はんどろやノート

ラクガキでもしますか。

失うものはない

2007年06月29日 | しょうぎ
松「▲1五歩なんて指さなかったじゃないか」
竹「指さなかったぞ」
半「んー、そうだね。でもこれから指すかもよー」
松「ないよー」
梅「逆に森内が△9五歩から端攻めを…」
半「うん。中央の戦いではなく、端。だから郷田ペース」
竹「ほんと?」
半「しるか。とにかく、後手の森内名人が仕掛けたね。勇気ある仕掛けだ。あのさ、俺、郷田さん、生で見たことあるよ、北海道で。」
梅「ほんと? いつ」
半「2001年、北海道の洞爺湖で行われた丸山ー谷川の名人戦で。あの年、洞爺湖の火山、有珠山が爆発したんだけど、その半年後くらいだった。スブタ町っていうんだ」
竹「アブタ町です!」
半「そう、虻田町(笑)。 名人戦の、現地のホテルへ行ったんだよ。郷田さんはNHKの衛星放送の解説者で。立派なホテルだったんだけど、俺は別の低料金のホテルに泊まって、解説を聞きに行った。俺のとなりの席が二つ空いていたんだけど、その席には女の子が座ったよ。二人で楽しそうに将棋のはなしをずっとしていた。勝負は丸山名人が勝った。NHKの収録が終わっても、モニターには丸山と谷川の感想戦が映っていた。俺も20分ほど見ていたけど、でも、二人の女の子はその後もずっと見ていたよ。」
梅「女の子って、いくつくらい?」
半「20代前半かな。かわいかったよ。ああいう女の子は解説会であまり見ないなあ…」
松「それで、郷田さんは?」
半「郷田さんはそのホテルで夕方、一人で食事をしているのを見かけた。話しかけようかなと思ったけど、話すことがないな、と思ってやめたよ。解説の聞き手役は山田久美女流プロだった」
松「へえ…」
半「そのあとすぐ、1ヶ月後からはじまった棋聖戦で、郷田はタイトルを取ったんだ。相手は羽生で、スコアは3-1。内容もすごかったな、とくに第3局。森内さんはまだ1つもタイトルを取ったことがなかった。でも次の年、森内名人が誕生して、佐藤康光が郷田から3-2で棋聖タイトルを取り、そのあとずっと郷田さんはタイトル戦にでなくなった。サッカーの日韓ワールドカップの年だ。佐藤はそれから棋聖5連覇」
松「それで、郷田さんに会った感想は…?」
半「… べつに」
松竹梅「エーッ!!」


梅「森内△3七馬、郷田▲6四歩」
松「お互いに馬をつくって…」
竹「中央の戦いになってきた」
梅「まだ4つの『』は盤上にあるぞ」
松「ということは、森内ペースか。桂得だし」
梅「ていうか、これ、持将棋の可能性が…」
半「うん。あるね」
竹「持将棋になったらどうなるの?」
松「引き分け、後日、指し直し」
梅「へえ」
松「郷田も森内ものびのびやってるね」
竹「うん。たのしい」
半「第6局での逆転で、勢いは郷田だけど」
竹「うん」
半「森内には、『失うもの』がないから…」
梅「えっ」
松「失うもの、あるでしょ!」
竹「あるでしょー!」
半「いやー、ないよー。だって今日負けて永世名人になりそこねたとするでしょ。で、これからもなれなくて終わったとするでしょ。」
松「うん」
梅「それはくやしいよなー」
半「だよね。そうだけど、その場合、森内さんは『永世名人に限りなく近づいた男』として歴史に刻まれる…」
梅「あっ、そうか!」
竹「そうか、永世名人は何人もいるけど…」
半「『なりそこねた男』はめったにいない。」
松「伝説の男だ!」
半「そう。だから、勝っても負けても」
梅「森内俊之の名は歴史に残る!」
松「なるほどー。じゃあむしろ負けたほうが…」
半「そうかもしれないな」
竹「でも郷田さんにとっては…」
松「うん。大きいね。勝ちたいだろう、郷田は」
半「でも郷田さんだって…」
梅「うん、失うものはない」
松「そうだね。もともと挑戦者なんだし、負けても、」
竹「また挑戦すればいい、だね」


半「森内△7五歩… 、角をとった」 
梅「うわッ、切りあいだ!」
半「郷田▲5二と。飛車をとった」
松「もう持将棋はないな」
半「△7六歩▲6七金…」
竹「あの、半さん」
半「なんでしょう?」
竹「半さんはどっちを応援しているのですか? 郷田さん?」
半「世間のムードは郷田だよねー、でも僕は」
梅「僕は…?」
半「…どちらも応援しています」
竹「… 」
梅「それは」
松「どっちでもいいってこと?」
半「… 」
梅「羽生さんのファンなのでは? いや、谷川浩司か」
半「いや、べつに…」
松「べつに!?」
梅「つまり、えっ、…どうでもいいと!?」
半「はあ。 だって、ね」
松「え?」
半「だれが名人になろうが」
松「はい… 」
半「なりそこねようが」
竹「ごくり…」
半「僕の生活に全く影響はないですからねッ。
松「はう…!!!」
竹「… 」
梅「…言っちゃったネ~」


ね「あの、すいいません…」
半「はッ! あんた、だれ!?」
ね「天井に住んでいるものでして」
半「そ、それで?」
ね「わたしも、まぜてください」
半「い、いいけど…」
ね「あの、棋聖戦は、どうなりました?」
松「あーッ!!」
梅「そうか棋聖戦第3局!」
竹「いまやっていたんだ!」
半「あのー」
竹「え?」
半「風呂はいってきます」
松竹梅ね「えーッ!
松「えっ。ここで?」
梅「だれがマウスのクリックを?」
半「その、天井の上の方に…」
竹「森内△7七桂、飛車取りだ!」
松「郷田、逃げた! ▲7九飛。おもしれー! 森内、どう攻める?」
梅「おいッ佐藤渡辺戦は!?」
半「じゃあ、ヨロシク、天井の…」
ね「はい…」


松「おお、ついに」
ね「あ、あの…」
竹「森内がをとって」
梅「攻めにつかったぞ! △7二!」
ね「あの、よくかんがえたら、ぼく、ぱそこん、つかえません!」
竹「それにかまわず、郷田、▲2四桂!」
松「こんどは郷田がを持ち駒にしたぞ」
梅「どっちが勝つんだ!?」

ね「キィーッツ!!」
梅「おい、あんた! コードかじるな!」
ね「あ、あーっ、すいません、つい…」

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