はんどろやノート

ラクガキでもしますか。

ケンカ

2006年02月02日 | はなし
   [いつも魔女がドアを開ける 2の5]

 さて、雪女の章も今日のはなしでラスト。なにを書こうかな~。
 くらやみの旅の話はここではしない。「魔女とドア」がテーマなので。

 では雪女との後日談を。
 一度だけ彼女に会った。数年後の冬に。(体調は「すこしはまし」だったがまだ悪いのは悪い。) そのとき僕はいずれ東京方面へ行くことを決めていたから、一度会っておきたかった。どうもまだそのときの僕には彼女の「冷たさ」へのウラミのようなものがあったので、せめて彼女と気持ちよく話し、よい印象をもってわかれたかったのだ。
 自分なりの「わかれの儀式」をイメージしていた。それは他愛のないものだったが僕にとっては重要だった。そのくだらない独りよがりの「儀式」をせつめいなしに受け入れてくれ、と思っていた。それによって僕の中では、彼女との時間をすべて「ハッピー」にできると信じていた。「終わり良ければ全て良し」の法則にのっとって。しかし…。
 しかし、雪女は最後まで雪女らしかった。
 断ったのだ。きっぱりと。
 僕はどうしたか。怒った。その僕の意味不明の怒りに彼女も怒った。
 彼女はひどい形相だった。
 そのまま二人はわかれた。あとで僕のほうから電話をして詫びたが、その「怒りの形相」がイメージとして残った。あーあ、思うようにいかないもんだな男と女って。

 まあいいさ…。

 彼女とつきあっているとき、実はぼくらはケンカしたことがほとんどない。できなかったのだ。
 彼女はほんの一瞬でもこころが衝突すると、ハートを奥にしまいこむ、そういう性格の女だった。そうなるともうその日はハートがみえなくなる。そのままの状態が数ヶ月続くこともあった。彼女といっしょにいながら僕は孤独を感じていた。僕はいつも「ちゃんとケンカがしたいなあ」と思っていた。
 その最後の日にケンカになったのは、彼女がすでに僕を「男」としてみていなかったからだろう。「男」を意識した瞬間彼女はハートをしまい込んでしまうのだ。
 そしてそのハートは巨大な熱量をもっていた。

 彼女の正体は雪女ではない、とおもっている。
 抱くと、身体の奥から熱い波が押し寄せるような感じがあった。その熱が表に出ると、「雪女」としての彼女の存在は融けて消えてしまう…。そうならないよう、いつも彼女はその熱いハートを身体の奥深くにしまい込んでいるように思えた。しっかりと施錠して。
 そのしまい込んでいた彼女の「巨大な熱」のエネルギーが暗黒への分厚いトビラを開けてくれたのである。僕のために。彼女でなければ開かなかったドアだとおもっている。
 そして最終的に彼女は「雪女」としての自己を守ったのだ。僕を遠ざけることで。

 その後、彼女は結婚した。きっと「雪女」として彼女をまるごと受け入れてくれるひとをみつけたのだろう。

 ところで、彼女は映画がすきでシュワルツェネッガーのファンだった。飼ってた犬の名前は「千代」だったがそれは千代の富士からとったものだった。そのことを考えあわせると彼女は「筋肉フェチ」だったのではないか?そういえばブルース・リーの話もしていた気がする。
 僕の体形は筋肉とは縁がない…。こりゃあはじめから合わないコンビだったよなあ。

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