はんどろやノート

ラクガキでもしますか。

終盤探検隊 part140 ≪亜空間最終戦争一番勝負≫ 第39譜

2019年12月22日 | しょうぎ
≪最終一番勝負 第39譜 指始図≫


    [機関車が宙に立つ]

 「きみ、ともだちだよね。親友だよね、昔からの」小さな声は言い続けている、「ぼくが虫だからって、いじめやしないよね
「どんな虫?」アリスはちょっと心配になってたずねた。ほんとは刺す虫かどうか知りたかったのだけれど、そんなことをきいては失礼だと思ってね。
え、じゃあきみは――」小さい声がいいかけたのに、そこへ機関車のけたたましい汽笛が鳴って、かき消されてしまった。お客はみんなびっくりしてとびあがったよ。アリスももちろんだ。
 馬が窓から首をつきだしてみて、そっとひっこめていうには、「なんだ、小川をひとつ、とびこすだけのことさ」これでみんな安心したみたいだったけれど、アリスとしては汽車が跳ぶなんてどういうことになるか気がもめる。「でも、それで4マス目に入れるんだから、まあ、いいか」と思いなおした。そのとたん、汽車がまっすぐ宙に立つのがわかって、アリスはこわさのあまり、手近のモノにしがみついた。なんとそれはヤギのひげだったよ。

     (『鏡の国のアリス』ルイス・キャロル著 矢川澄子訳 新潮文庫 より)



 世界最初の「SL(蒸気機関車 Steam Locomotive)」は、イギリス南西部コーンウォール生まれのリチャード・トレビシックが1802年につくったものである。
 その後、有名なジョージ・スチーブンソン(スコットランド生まれ)とその息子ロバート・スチーブンソンなどを中心とする人々の仕事によって、「蒸気機関車」は実用的なものへと成っていった。 1825年に営業を開始したストックトン・アンド・ダーリントン鉄道(全長約40キロ)を最初に走ったその「SL」の名は、「ロコモーション1号」である。 そして1830年には、リバプール・アンド・マンチェスター鉄道(全長約56キロ)が開通した。
 イギリスの「蒸気機関車」の歴史はこうして、1830年頃から、本格的に実用化されはじめている。 それを追って、アメリカ、ドイツ、フランスでも、鉄道がつくられていく。(1940年代のイギリスでは、鉄道への投資熱が上がり「鉄道狂時代」と呼ばれるほどになる)
 なお、『アリス』の作者ルイス・キャロルが生まれたのは1832年。 つまり彼が子どものときに、鉄道が大発展していったわけである。
 一方、「蒸気船」もこのころに発展した。 1807年のアメリカ人ロバート・フルトン製作のハドソン川に浮かべた「蒸気船」の実験が有名である。 19世紀の間、「蒸気船」はまだ長い航海に取り入れるには効率が良くないしコストもかかるので主流にはならなかったが、それでもゆっくり確実に「蒸気船」の割合は増えていった。
 1853年に日本の浦賀にやってきたアメリカの軍艦4隻のうちの2隻が「蒸気船」であった。 そして、日本での鉄道は1872年に始まったが、このときの「蒸気機関車」の車両はイギリスから輸入されたものである。 日本のオリジナル設計の蒸気機関車の登場は大正時代(1911年~)まで待たねばならない。

 さて、「SL」の中心核である「蒸気機関」の発明と言えば、スコットランド生まれのジェームズ・ワットのそれ(1776年)が有名であるが、「蒸気機関」そのものは、ワット以前から存在する。それまでは、1712年にトーマス・ニューコメンが発明した「蒸気機関」がよく使用されていた。使用されていた場所は主に炭鉱である。炭鉱の坑道内に発生する水を汲み上げる自動ポンプとしての「蒸気機関」が必要とされていたのである。(最初に「SL」をつくったトレビシックも鉱山技師であった)
 ジェームズ・ワットの改良された新しい「ワット式蒸気機関」の自動ポンプによって、その排水能力が上がり、それによって炭鉱での仕事効率も向上した。 そうして、「石炭の時代」が訪れることとなったのである。
 そのワットの「蒸気機関」の特許の権利が1800年に終わり、そうしてリチャード・トレビシックが、炭鉱の業務をラクにするため(石炭を運ぶなど)の「蒸気機関車」を発明する流れとなるのであった。


 アリスは、「蒸気機関車」に乗って、2マス目から4マス目に進んだ。 この汽車は、上にある通り、川を飛び越えるのに「まっすぐ宙に立って」進んだのであった。 なんと大胆な機関車であろう。 「銀河鉄道999」以上のダイナミックなシーンだ。
 チェスの初形図では、「ポーン(歩兵)」の駒は2段目(2マス目)に配置されている。 そしてその位置からは「ポーン」は「2マス進んでよい」というルールがある。 これは将棋にはない、チェスの「ポーン(歩)」の特殊な性質である。
 そして、このチェスの「ポーン」という駒は、敵の駒が目の前にいるときにはもう進むことができない。 そのかわり、一歩ななめ前に敵駒がある場合には、その駒を取って、「ななめ一歩前」に進むことができるのだ。
 チェスと将棋は、似ているところがたくさんあるが、このチェスの「ポーン」の動きは、将棋にはまったくない奇妙なものである。 将棋を普段指している人がチェスをやるときに、もっとも慣れないのが「ななめに駒を取って進むポーン」というこの変な動きであろう。
 なお、このアリスの乗った「鏡の国」での「SL」の乗客は、白い紙の服をきた紳士、ヤギ、カブトムシ、蚊、馬など。 蚊は、アリスの耳元で話しかけ続けるのだが、声は小さいし姿がみえない。
 ともあれ、アリスは、赤の女王(正体は子猫のキティ)の道案内のとおりに、「汽車(SL)」に乗って、小川をとびこし、「4マス目」へと進んで行ったのであった。
 「8マス目」に行くことができれば、「白のポーン」であるアリスは「女王」に成ることができる。



<第39譜 新しい勝ち筋がまた一つ>


≪最終一番勝負 第39譜 指始図≫

 この図を一手戻した図、「6七と図」を、我々は目下、研究調査中である。


6七と図
  〔松〕3三歩成 → 先手良し
  〔竹〕5二角成 → 先手良し
  〔梅〕2五香 → 後手良し
  〔栗〕8九香 → 後手良し
  〔柿〕7九香 → 後手良し
  〔杉〕5四歩 → 先手良し
  〔柏〕2六飛 → 先手良し
  〔橘〕3三香 → 先手良し
  〔桜〕9七玉 = 実戦の進行
  〔桐〕9八玉

 すでにこのとおり、少なくとも5つの「先手の勝ち筋」が発見された(“戦後研究”での発見ではあるが)

 今回の報告では、〔栗〕8九香 と〔柿〕7九香 について、「戦後の再検討」を行う。



[調査研究:8九香]

 〔栗〕8九香について、「再調査」した。

8九香基本図
 後手6七とに対し、〔栗〕8九香(図)と打ったところ。

 ここで、【1】7五桂【2】7六歩、そして、【3】6六銀 がある。
 「【1】7五桂 なら先手良しになるが、【2】7六歩 なら後手良し」―――というのが、戦時中に下した我々の結論だった。


研究8九香図01
 【1】7五桂(図)が考えられる。
 しかしこれは手順を尽くせば、先手良しになる。
 9七玉、7七とに―――「7八歩、7六歩、8五歩」というのが、その手順である。
 「7八歩」に、7六とや7八同となら、3三歩成、同銀、5二角成、同歩、3一飛で、先手が勝てる。角を渡しても先手玉が詰まないので。(7九角には9八玉でよい)
 だから後手は「7六歩」と踏ん張るのだが、こうしておいて8五歩が好手となる。(次の図)

研究8九香図02
 8五歩(図)に、7四金なら、「3三歩成、同銀、5二角成」で、やはり先手が良くなる、7九角と打たれても、8六玉と逃げられるから。(この時に後手7六とがないのが「7八歩、7六歩」の効果である)
 したがって、先手の8五歩を後手は同金と取るが、以下3三歩成、同銀、5二角成、同歩、7五馬(次の図)

研究8九香図03
 7五馬(図)として、先手玉にかかっていた“詰めろ”を消す。この手を指すためのその前の8五歩でもあった(8筋の歩が切れたので、後手の7九角に8八歩の受けがあるのも8五歩の効果)
 7五同金に、3一飛、4二銀左、2一飛成、3三玉、4五金(次の図)

研究8九香図04
 もしも「7八歩、7六歩」の手交換が入っていなかったら、8六角、9八玉、5四角(同角、同金のときに先手玉が“詰めろ”の状態になっている)があって、後手良しになっていた。
 しかし、「7八歩、7六歩」が入っているこの状態ではその筋がなく、4五金と打ったこの図は先手優勢である。
 3四角と受ける手には、2五桂(同角に2三竜、同玉、3五桂以下詰み)がある。 だから手順を尽くして7九角、8八歩、3四角が考えられるが、2五桂、同角、3七桂として、先手勝ち(3四角なら2五桂打で詰む)

研究8九香図05
 【1】7五桂 では、先手良しになった。
 しかし、【2】7六歩 図)がある。 これで「後手良し」になるというのが、戦時中の結論だった。
 後手【2】7六歩 に、「7八歩」と受けると、そこで7五桂と打たれ、以下、9七玉、7八と(次の図)

研究8九香図06
 こうなって、先手が悪い。
 以下、3三歩成、同銀、5二角成と攻めても、同歩、3一飛に、7九角(次の図)

研究8九香図07
 7九角(図)と打たれ、先手玉は詰んでいる。9八玉に、8七桂成、同玉、7七歩成以下。8八金としても、やはり8七桂成、同玉、8八と以下の詰み。

 だから「8九香は後手良し」と判断し、この手はそれ以上深堀しなかったという経緯がある。

 しかし、あらためて“戦後”に考えてみると―――【2】7六歩に、この瞬間に、3三歩成があるではないか!(次の図)

研究8九香図08
 つまり、【2】7六歩 に、7八歩と受けないで、3三歩成(図)と攻めていく―――というのが、“戦後”に発見した手段である。
 3三同銀に、5二角成、同歩、3一飛(次の図)

 先ほどのケースより、後手の攻め手が一手遅い。
 7七歩成、9七玉、7九角に、9八玉(次の図)

研究8九香図09
 この図は、先手勝ちになっている。先手の攻めのほうが一手早い。
 3四銀には4一竜がある(3一飛と打った効果)
 4二銀左は、2一飛成、3三玉、4五金で、後手“受けなし”
 後手がんばるなら1四歩だが、2一飛成、1三玉、3六桂(次の図)

 研究8九香図10
 先手勝勢である。
 3六桂(図)と打って、1二竜、同玉、1一金、1三玉、1二金打までの詰めろ。それを2二銀と防いでも、1五歩の攻めがある(1五同歩に、同香、1四歩、同香、同玉、1五金、同玉、2六金、1四玉、1二竜、1三合、1五香まで詰み)

研究8九香図11(6六銀図)
 【3】6六銀(図)ならどうなるか。
 この手は 第34譜 では、触れていない。それは、【2】7六歩 で後手良しだったので示す必要がなかったからだが、その結論が逆転したので、それなら、【3】6六銀 でどうなるかも、重要な意味をもってくる。
 しかし、結論を先に言うと、この【3】6六銀 には、「5四歩」または、「3三歩成、同銀、5二角成」で、先手が勝てる

 「5四歩」は、同銀なら、5二角成とし、以下同歩、4一飛、3一角、5三歩、6三銀、6一飛成(次に4一金を狙う)のような攻めで先手が勝てる。「5四歩」に、4四銀上や6二銀引の応手もあるが、それでも5二角成、同歩、4一飛で、先手が良い。
 「5四歩」のほうが先手勝ちやすいようには思われるが、ここはあえて「3三歩成、同銀、5二角成」のほうを紹介しておく。

研究8九香図12
 上の図(6六銀図)から、「3三歩成、同銀、5二角成」とし、以下5二同歩、3一金と進めたのがこの図である。
 「3一金」と打つのがポイントである(3一飛や4一飛ではまぎれる。こうした変化の時、3一金と打つのが良いことはすでに第35譜の〔松〕3三歩成の研究で学んでいる。3一金の手は後手の5四角~8一桂に備えている)
 〈2〉7六歩 のときには気にしなくてよかったが、〈3〉6六銀 と来た場合は、ここで 8一桂 と打つ手を気にしなければいけない。
 これは同竜と取る。 以下、5四角が「王手竜取り」である。
 9七玉に、8一角。 そこで4一飛(次の図)

研究8九香図13
 こう進んで、これは先手良し。
 以下、3四銀、8一飛成(1一角以下詰めろ)、3三玉、3六桂(次の図)

研究8九香図14
 これで後手玉は捕まっている。 2五銀なら3五金だ。
 4四歩が唯一の受けだが、4一竜、4二飛、同竜、同銀、1一角(次の図)

研究8九香図15
 後手は2二飛と受けるしかないが、それではもう後手に勝ちの目はまったくない。
 先手勝ちがはっきりした。

研究8九香図16
 それでは、先手の「3一金」に、後手が 7七と と進めた場合。 それには9八玉(図)が好手になる(9七玉でも先手が良いが9八玉のほうがより勝ちやすい)
 9八玉とした意味は、後手が1四歩から1三玉と脱走したときに、後手7九角の王手がないので、3五金と打てる―――という意味である。
 ここで5四角なら、9七玉とすればよい。以下8一桂なら、同竜、同角、4一飛と、上と同じ対応で先手良し。 これは先手が8九香と先受けしてあるのが有効に働いた変化。

 さて、9八玉としたこの図だが、後手玉には詰めろが掛かっているので放置できないが、3四銀なら、3二金、同玉、3一飛があるし、2四歩には4一竜、2三玉、3五飛で捕まる。 したがって脱出手段は1四歩の筋だけである。
 7六角、9七玉、1四歩と進めたとしよう。 以下、2一金、1三玉、3五金(次の図)

研究8九香図17
 3五金(図)と打って、これで後手玉に受けがなく、先手勝勢になっている。
 2四銀なら、2五桂、同銀、同金。
 2四歩には、どう攻めるか。 それには、3四歩が“詰めろ”となる(4四銀なら3一竜)
 受けがない後手は、8七と、同香、7五桂と攻めるが、2五桂、同歩、2三飛として―――(次の図)

研究8九香図18
 これで、後手玉 “詰み” となる。

 以上の調査の結果――――


8九香基本図(再掲)
 〔栗〕8九香 は先手良し


 結果が、ひっくりかえった。
 〔栗〕8九香 は、【2】7六歩、7八歩、7五桂、9七玉、7八と で先手負けということで、これでは勝てないと判断していたのだが、「再調査」で、それが誤りだったとわかったのである。
 7八歩と受けるのではなく、【2】7六歩 に、すぐに「3三歩成、同銀、5二角成」とすれば、先手が勝てる将棋だったのだ!!!
 しかも、これは難しいところがない。 ―――そう思うのは、第35譜 で、〔松〕3三歩成 の変化を研究した後だからかもしれないのだが。



[調査研究:7九香]

 〔柿〕7九香 も「再調査」しよう。

7九香基本図
 〔柿〕7九香 は、戦闘中は、「後手良し」という結論だったが、“ほんとうのところ” はどうだろうか。
 その内容を、しっかり確認しておこう。

研究7九香図01(7八歩図)
 7九香には、「7八歩」で、先手が悪い――――というのが、戦闘中の結論だった。
 それが正しかったかどうかを「再確認」していく。
 以下、〔R〕7八同香 には、7六歩と打つのが好手(次の図)

研究7九香図02
 この7六歩(図)で後手が良い。
 7六歩に代えて7七歩としたくなるところだが、それは、同香なら6六銀で後手良しだが、後手7七歩の瞬間に3三歩成、同銀、5二角成と攻める手段があり、これは逆に先手有望となる。

 7八香、7六歩以下、そこで3三歩成、同銀、5二角成と攻めていくと、7五桂、9七玉、7七歩成となり――(次の図)

研究7九香図03
 これでは7九に打った香車を無償で後手に献上したようなもので、こう進むなら最初から(7九香ではなく)7八歩のほうが良かったということになる。
 もう少し進めてみよう、7七同香、同と、4三馬、4二銀右、9八馬(代えて5四馬は7六歩とされ9八金に、9五歩で後手勝勢)、9五歩、同歩、9四歩(次の図)

研究7九香図04
 ここまで進めてみると、後手が「香」を持っていることが大きく影響し、先手に勝ち目はないとはっきりわかる。

研究7九香図05
 それなら、7六歩に、同香(図)と応じるのはどうか。
 以下、7六同桂、同玉、6六と、8七玉、7五桂、9七玉、7六と、7九桂、6六銀、7八歩、6九金

研究7九香図06
 後手優勢である。「香」を持っている後手の攻めには厚みがある。
 「7八歩、同香、7六歩」の図は、すでに先手に勝ち筋が期待できないことがわかるだろう。

研究7九香図01(再掲 7八歩図)
 そういうわけで、この図の「7八歩」を同香は、7六歩が好手で後手良しになる。
 とすれば、先手が7九香で勝つにはここで攻めていくしかない、ということになる。

 期待される攻めは2種類ある。
 〔S〕「3三歩成、同銀、5二角成」 の攻めと、単に 〔T〕「5二角成」 の攻めだ。

研究7九香図07(5二角成図)
 まず、〔S〕「3三歩成、同銀、5二角成」(図)から。
 ここで、5二同歩 と、7五桂 に分かれる。

 5二同歩 なら、3一金と打てば、先手が良くなる(次の図)

研究7九香図08
 3一飛でも、4一飛でも、7一飛でもなく、3一金(図)と打つのが“正解”となり、先手良しになる(4一飛や7一飛は3四銀で後手良し。3一飛は、5四角、9七玉、8一桂で後手良し)
 この3一金の筋は、〔松〕3三歩成で“戦後研究”で有力手段と認められた手で、ここでもこれが有効となる(3一金に3四銀なら3二金、同玉、3一飛以下詰みだし、2四歩には4一竜がある。 そして、5四角、9七玉、8一桂には、同竜、同角、4一飛で、先手良しになる)

 そしてこの場合、先の「7九香、7八歩」の手交換がさらに先手の有利に傾くように作用する。それは、ここで後手が1四歩とした場合に明らかになる。
 1四歩、2一金、1三玉、3五金(次の図)

研究7九香図09
 「7九香、7八歩」の手交換がない場合には、ここで7五桂、9七玉、7九角のような手で、3五金は打てなかったところだ。
 この3五金(図)に、2四銀なら、1五桂、同銀、同金がまた後手玉への“詰めろ”になっており、この図は先手勝勢だ(その場合ももし6九角が王手で打てたら後手良しになっている。)
 「7九香、7八歩」が先手に有利に働いたケース。

研究7九香図07(再掲 5二角成図)
 この図に戻って、5二同歩で後手負けということであれば、後手はここで 7五桂 と打つ手を選ぶだろう(次の図)

研究7九香図10
 以下、9七玉に、7七と(次の図)

研究7九香図11
 9八金に、そこで5二歩と手を戻して角を取る。
 今度は先の変化とは状況が変わり、3一金では、4二銀左、2一金、3三玉のときに、金がないので後手玉を寄せられない。この変化は後手良し。
 よって、先手は3一飛と打ち、以下4二銀左、2一飛成、3三玉、3五金(次の図)

研究7九香図12
 やはりここでも、後手7九角が打てないので3五金が打てた。
 4四歩に、8四馬(金を取る)。 8四同歩(同銀)なら3四金打で詰みだし、4三玉なら7五馬で先手勝勢になる。だから一見、先手勝ちに思える場面だが―――
 しかし、その瞬間、後手から攻める手段がある。
 8七桂成、同金、同玉に、7六角(次の図)

研究7九香図13
 7八玉、8七金、8九玉、6七角成、7八歩、7七歩(次の図)

研究7九香図14
 6七に成った角(馬)が「3四」に利いて、後手玉の詰めろを消している。そして先手玉には逆に“詰めろ”が掛かっている。
 3四金打、同馬、同金、3二竜が考えられるが、3三歩と打った図は、後手優勢。
 また、この図で4五桂は、4三玉で、これも後手良し。
 つまり、この「研究7九香図14」は、後手良しである。

研究7九香図01(再掲 7八歩図)
 これで、後手「7八歩」(図)に、〔S〕「3三歩成、同銀、5二角成」 と攻めていくのは、7五桂、9七玉、7七と以下、「後手良し」が結論となった。

研究7九香図15
 それなら、後手「7八歩」に、単に〔T〕「5二角成」(図)と攻めていくのはどうだろうか。
 後手は、7五桂と打つ。以下9七玉、7七と、9八金に、5二歩と手を戻し、そこでどこに飛車を打つか。

研究7九香図16
 4一飛(図)を考えてみよう。
 先手のこの攻めの狙いは、ここで後手に3一角と受けさせて、そこで5四歩のような攻めでどうかということである。それでも、やや後手良しという感じだが、ここでは8七桂成が、後手にとってより良い手順となる。
 8七桂成、同金、同と、同玉、3一金、3三歩成、同歩、6一飛成、7九歩成(次の図)

研究7九香図17
 こう進んでみると、はっきり後手優勢である。
 今の手順の途中、6一飛成に代えて、3一同飛成と飛車を切り、同銀、3二歩、同銀、3一金と攻めていくのも考えられるが、4二銀と受けて、後手勝勢である。

研究7九香図18
 それなら、6一飛(図)ではどうか。 3一角なら、今度は4一金と打つ手がある。
 しかしここで、5一角と受けるのが、後手の好手になる(次の図)

研究7九香図19
 5一角と受ける手は一見意味不明だが、3一角と受けるより勝る受けであるというのは、示されてみれば理屈付けできる。3一角だと先手から4一金の後3一金と取られたときに、同銀、同飛成が“王手”になる。しかし「5一角」なら、4一金から5一金と取って、同角、同飛成が“王手にならない”ので、そこで後手の手番になるのである。
 具体的に手順を示すと、この図から、4一金なら、7九歩成、5一金、同銀、同飛成に、8七金以下、先手玉が詰まされてしまう。

 したがって、先手はこの図から、4一金以外の攻め筋をさがす必要がある。ぼやぼやしていると、7九歩成~8九と~9九との着実な攻めがくる。
 3三歩成、同玉、7八香、同と、3七桂でどうか。
 しかし以下、9五歩、同歩、9四歩と9筋を攻められて―――(次の図)

研究7九香図20
 先手は7八香、同とを利かすことで、5一飛成と飛車を切って攻める準備をしたが、9筋を攻められてこうなってみると、先手は指す手に困っている。 9四同歩は9五香があるし、5一飛成は、同銀、同竜のときに、9六飛以下、詰まされてしまう。
 8五歩という手もある。 同金に、8六金と打つが、しかし「香」を持っているので、9六歩、同金、9五香がピッタリの返し技になり、後手の勝ち。
 「7九香」と打った手が、結局こうしてマイナスに働いてしまっている。

 どうやら先手の手段は尽きた。

7九香基本図(再掲)
 〔柿〕7九香 は「後手良し」、であることが再確認された。



6七と図
  〔松〕3三歩成 → 先手良し
  〔竹〕5二角成 → 先手良し
  〔梅〕2五香 → 後手良し
  〔栗〕8九香 → 後手良し → 先手良し
  〔柿〕7九香 → 後手良し(変更なし)
  〔杉〕5四歩 → 先手良し
  〔柏〕2六飛 → 先手良し
  〔橘〕3三香 → 先手良し
  〔桜〕9七玉 = 実戦の進行
  〔桐〕9八玉

 今回の調査研究の結果(〔栗〕8九香と〔柿〕7九香の再調査)を加え、「6七と図」の評価はこのようになった。
 〔栗〕8九香が、6つめの「先手勝ち筋」となった。


第40譜につづく
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