香成、同金、1一角」の攻め筋で勝つしかないのだが、単純にそれをやると、以下1一同玉、3二角成に、4三角と王手で打つ手があって、つくった馬を消されてしまう(以下形勢は不明)
ということで、それを見越して、正解手順は「3二香成、同金、5四歩」になる(次の図)
変化4四歩図04
5四同銀に、それから狙い筋の「1一角、同玉、3二角成」を決行すれば、後手はほぼ受けがなく、先手の勝ち。
なので、後手は5四同銀とはせず、3一歩と粘る。以下、5三歩成、同銀上。
そこでどうするか―――6一角が良いようだ。以下、7四歩に、8三角成(次の図)
変化4四歩図05
先手優勢。後手は先手玉を捕まえるのが難しいし、先手に桂馬の一枚でも入れば、途端に後手玉が(先手1五桂などがあって)ピンチになる。
変化6三桂図01
【5】6三桂(図)に対しても、「4一角、3二歩、3三香」と攻める。
(この場合、「4一角、3二歩、5二角成」は形勢不明の戦い)
変化6三桂図02
3三同銀 は、同歩成、同玉、5二角成で、先手優勢になる。
3一銀 も、5二角成が、次に3二香成以下“詰めろ”で、先手優勢。
変化6三桂図03
3一金(図)。
この場合、「3二香成、同金、5二角成」は、7五銀、7七玉、8五桂、8八玉、2四香以下、後手良しになる。
正着は、「3二香成、同金、1一角」のほう(次の図)
変化6三桂図04
以下1一同玉、3二角成に、5八角なら、8六玉。
先手玉は詰まず、後手玉は“受けなし”なので、先手勝勢。
変化6三桂図05
他に、「3三香」に、後手7五銀(図)という手がある。
これは、同飛と取る。(7七玉は先手悪い)
飛車が2筋からそれたこの瞬間に、後手3三桂。ひねった手順だ。
これには、3三同歩成、同銀、3一金と、ゆるまず攻める(次の図)
変化6三桂図06
3一同玉には、5二角成。4二金なら、5一竜でよい。
先手勝勢。
2五飛基本図(再掲)
【1】7四歩 → 先手良し
【2】5五銀引 → 先手良し
【3】6五歩 → 先手良し
【4】4四歩 → 先手良し
【5】6三桂 → 先手良し
【6】6五桂
【7】8四歩
【8】3二歩
【9】3五金
【1】~【5】 については、4一角と打ち、3二歩に、「5二角成」か「3三香」のどちらかの攻めで先手が勝てるとわかった。
他に、5六とや5五桂の手に対しても、この攻めで、先手が勝てる。
しかし、次の手からは、そういうわけにはいかない。
変化6五桂図01
【6】6五桂(図)は、先手の打った「2五飛」の横利きを止め、そして先手玉の下への退路(7七)を封じた手。先手玉に7五金の“詰めろ”がかかった。これではさすがに4一角と攻める余裕はないわけである。
先手は8六玉とする。(他に6六角~9三角成もある)
後手は8四歩とさらに“詰めろ”で迫る。
先手は9五金と応じる(次の図)
変化6五桂図02
後手の攻め、先手の受けという展開になったが、先手が次に8四金とすれば、もう先手玉は捕まらなくなるので、後手も甘い手は指せない。
なので、後手6三金。後手の勝負手である。6三金には、しめたとばかりに4一角と打ちたくなるが、それは後手の仕掛けた“わな”で、8五金、同金、同歩、同玉、7四金、同角成、9四金、9六玉、7四歩で、後手優勢となる。
6三金には、7九香と受ける。
それでも後手は7四金。以下、同香に、8五金、同金、同歩、9六玉、8四桂、8五玉、9四金、8六玉、7四歩(次の図)
変化6五桂図03
先手玉にまた“詰めろ”がかかっている。しつこい攻めだ。
先手は9六歩と逃げ道をつくる。(実はここで3三角と打てば後手玉は詰んでいるようだがその詰み筋は難しい。9六歩が実戦的だ)
9六歩、7五銀、9七玉、8五金、4一角、9六金、9八玉、3二歩打、3三金(次の図)
変化6五桂図04
3三同銀、同歩成、同玉、3四歩、同玉、4五銀、3三玉、1一角以下、“詰み”
変化8四歩図01
【7】8四歩(図)は、かなりの“強敵”である。
というのも、例の「4一角、3二歩、3三香」も、「4一角、3二歩、5二角成」もこの“敵”には通用しないのである。
それをまず確認しよう。
変化8四歩図02
4一角、3二歩と進めて、この図である。
ここで「3三香」は、後手に「3一銀」と応じられ、5二角成に、3三歩(次の図)
変化8四歩図03
後手が「香」を取った手が、次に7五香から先手玉への“詰めろ”になっており、この瞬間は後手玉は詰まない。これは先手まずい。(以下は、ほぼ互角のきわどい戦いになるが調査では最終的には後手良しになった)
変化8四歩図04
この図は、【7】8四歩 に、「4一角、3二歩、5二角成」の攻めを行った場合。
対して後手は6五桂(図)だ。
どうもこれで、先手が困っている。先手玉には、7五金と8五金の2つの“詰めろ”がかかっているが、それを受けるために6六角、4四歩、7三歩成としても、7五歩、同角、5二歩と応じられて、先手が勝てない図になっているようだ。(4四歩と受けた時に後手5二歩が可能になった)
ということで、4一角からの攻めはこの場合通用しないのか―――と思えたが、我々は新たな工夫を発見した。
変化8四歩図05
「4一角、3二歩」として、そこで「6五歩」(図)と打つのだ。
5五銀上なら、5二角成で、先手勝てる。
このまま無条件に6四歩~6三歩成となっては後手はいけないから、7五金、7七玉、6五銀 が考えられる応手。
そこで先手3三香。
変化8四歩図06
これで先手が勝ちになっている。3三同銀、同歩成、同玉には、5二角成で先手良しだ。
また、3一銀には、5二角成だ。このとき、6四の銀がいなくなったために、ここで後手が3三歩と香車を取ると、今度は――――(次の図)
変化8四歩図07
3二金(図)、同銀、3一角、同玉、5三馬から、後手玉は詰んでしまうのである。(これが“6五歩”の効果だ)
変化8四歩図08
というわけで、6五銀 の手に代えて、8五桂 と打ち、8八玉に、7六金と攻めてきたのがこの図。先手玉はまだ“詰めろ”ではないが、持駒に「香」が加わると詰む。
なので、ここで3三香は、(6四銀が生きていることも関係して)先手が負けになる。
しかしこの図では、別の勝ち筋が生じている。
変化8四歩図09
“4五角”と打つ手だ。 次に3三歩成から2三角成がある。
1一桂と受けても、2六香(図)と打てば、“数の攻め”で、先手の勝ちが確定する。
ということで、【7】8四歩 は、「4一角、3二歩、6五歩」で、先手良しとする。
変化3五金図01
【8】3五金(図)も考えられる手だが、これには4一角、3二歩、1一角という返し技がある。1一同銀に、3二角成。
そこで後手に手があるかどうか(次の図)
変化3五金図02
8四桂(図)に、8六玉、6八角、8五玉、7七角成、5五歩(次の図)
変化3五金図03
7七角成で後手は馬を自陣に利かせてかかっていた“詰めろ”を凌いだ。
しかし5五歩(図)とすれば、「先手良し」がはっきりする。同馬なら、自玉が安全になり、香を渡しても大丈夫なので、3三香として先手勝ち。
といって、他の手もない。7六馬は、9五玉、9四馬、8六玉で、もう一度7六馬は9五玉――これは“連続王手の千日手”の反則になるので、続けることはできない。
変化3二歩図01
さあ、この手、【9】3二歩 が最後の強敵―――つまり、“ラスボス”である。
ここで4一角は、3一桂と受けられると、継続手がない。(3一金も形勢不明)
どうやら 【8】3二歩 に対しては、「8六玉」が最善手ではないかと思われる(次の図)
変化3二歩図02(8六玉図)
「8六玉」の狙いは、第一は“入玉”である。
そう簡単に“入玉”できないが、ここで先手の番なら6六角~9三角成~9五玉で、ほぼ“入玉”できる。
ここから後手が何を指すか。それが問題だ。
有力手は、〔U〕5五銀引、〔V〕7四歩、〔W〕8四金。 それを順次見ていく。
変化3二歩図03
〔U〕5五銀引(図)は先手の「2五飛」の横利きを止めつつこの銀を活用しようという手。
この手には、9三竜が良いのではないかと思う。
対して、後手8四金なら、同竜、同歩、9五玉とし、以下7一桂には4五角(次の図)
変化3二歩図04
これで先手良し。3一桂には、2六香、6二金、4一金(後手玉を3一に逃がさない)と攻めていく。
またこの図で9二飛には、9四香と返す手がある。
この先手の4五角以下の攻めが有効になるのは、後手が桂を一枚7一に使ったからで、“入玉”と見せて桂を使わせ、その瞬間に“攻め”に転じるという戦略である。
変化3二歩図05
なので9三竜には7四歩(図)が本筋の手。
以下、7六歩、9四歩、9六歩とする。9六歩に代えて、9四同竜は、8四金、同竜、同歩、9五玉が想定されるが、これは先手自信なし。7三銀と引かれて活用される手があって、“入玉”は容易でない。
よって9六歩(次の図)
変化3二歩図06
ここで7三桂には、9四竜とし、8四金、同竜、同歩、9五玉―――今度は、先手成功の図となる。後手の7三桂が無駄手になったばかりか、7三銀と引く手を消しているために“入玉”がしやすい。
また、図で6七となら、8三竜以下、先手がやれる―――という研究結果になった。(この内容は省略する)
ということで、この図で「8四金」を本筋の手として見ていく。
ここで先手に6五歩という好手があった(次の図)
変化3二歩図07
6五同銀なら、5五飛ではなく、8五香として8四金を除去するのがねらいである。
6五歩に代えてすぐ8五香と打ちたいところだがそれは7五銀、同歩、同金から、打った香車が取られてしまうから先手が悪くなる。なので、6五歩、同銀に、8五香というわけである。
それなら先手成功だが、ここで後手も7五銀としてくる。(代えて6六銀もあるが6四歩、6七と、4五角、1一桂、2六香で、先手が勝てる)
7五銀以下、同歩、同金、9七玉、8五桂、9八玉、4四銀引(次の図)
変化3二歩図08
4四銀引(図)では、6六銀と前に出たいところだった。だがそれは4五角、1一桂、2六香で、後手に受けがなくなって、先手勝ちが決まってしまう。 それで4四銀と引いた。
先手は7九香。
後手は6七ととしたいが、それだと5六角(詰めろ「と金」取り)と打たれてしまう。
なので5六と。これは次に6六とと活用する意図。
そこで7五香(同歩に8六銀)という手が考えられる進行でそれもあるが、ここでは8三竜から先手がリードできるので、その筋を紹介しておく。
8三竜、6六と、8五竜(次の図)
変化3二歩図09
竜で桂馬を食いちぎる。
8五同金に、2三飛成、同玉、1五桂、2四玉、6八角(次の図)
変化3二歩図10
1五桂と打って、2四玉となったとき、3六銀と打てば、後手玉はだいたい受けがない。ところがこの場合、3八飛(王手銀取り)で、その銀を抜かれてしまう。
だからその前に、6八角と王手で打っておくのである。これで3五銀(桂)なら3六銀と打って、それで先手勝ちというわけだ。ここまで読み切っての、二枚の飛車切りである。
図で2五玉には、4五銀と縛って、先手勝ち。
変化3二歩図11
〔V〕7四歩(図)には、6六角と打つ。以下、5五銀引、9三角成、7五銀、9五玉、8四金、同馬、同銀、9四玉(次の図)
変化3二歩図12
ここまでは必然の手順。
ここで5八角の“王手飛車取り”があった。
5八角、8三玉、2五角成、8四玉、3六馬、8三香(次の図)
変化3二歩図13
先手良し。先手玉はまだ安全とは言えないので、実戦的には気を抜けない“これからの勝負”となるが、先手がリードしているのは確かだろう。(最新ソフトの評価値は+370)
変化3二歩図14
〔W〕8四金。 「入玉は許さないよ」という手。
これには7三歩成が有効手になる(次の図)
変化3二歩図15
ここで6七とや5六とは、4五角と打つ筋でと金を抜かれてしまう。
「7三同銀」を本筋として考えていくが、“5五銀引”という銀の活用も後手の有効手に見える。
それには―――(次の図)
変化3二歩図16
7六歩(図)と受けておき、以下、7五歩、4五角、3一桂、2六香、1一桂、7二角成が予想される。
次に8三との狙いがあり、先手良し。
変化3二歩図17
「7三同銀」に、先手は「4一角」と打つ。
後手は3二歩を先受けしてあるが、次に5二角成がある。同歩なら3三金以下“詰み”
ここで7四桂と打つ手はどうか。これには7七玉。
そこで3一桂と受ける。先手は2六香。次に4五角と打てれば先手勝ちになる。
なのでこれも4四歩とそれを受けるが、その手には6五角(次の図)
変化3二歩図18
これで後手に受けがなくなった。4三銀には、5二角成、同銀、5一竜。(4三金には5一竜、同銀、4三角成)
変化3二歩図19
7四桂と早く打ってしまうと、後手の受け駒がなくなって後手は負けてしまうとわかった。
それではと、3一桂(図)と単に受ける。(5二角成は同歩と取れる)
手番は、先手。 何を指すか(次の図)
変化3二歩図20
4七歩(図)。 4七同銀不成なら、5五角と打てる。
では、〈い〉4七同と ならどうなるか。 その場合、先手はいったん9六歩としておく。
以下、6六歩に、3三香(次の図)
変化3二歩図21
3三同桂、同歩成、同玉(同銀は5二角成がある)、1一角、3四玉、3六金(次の図)
変化3二歩図22
先手勝ち。
変化3二歩図23
4七歩に同とではさすがにまずかった。後手は何か攻めなければ勝てない。
ここで〈ろ〉7四桂(図)と桂を打ってみる。
先手は9六玉(7七玉もあるかもしれない)
以下、9四歩、4六歩(9五金、同飛、同玉は先手良し。以下8四銀、9四玉、9五飛、8三玉、9一飛には、5五角がある)、6四銀右、3六香(3三銀以下の詰めろ)、4四銀、1一角(次の図)
変化3二歩図24
1一同玉に、3二角成。 「2五飛」が受けに利いているので角を渡しても詰まない。
2二角に、4一銀(次の図)
変化3二歩図25
先手勝勢になった。
変化3二歩図26
〈は〉7四銀(図)ならどうなる。
4六歩、7六歩、3六香(3三銀からの詰めろ)、4四銀。
ここで先と同じように1一角とすると、同玉、3二角成に、6八角から(9六玉、9五金、同飛、8四桂となって)先手玉が詰まされてしまう。
ここは5三歩の手裏剣がある。 同金に、1五角と打つ(次の図)
変化3二歩図27
ここで後手5二金は、同角成、同歩に、2三飛成、同桂、3一銀、同銀、同竜、同玉、4二金以下、後手玉詰み。
よって、2四桂と受ける。
2四桂、9六歩、1四歩(5九角と引かせて3六桂と香車を取るつもりだが)、3三歩成、同銀引、同香成(次の図)
(3三歩成を同桂は、2四飛、同歩、3四桂、1三銀、2二銀、2三玉、4二桂成と寄せる)
変化3二歩図28
3三同銀なら、5一竜で“受けなし”になる。
といって、3三同玉は、3五飛、3四香、同飛、同玉、3九香で、先手勝ち。
ということで同桂としてみるが、それには1一銀がある。1一同玉に、3二角成(次の図)
変化3二歩図29
先手勝ち
〔W〕8四金には、先手の「2五飛」の横の利きが絶大で、7三歩成以下、先手優位に展開できる。
変化3二歩図02(再掲8六玉図)
〔U〕5五銀引、〔V〕7四歩、〔W〕8四金 はいずれも「先手良し」となった。
他に考えられる後手の手として〔X〕6七と、〔Y〕4四銀、〔Z〕9四歩がある。
以下、それらの手に対する先手の対応を簡単に書いておく。
変化3二歩図30
〔X〕6七と には、4五角と打って、3一桂に、7二角成(図)とする。以下7四歩に8三馬とすれば、“入玉”はほぼ確定。先手良し。
変化3二歩図31
〔Y〕4四銀 は、次に後手3五銀引のような手を狙っている手。
しかしこれには、5三歩(図)がある。
5三同金に、8二竜、5二金、7三歩成で、先手優勢。
変化3二歩図32
〔Z〕9四歩 には、8五金(図)とする。9四金から、やはり“入玉”をめざして上部開拓をする方針。これも先手が良い流れ。
変化3二歩図02(再掲8六玉図)
【8】3二歩 には、「8六玉」(図)で、先手良しが結論。
2五飛基本図(再掲)
【1】7四歩
【2】5五銀引
【3】6五歩
【4】4四歩
【5】6三桂 → すべて先手良し
【6】6五桂
【7】8四歩
【8】3五金
【9】3二歩
すなわち、こういうことになる ↓
≪5九金図≫
<1>2五香 → 先手良し
<2>4一角 → 先手良し
<3>6六角 = ≪一番勝負≫で我々が選択した手
<4>8六玉 → 先手良し
<5>8五玉 → 先手良し
<6>2五飛 → 先手良し
つまりこの≪5九金図≫の局面で、先手は少なくとも5つの「勝ち筋」があったということである。
我々が実戦で選択した<3>6六角は、さて、「勝ち筋」がある道だったのかどうか。
それは、これから明らかになるであろう。
ところで、この図の2手前の局面―――すなわち、次の図(4二銀左図)で―――
≪4二銀左図≫
ここで「2五飛」としたらどうなるだろうか。
対して後手の指し手は5九金。
そこで先手が9一竜と指せば(たぶんそれが最善手)―――
今回の図、すなわち「2五飛基本図」に合流するのである。
つまり、この≪4二銀左図≫での「2五飛」も、「先手良し」となるのである。
また、上の≪4二銀左図≫から“7三歩成”とした変化も前に研究したが、その場合にも「2五飛」が出てきた。
参考図
この図である。この場合も「2五飛」があったので、“7三歩成”以下の変化もこの後手の「4二銀型」に対しては成功となったのであった。(その内容はこちらで)
「4二銀型」に対しては、「2五飛」が有効であることがわかっていると、この後手の陣形を攻略しやすくなる。
とはいえ、それも“闘いを経験した後”に、いろいろ調査研究してやっとわかったことなのだが。
指し手 ▲9三角成
[ 八咫鏡(やたのかがみ)]
故(かれ)ここに天照大御神(あまてらすおおみかみ)見畏みて、天石屋戸(あまのいわやと)を開きて、さし籠りましき。ここに高天原皆暗く、葦原中國(あしはらのなかつくに)悉に闇(くら)し。これに因りて、常夜往きき。ここに萬の神の聲(こえ)は、さ蠅なす満ち、萬の妖(わざわひ)悉におこりき。ここをもちて八百萬神、天の安の河原に神集ひ集ひて、高御產巢日神(たかみむすびのかみ)之子、思金神(おもいかねのかみ)を思はしめて、常世長鳴鳥(とこよのながなきどり)を集めて鳴かしめて、天安河の河上の天堅石を取り、天金山の鉄(まがね)を取りて、鍛人天津麻羅(かぬちあまつまら)を求ぎて、 伊斯許理度売命(いしこりどめのみこと)に科せて鏡 を作らせしめ、玉祖命(たまのおやのみこと)に科せて、八尺勾璁(やさかのまがたま)の五百津之御須麻流之珠(いほつのみすまるのたま)を作らしめ、天兒屋命(あめのこやねのみこと)、布刀玉命(ふとだまのみこと)を召して、天香山の真男鹿(まおしか)の肩を内抜きに抜きて、天香山の天の波波迦(ははか)を取りて、占合(うらなひ)まかなはしめて、天香山の五百津真賢木(いほつまさかき)を根こじにこじて、上枝に八尺勾璁の五百津之御須麻流之珠を取りつけ、中枝に八咫鏡(やたのかがみ)を取り繋(か)け、下枝に白丹寸手、青丹寸手を取り垂でて、この種種の物は、布刀玉命、布刀御幣(ふとみてぐら)と取り持ちて、天兒屋命、布刀詔戸言祷き白して、天手力男神(あめのたぢからお)、戸の掖に隠れ立ちて、天宇受賣命(あめのうずめのみこと)、天香山の天の日影を手次(たすき)に繋けて、天の真拆(まさき)をかづらとして、天香山の小竹葉を手草に結いて、天石屋戸にうけ伏せて踏みとぐろこし、神懸(かむがかり)して、胸乳をかき出で、裳緖を陰(ほと)に押し垂れき。高天の原動みで、八百萬の神共に咲(わら)いき。 (『古事記』天石屋戸神話より)
日本神話のなかの「天石屋戸(あまのいわやと)神話」である。
この中に、「鏡」が出てくる。三種の神器の一つ「 八咫鏡(やたのかがみ)」である。『古事記』のこの記述によれば、この時に、鍛人天津麻羅(かぬちあまつまら)と伊斯許理度売命(いしこりどめのみこと)がつくったことになっている。
天照大御神(あまてらすおおみかみ)が天石屋戸に閉じこもってしまったので、その女神を笑わせようと、ありとあらゆる手立てを講じたのだが、その一つの手が、「鏡」による魔術だったというわけだ。
この女の神様を笑顔にするために、みんなで全力を尽くすという、ユニークな神話であるが、最後に「八百萬の神共に咲(わら)いき」となって、みんなで笑うという素晴らしい結末になっている。
『古事記』の成立は天武天皇の時代であるから7世紀。つまり今から約1300年前。
しかし様々な“神話”を一つにまとめたのがこの時ということで、この「天石屋戸神話」自体は、もっと前からずっと語り継がれてきたのだろう。
<第18譜 まぼろしの「2五飛戦法」>
≪最終一番勝負 第18譜 指始図≫ 5五銀引まで
先手「6六角」に、後手は「5五銀引」(図)と応じてきた。
まあ、予想通りだ。
≪最終一番勝負 指了図≫ 9三角成まで
先手を持っている我々――終盤探検隊――は、予定通り、「9三角成」(図)。
ここで後手に、“8四金”と“9四歩”の選択肢がある。
第19譜につづく
以下は、“戦後研究”である。
数手前に戻って――――
≪5九金図≫
<1>2五香 → 先手良し
<2>4一角 → 先手良し
<3>6六角 = ≪一番勝負≫で我々が選択した手
<4>8六玉 → 先手良し
<5>8五玉 → 先手良し
<6>2五飛 → ?
我々はこの将棋の“戦後研究”の中で、ここで <6>2五飛 がある可能性を発見した。
コンピューターソフト「激指14」はこの2五飛を7番目の候補に挙げていた。とはいえ、評価値は-707で「後手有利」としている。
しかし我々は、<4>8六玉や<5>8五玉の調査研究の中で“2五飛”と打つ手ががこの後手の「4二銀型」の陣形に対して有効であることに気づき、それならこの局面で「2五飛」もあるのではないかと思ったのだった。
2五飛基本図
この「 2五飛 」 の狙いは、受けては後手の指したい7五金をけん制している。
そして、攻めては、4一角、3二歩に、“3三香”の攻めを狙っている。「2五飛」と「4一角」と「9一竜」の3つの大駒が、「3三香」を加えることで、爆発的な破壊力のある攻めを生む可能性を持っているのである。その攻めに大いに期待したい。
そしてその攻めを封じる手段が後手にあるかどうかがポイントである。
2五飛基本図(再掲)
ここで考えられる後手の有力な応手は、次の9つ。
【1】7四歩
【2】5五銀引
【3】6五歩
【4】4四歩
【5】6三桂
【6】6五桂
【7】8四歩
【8】3五金
【9】3二歩
このように指し手の広い局面だが、一つ一つ調査結果を以下書いていく。
どれか一つでも、「後手良し」の結論に固まれば、その時点でこの「2五飛戦法」は終了となる。
変化7四歩図01
【1】7四歩(図)は、後手の狙いとしては次に7五銀である。
この 7四歩 は、最新ソフトが最善手として示した手で評価値は[ -432 ]で後手有利と示しているが、終盤探検隊がさらに先を調査した結果を先に言えば、この手には「4一角」と打って先手が勝てる。
変化7四歩図02
「4一角」に、「3二歩」(図)。
ここで「5二角成」と「3三香」の2通りの攻めがあり、この場合はどちらを選んでも、先手が有利になる。
この攻めが今回の先手の「2五飛戦法」の基本となる攻めなので、ここでは両方その内容を確認しておく。
まず「5二角成」から。
「5二角成」を同歩と応じると、3三金以下後手玉が詰むので、取れない。(この即詰みがあるのも「2五飛」の効果)
そこで後手は7五銀と攻めてくる。これには8五玉(7七玉は先手悪い)
以下、8二桂、8六歩(次の図)
変化7四歩図03
後手玉はまだ詰まないので、先手玉に後手が“詰めろ”で攻めてくれば、それを受けなければいけない。
ここで後手は9四歩。これも詰めろだ。
そこで7三角と打つ好手があった。8四歩(この歩を突かせることで後手の8四桂が消えた)、9六玉、7六金(次の図)
変化7四歩図04
部分的には先手がピンチ。8九香と受ける手が見えるが、9五歩、同玉、8三桂、9六玉、9五歩、同竜、5二歩で、先手負け。
ところが、ここで7三角を打った手の真価を発揮する手順が現れる。2三飛成と、攻めに転じるのである。以下、同玉、2四金、同玉、4六角成、3五金合、4二馬(次の図)
変化7四歩図05
後手玉は詰んでいた! 4二同銀、2五銀、同玉、2六銀以下、持駒の香車が威力を発揮して“詰み”となる。(7三角は“詰めろ逃れの詰めろ”だったのだ)
変化7四歩図06
先手の「5二角成」に、3五金(図)と打ってきた場合。
これにも切り返しがある。
変化7四歩図07
4四角(図)である。
これを同銀は4二馬だし、同歩は、2三飛成、同玉、2四金、同玉、1五金、2三玉、2四香までの“詰み”。
なので3三桂打のような手になるが、2六香、3一桂、3三歩成以下、先手が勝てる。
変化7四歩図08
もう一つの攻め筋が「3三香」(図)。
この攻めは後手に「香」が渡ったとき、そして場合によっては「角」を渡したときに、先手の玉が大丈夫かどうか、そこが重要な要素になる。
「2五飛」と設置しておいてこの「4一角~3三香」の攻めは、かなりの破壊力がある。
これを“同桂”と取るとその瞬間に2一金、同玉、2三飛成から後手玉が詰むので、“同桂”がない。これが後手の応手を限定している。
桂で取れないので、この「3三香」を取るとしたら、3三同銀しかない。以下、同歩成、同玉に、3四歩(次の図)
変化7四歩図09
これで詰んでいる。3四同銀に、4五銀、3三玉、3四金、4二玉、3二角成、同玉、2三飛成、4二玉、3三角、4一玉、5一角成、同金、4三竜以下。
変化7四歩図10
「3三香」に、3一銀(図)。
これには、5二角成。(同歩なら3二香成以下後手玉詰み)
変化7四歩図11
そこで 3三歩 と後手は「香」を入手。
ここで5一竜で勝てればわかりやすいが、それは後手の“思うつぼ”。 7五銀で先手玉が先に詰んで負けになる。
しかし“5一馬”があった(次の図)
変化7四歩図12
5一馬(図)は、“詰めろ逃れの詰めろ”。 3三馬、同桂、1一角からの後手玉の“詰み”を狙いつつ、この5一馬は8四に利かせている。
以下は、7五銀、8五玉、8四金、同馬、同銀、7四玉、4七角(王手飛車)、6五歩、2五角成、8三玉(次の図)
変化7四歩図13
“王手飛車”を食らっても、先手が優勢。(以下3四歩、5四歩、同銀、5一角が予想される手順)
変化7四歩図14
「5二角成」に対し、すぐ 7五銀(図)としたらどうなるか。
8五玉、8四金、9六玉―――ここまで先に決めておいて、そこで3三歩と「香」を取る。先手玉に“詰めろ”(9五香まで)がかかり、これは受けにくいが…(次の図)
変化7四歩図15
この場合は3二金(図)から、後手玉に“詰み”があるのだ。
後手の6四銀が7五銀と出てきて、5三の銀が“浮き駒”になっているので、この場合は“詰み”が生じている―――というからくりである。
3二同銀、3一角、同玉、5三馬以下。
変化7四歩図16
「3三香」に、3一金(図)。
この金打ちには、2通りの勝ち方があり、先手が勝てる。
一つは、3二香成、同金、1一角、同玉、3二角成という攻め方。
変化7四歩図17
以下、5八角に、8六玉(図)と逃げて、8四香には9六玉として、先手勝勢。
「2五飛」がしっかり受けに働いている。もしこの「2五飛」の存在がなかったら、7五銀、7七玉、6七角成、8八玉、6六馬、9八玉、2二香で、後手玉が受かって、後手勝勢になっているケースである。
変化7四歩図18
もう一つは、3二香成、同金に、5二角成(図)という攻め方。
5二同歩は、3三金、同銀、同歩成、同玉、3四歩、同玉、4五銀以下“詰み”がある。
(3三金に1一玉には、2一竜、同玉、2三飛成)
なのでこの馬は取れないが、後手6二桂と頑張る手でどうなるか。
先手は4一馬。この手は次に後手玉が詰むわけではないが、3三歩成、同銀、3一角からの寄せを狙っている。
以下、予想される手順は、7五銀、7七玉、8五桂、8八玉、7六銀、7八歩、3一歩、4五角(次の図)
変化7四歩図19
後手の攻め足が先手7八歩の受けで止まった。(攻めを続けるなら8四香だが8六金で受かる)
先手からは3三歩成、同銀(同金は2三飛成、同金、3二金以下詰み)、3一角、1一玉、3二角成の攻めがある。
なので後手は3一歩と受けに回ったのだが―――
4五角(図)と打って、「2三」を狙えば、後手はもう受けがない。(2四香としても、同飛、同歩、3三歩成以下詰み)
先手の勝ちが決まった。
変化5五銀引図01
【2】5五銀引(図)。
この手に対しても、やはり4一角と打って、3二歩に、「3三香」と「5二角成」と、どちらの攻めでも先手がやれる。
ここでは、「5二角成」を見ておこう(次の図)
変化5五銀引図02
「5二角成」の後、7五金、7七玉、6六銀、8八玉、7六桂、9八玉、7七銀成、8九香、9五桂、7九金と進めて、この図になった。
これで先手玉への“詰めろ”は続かないので、後手が攻めるとすれば6七と~7八とだが、6七とには、ここでも4五角がある。これでもう後手に受けがない。
4四歩と先に受けてその手を消すなら、4一馬と入り、6七とに、5一竜で、先手勝ち。
それなら、開き直って5二歩と馬を取って「詰ませてみろ!」と勝負してきたとき、どうやって詰ますか。(金香を受けに使ったため持駒が減っている)
“答え”は、3三角と打って、同銀、同歩成、同玉、3四歩、同玉、3五金、3三玉、2三飛成(次の図)
変化5五銀引図03
これで、“詰み”。
変化6五歩図01
【3】6五歩(図)。
これも、「4一角、3二歩、5二角成」でも、「4一角、3二歩、3三香」でも、どちらも先手良しになるというのが調査結果。
(ただしこの場合は、「4一角、3二歩、3三香」に、後手“3一金”以下の変化が難しく、「4一角、3二歩、5二角成」を選んだほうが、わかりやすく勝てる)
この手に関しての調査の内容は省略する。
変化4四歩図01
【4】4四歩 は、先手の狙い筋を先受けした手で、この図は、4四歩 に「4一角、3二歩」まで進んだところだが、ここで5二角成は、同歩と取られ、先手失敗する。「4三」のスペースがある関係で、後手玉が詰まないからだ。
しかしここで「3三香」の攻めならば、調べたところ、どうやら成立している。
「3三香」に、同銀 なら、(同歩成を保留して)5二角成とするのがよい。(次の図)
変化4四歩図02
これでわかりやすく「先手勝ち」になっている。
先手玉は詰まないので、後手は4二銀左引くらいしかなさそうだが、それには3三歩成とし、同銀(同桂は2三飛成以下、同歩は3二金以下詰み)に、5一竜で、先手勝勢である。
変化4四歩図03
「3三香」に、3一金(図)の場合、注意すべきことがある。
ここでも「5二角成」や「3二香成、同金、5二角成」は、“同歩”と取られて先手負ける。
そうなるとここは、「3二香成、同金、1一角」の攻め筋で勝つしかないのだが、単純にそれをやると、以下1一同玉、3二角成に、4三角と王手で打つ手があって、つくった馬を消されてしまう(以下形勢は不明)
ということで、それを見越して、正解手順は「3二香成、同金、5四歩」になる(次の図)
変化4四歩図04
5四同銀に、それから狙い筋の「1一角、同玉、3二角成」を決行すれば、後手はほぼ受けがなく、先手の勝ち。
なので、後手は5四同銀とはせず、3一歩と粘る。以下、5三歩成、同銀上。
そこでどうするか―――6一角が良いようだ。以下、7四歩に、8三角成(次の図)
変化4四歩図05
先手優勢。後手は先手玉を捕まえるのが難しいし、先手に桂馬の一枚でも入れば、途端に後手玉が(先手1五桂などがあって)ピンチになる。
変化6三桂図01
【5】6三桂(図)に対しても、「4一角、3二歩、3三香」と攻める。
(この場合、「4一角、3二歩、5二角成」は形勢不明の戦い)
変化6三桂図02
3三同銀 は、同歩成、同玉、5二角成で、先手優勢になる。
3一銀 も、5二角成が、次に3二香成以下“詰めろ”で、先手優勢。
変化6三桂図03
3一金(図)。
この場合、「3二香成、同金、5二角成」は、7五銀、7七玉、8五桂、8八玉、2四香以下、後手良しになる。
正着は、「3二香成、同金、1一角」のほう(次の図)
変化6三桂図04
以下1一同玉、3二角成に、5八角なら、8六玉。
先手玉は詰まず、後手玉は“受けなし”なので、先手勝勢。
変化6三桂図05
他に、「3三香」に、後手7五銀(図)という手がある。
これは、同飛と取る。(7七玉は先手悪い)
飛車が2筋からそれたこの瞬間に、後手3三桂。ひねった手順だ。
これには、3三同歩成、同銀、3一金と、ゆるまず攻める(次の図)
変化6三桂図06
3一同玉には、5二角成。4二金なら、5一竜でよい。
先手勝勢。
2五飛基本図(再掲)
【1】7四歩 → 先手良し
【2】5五銀引 → 先手良し
【3】6五歩 → 先手良し
【4】4四歩 → 先手良し
【5】6三桂 → 先手良し
【6】6五桂
【7】8四歩
【8】3二歩
【9】3五金
【1】~【5】 については、4一角と打ち、3二歩に、「5二角成」か「3三香」のどちらかの攻めで先手が勝てるとわかった。
他に、5六とや5五桂の手に対しても、この攻めで、先手が勝てる。
しかし、次の手からは、そういうわけにはいかない。
変化6五桂図01
【6】6五桂(図)は、先手の打った「2五飛」の横利きを止め、そして先手玉の下への退路(7七)を封じた手。先手玉に7五金の“詰めろ”がかかった。これではさすがに4一角と攻める余裕はないわけである。
先手は8六玉とする。(他に6六角~9三角成もある)
後手は8四歩とさらに“詰めろ”で迫る。
先手は9五金と応じる(次の図)
変化6五桂図02
後手の攻め、先手の受けという展開になったが、先手が次に8四金とすれば、もう先手玉は捕まらなくなるので、後手も甘い手は指せない。
なので、後手6三金。後手の勝負手である。6三金には、しめたとばかりに4一角と打ちたくなるが、それは後手の仕掛けた“わな”で、8五金、同金、同歩、同玉、7四金、同角成、9四金、9六玉、7四歩で、後手優勢となる。
6三金には、7九香と受ける。
それでも後手は7四金。以下、同香に、8五金、同金、同歩、9六玉、8四桂、8五玉、9四金、8六玉、7四歩(次の図)
変化6五桂図03
先手玉にまた“詰めろ”がかかっている。しつこい攻めだ。
先手は9六歩と逃げ道をつくる。(実はここで3三角と打てば後手玉は詰んでいるようだがその詰み筋は難しい。9六歩が実戦的だ)
9六歩、7五銀、9七玉、8五金、4一角、9六金、9八玉、3二歩打、3三金(次の図)
変化6五桂図04
3三同銀、同歩成、同玉、3四歩、同玉、4五銀、3三玉、1一角以下、“詰み”
変化8四歩図01
【7】8四歩(図)は、かなりの“強敵”である。
というのも、例の「4一角、3二歩、3三香」も、「4一角、3二歩、5二角成」もこの“敵”には通用しないのである。
それをまず確認しよう。
変化8四歩図02
4一角、3二歩と進めて、この図である。
ここで「3三香」は、後手に「3一銀」と応じられ、5二角成に、3三歩(次の図)
変化8四歩図03
後手が「香」を取った手が、次に7五香から先手玉への“詰めろ”になっており、この瞬間は後手玉は詰まない。これは先手まずい。(以下は、ほぼ互角のきわどい戦いになるが調査では最終的には後手良しになった)
変化8四歩図04
この図は、【7】8四歩 に、「4一角、3二歩、5二角成」の攻めを行った場合。
対して後手は6五桂(図)だ。
どうもこれで、先手が困っている。先手玉には、7五金と8五金の2つの“詰めろ”がかかっているが、それを受けるために6六角、4四歩、7三歩成としても、7五歩、同角、5二歩と応じられて、先手が勝てない図になっているようだ。(4四歩と受けた時に後手5二歩が可能になった)
ということで、4一角からの攻めはこの場合通用しないのか―――と思えたが、我々は新たな工夫を発見した。
変化8四歩図05
「4一角、3二歩」として、そこで「6五歩」(図)と打つのだ。
5五銀上なら、5二角成で、先手勝てる。
このまま無条件に6四歩~6三歩成となっては後手はいけないから、7五金、7七玉、6五銀 が考えられる応手。
そこで先手3三香。
変化8四歩図06
これで先手が勝ちになっている。3三同銀、同歩成、同玉には、5二角成で先手良しだ。
また、3一銀には、5二角成だ。このとき、6四の銀がいなくなったために、ここで後手が3三歩と香車を取ると、今度は――――(次の図)
変化8四歩図07
3二金(図)、同銀、3一角、同玉、5三馬から、後手玉は詰んでしまうのである。(これが“6五歩”の効果だ)
変化8四歩図08
というわけで、6五銀 の手に代えて、8五桂 と打ち、8八玉に、7六金と攻めてきたのがこの図。先手玉はまだ“詰めろ”ではないが、持駒に「香」が加わると詰む。
なので、ここで3三香は、(6四銀が生きていることも関係して)先手が負けになる。
しかしこの図では、別の勝ち筋が生じている。
変化8四歩図09
“4五角”と打つ手だ。 次に3三歩成から2三角成がある。
1一桂と受けても、2六香(図)と打てば、“数の攻め”で、先手の勝ちが確定する。
ということで、【7】8四歩 は、「4一角、3二歩、6五歩」で、先手良しとする。
変化3五金図01
【8】3五金(図)も考えられる手だが、これには4一角、3二歩、1一角という返し技がある。1一同銀に、3二角成。
そこで後手に手があるかどうか(次の図)
変化3五金図02
8四桂(図)に、8六玉、6八角、8五玉、7七角成、5五歩(次の図)
変化3五金図03
7七角成で後手は馬を自陣に利かせてかかっていた“詰めろ”を凌いだ。
しかし5五歩(図)とすれば、「先手良し」がはっきりする。同馬なら、自玉が安全になり、香を渡しても大丈夫なので、3三香として先手勝ち。
といって、他の手もない。7六馬は、9五玉、9四馬、8六玉で、もう一度7六馬は9五玉――これは“連続王手の千日手”の反則になるので、続けることはできない。
変化3二歩図01
さあ、この手、【9】3二歩 が最後の強敵―――つまり、“ラスボス”である。
ここで4一角は、3一桂と受けられると、継続手がない。(3一金も形勢不明)
どうやら 【8】3二歩 に対しては、「8六玉」が最善手ではないかと思われる(次の図)
変化3二歩図02(8六玉図)
「8六玉」の狙いは、第一は“入玉”である。
そう簡単に“入玉”できないが、ここで先手の番なら6六角~9三角成~9五玉で、ほぼ“入玉”できる。
ここから後手が何を指すか。それが問題だ。
有力手は、〔U〕5五銀引、〔V〕7四歩、〔W〕8四金。 それを順次見ていく。
変化3二歩図03
〔U〕5五銀引(図)は先手の「2五飛」の横利きを止めつつこの銀を活用しようという手。
この手には、9三竜が良いのではないかと思う。
対して、後手8四金なら、同竜、同歩、9五玉とし、以下7一桂には4五角(次の図)
変化3二歩図04
これで先手良し。3一桂には、2六香、6二金、4一金(後手玉を3一に逃がさない)と攻めていく。
またこの図で9二飛には、9四香と返す手がある。
この先手の4五角以下の攻めが有効になるのは、後手が桂を一枚7一に使ったからで、“入玉”と見せて桂を使わせ、その瞬間に“攻め”に転じるという戦略である。
変化3二歩図05
なので9三竜には7四歩(図)が本筋の手。
以下、7六歩、9四歩、9六歩とする。9六歩に代えて、9四同竜は、8四金、同竜、同歩、9五玉が想定されるが、これは先手自信なし。7三銀と引かれて活用される手があって、“入玉”は容易でない。
よって9六歩(次の図)
変化3二歩図06
ここで7三桂には、9四竜とし、8四金、同竜、同歩、9五玉―――今度は、先手成功の図となる。後手の7三桂が無駄手になったばかりか、7三銀と引く手を消しているために“入玉”がしやすい。
また、図で6七となら、8三竜以下、先手がやれる―――という研究結果になった。(この内容は省略する)
ということで、この図で「8四金」を本筋の手として見ていく。
ここで先手に6五歩という好手があった(次の図)
変化3二歩図07
6五同銀なら、5五飛ではなく、8五香として8四金を除去するのがねらいである。
6五歩に代えてすぐ8五香と打ちたいところだがそれは7五銀、同歩、同金から、打った香車が取られてしまうから先手が悪くなる。なので、6五歩、同銀に、8五香というわけである。
それなら先手成功だが、ここで後手も7五銀としてくる。(代えて6六銀もあるが6四歩、6七と、4五角、1一桂、2六香で、先手が勝てる)
7五銀以下、同歩、同金、9七玉、8五桂、9八玉、4四銀引(次の図)
変化3二歩図08
4四銀引(図)では、6六銀と前に出たいところだった。だがそれは4五角、1一桂、2六香で、後手に受けがなくなって、先手勝ちが決まってしまう。 それで4四銀と引いた。
先手は7九香。
後手は6七ととしたいが、それだと5六角(詰めろ「と金」取り)と打たれてしまう。
なので5六と。これは次に6六とと活用する意図。
そこで7五香(同歩に8六銀)という手が考えられる進行でそれもあるが、ここでは8三竜から先手がリードできるので、その筋を紹介しておく。
8三竜、6六と、8五竜(次の図)
変化3二歩図09
竜で桂馬を食いちぎる。
8五同金に、2三飛成、同玉、1五桂、2四玉、6八角(次の図)
変化3二歩図10
1五桂と打って、2四玉となったとき、3六銀と打てば、後手玉はだいたい受けがない。ところがこの場合、3八飛(王手銀取り)で、その銀を抜かれてしまう。
だからその前に、6八角と王手で打っておくのである。これで3五銀(桂)なら3六銀と打って、それで先手勝ちというわけだ。ここまで読み切っての、二枚の飛車切りである。
図で2五玉には、4五銀と縛って、先手勝ち。
変化3二歩図11
〔V〕7四歩(図)には、6六角と打つ。以下、5五銀引、9三角成、7五銀、9五玉、8四金、同馬、同銀、9四玉(次の図)
変化3二歩図12
ここまでは必然の手順。
ここで5八角の“王手飛車取り”があった。
5八角、8三玉、2五角成、8四玉、3六馬、8三香(次の図)
変化3二歩図13
先手良し。先手玉はまだ安全とは言えないので、実戦的には気を抜けない“これからの勝負”となるが、先手がリードしているのは確かだろう。(最新ソフトの評価値は+370)
変化3二歩図14
〔W〕8四金。 「入玉は許さないよ」という手。
これには7三歩成が有効手になる(次の図)
変化3二歩図15
ここで6七とや5六とは、4五角と打つ筋でと金を抜かれてしまう。
「7三同銀」を本筋として考えていくが、“5五銀引”という銀の活用も後手の有効手に見える。
それには―――(次の図)
変化3二歩図16
7六歩(図)と受けておき、以下、7五歩、4五角、3一桂、2六香、1一桂、7二角成が予想される。
次に8三との狙いがあり、先手良し。
変化3二歩図17
「7三同銀」に、先手は「4一角」と打つ。
後手は3二歩を先受けしてあるが、次に5二角成がある。同歩なら3三金以下“詰み”
ここで7四桂と打つ手はどうか。これには7七玉。
そこで3一桂と受ける。先手は2六香。次に4五角と打てれば先手勝ちになる。
なのでこれも4四歩とそれを受けるが、その手には6五角(次の図)
変化3二歩図18
これで後手に受けがなくなった。4三銀には、5二角成、同銀、5一竜。(4三金には5一竜、同銀、4三角成)
変化3二歩図19
7四桂と早く打ってしまうと、後手の受け駒がなくなって後手は負けてしまうとわかった。
それではと、3一桂(図)と単に受ける。(5二角成は同歩と取れる)
手番は、先手。 何を指すか(次の図)
変化3二歩図20
4七歩(図)。 4七同銀不成なら、5五角と打てる。
では、〈い〉4七同と ならどうなるか。 その場合、先手はいったん9六歩としておく。
以下、6六歩に、3三香(次の図)
変化3二歩図21
3三同桂、同歩成、同玉(同銀は5二角成がある)、1一角、3四玉、3六金(次の図)
変化3二歩図22
先手勝ち。
変化3二歩図23
4七歩に同とではさすがにまずかった。後手は何か攻めなければ勝てない。
ここで〈ろ〉7四桂(図)と桂を打ってみる。
先手は9六玉(7七玉もあるかもしれない)
以下、9四歩、4六歩(9五金、同飛、同玉は先手良し。以下8四銀、9四玉、9五飛、8三玉、9一飛には、5五角がある)、6四銀右、3六香(3三銀以下の詰めろ)、4四銀、1一角(次の図)
変化3二歩図24
1一同玉に、3二角成。 「2五飛」が受けに利いているので角を渡しても詰まない。
2二角に、4一銀(次の図)
変化3二歩図25
先手勝勢になった。
変化3二歩図26
〈は〉7四銀(図)ならどうなる。
4六歩、7六歩、3六香(3三銀からの詰めろ)、4四銀。
ここで先と同じように1一角とすると、同玉、3二角成に、6八角から(9六玉、9五金、同飛、8四桂となって)先手玉が詰まされてしまう。
ここは5三歩の手裏剣がある。 同金に、1五角と打つ(次の図)
変化3二歩図27
ここで後手5二金は、同角成、同歩に、2三飛成、同桂、3一銀、同銀、同竜、同玉、4二金以下、後手玉詰み。
よって、2四桂と受ける。
2四桂、9六歩、1四歩(5九角と引かせて3六桂と香車を取るつもりだが)、3三歩成、同銀引、同香成(次の図)
(3三歩成を同桂は、2四飛、同歩、3四桂、1三銀、2二銀、2三玉、4二桂成と寄せる)
変化3二歩図28
3三同銀なら、5一竜で“受けなし”になる。
といって、3三同玉は、3五飛、3四香、同飛、同玉、3九香で、先手勝ち。
ということで同桂としてみるが、それには1一銀がある。1一同玉に、3二角成(次の図)
変化3二歩図29
先手勝ち
〔W〕8四金には、先手の「2五飛」の横の利きが絶大で、7三歩成以下、先手優位に展開できる。
変化3二歩図02(再掲8六玉図)
〔U〕5五銀引、〔V〕7四歩、〔W〕8四金 はいずれも「先手良し」となった。
他に考えられる後手の手として〔X〕6七と、〔Y〕4四銀、〔Z〕9四歩がある。
以下、それらの手に対する先手の対応を簡単に書いておく。
変化3二歩図30
〔X〕6七と には、4五角と打って、3一桂に、7二角成(図)とする。以下7四歩に8三馬とすれば、“入玉”はほぼ確定。先手良し。
変化3二歩図31
〔Y〕4四銀 は、次に後手3五銀引のような手を狙っている手。
しかしこれには、5三歩(図)がある。
5三同金に、8二竜、5二金、7三歩成で、先手優勢。
変化3二歩図32
〔Z〕9四歩 には、8五金(図)とする。9四金から、やはり“入玉”をめざして上部開拓をする方針。これも先手が良い流れ。
変化3二歩図02(再掲8六玉図)
【8】3二歩 には、「8六玉」(図)で、先手良しが結論。
2五飛基本図(再掲)
【1】7四歩
【2】5五銀引
【3】6五歩
【4】4四歩
【5】6三桂 → すべて先手良し
【6】6五桂
【7】8四歩
【8】3五金
【9】3二歩
すなわち、こういうことになる ↓
≪5九金図≫
<1>2五香 → 先手良し
<2>4一角 → 先手良し
<3>6六角 = ≪一番勝負≫で我々が選択した手
<4>8六玉 → 先手良し
<5>8五玉 → 先手良し
<6>2五飛 → 先手良し
つまりこの≪5九金図≫の局面で、先手は少なくとも5つの「勝ち筋」があったということである。
我々が実戦で選択した<3>6六角は、さて、「勝ち筋」がある道だったのかどうか。
それは、これから明らかになるであろう。
ところで、この図の2手前の局面―――すなわち、次の図(4二銀左図)で―――
≪4二銀左図≫
ここで「2五飛」としたらどうなるだろうか。
対して後手の指し手は5九金。
そこで先手が9一竜と指せば(たぶんそれが最善手)―――
今回の図、すなわち「2五飛基本図」に合流するのである。
つまり、この≪4二銀左図≫での「2五飛」も、「先手良し」となるのである。
また、上の≪4二銀左図≫から“7三歩成”とした変化も前に研究したが、その場合にも「2五飛」が出てきた。
参考図
この図である。この場合も「2五飛」があったので、“7三歩成”以下の変化もこの後手の「4二銀型」に対しては成功となったのであった。(その内容はこちらで)
「4二銀型」に対しては、「2五飛」が有効であることがわかっていると、この後手の陣形を攻略しやすくなる。
とはいえ、それも“闘いを経験した後”に、いろいろ調査研究してやっとわかったことなのだが。