はんどろやノート

ラクガキでもしますか。

終盤探検隊 part137 ≪亜空間最終戦争一番勝負≫ 第36譜

2019年12月01日 | しょうぎ
≪最終一番勝負 第36譜 指始図≫


    [銀が怒っている]

 「お前に将棋の駒にされた者の気持ちがわかるか!」
 
   (永井豪作 漫画『真夜中の戦士』より)



 漫画『真夜中の戦士』は、1974年に『週刊少年ジャンプ』誌に発表された永井豪の短編読み切り作品で、「主人公火鳥ジュンはアンドロイドだった」というオチになっている。 これが、ショッキングな結末として当時の読者の印象に残る作品となった。
 そういえばこの翌年の1975年に『週刊少年ジャンプ』で漫画家デビューした星野之宣のSF短編にも「主人公はアンドロイドだった」というオチの短編作があった。
 この時期は、こういうドラマ(実はロボットでしたというオチ)がショッキングに感じる時代だったということである。
 ちなみに、映画『ブレードランナー』(1982年)の原作小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』(フィリップ・K・ディック著)は1968年の作品である(日本語版は1969年)。 このSF小説はアンドロイドと人間の区別が難しい未来世界を描いている。
 
 そして、『真夜中の戦士』は、主人公たち戦士がアンドロイドとして作られた理由がユニークな作品である。 この戦士たちは、このアンドロイドの製作者が、「将棋の駒として戦わせると面白いんじゃないか」というお遊びでつくった舞台(戦場)の「駒(戦士)」だったのである。
 しかし、よく考えてみると、「将棋の駒」を「アンドロイド(人間風のロボット)」にしてしまうと、もはやそれは将棋とは全く別のものである。
 この漫画作品の主人公火鳥ジュンは、将棋の「銀」の役割を与えられた戦士であるが、しかし、将棋の「銀」という駒は、5つの方向に一マスだけ進める、という特徴を持つ。それ以外の動きはできない。この “不器用さ” こそが将棋のおもしろさを作っている要素である。 これを人間風の「戦士」にして、人間風の「感情」をもたせてしまえば、それはもう単なる「人間同士の戦う戦場」に似せた何かであって、「将棋」ではない。
 将棋の駒には本来、感情はない。 時々、「銀が泣いている」などと駒を擬人化して表現することもあるけれど。
 「駒」が、お前の愛が足らないから不満だ、今は動きたくない、などと棋士の命令を聞かなかったら将棋にならない。 それは別の種類のドラマにはなるが、「将棋の面白さ」は消滅してしまう。

 『鏡の国のアリス』のアリスは、「面白そう。このチェスに参加したい」と思って、自ら望み「白のポーン(歩兵)」になったのであった。 これももはや「チェス」ではないのであるが。
 しかし『鏡の国のアリス』の登場人物の愛すべき「不器用さ」は、チェスの駒のそれと重なるところがあり、それはたいへんにおもしろい。



<第36譜 戦後の研究>


≪最終一番勝負 第35譜 指了図≫ 9七玉まで

 「最終一番勝負」は、▲9七玉 まで進んでいる。


 ここで実戦の進行を止めて、一手指し手を戻った図―――「6七と図」を研究したい。

6七と図
  〔松〕3三歩成 → 先手良し 
  〔梅〕2五香 → 先手良し(ただし互角に近い)
  〔栗〕8九香 → 後手良し
  〔柿〕7九香 → 後手良し
  〔杉〕5四歩 → 形勢不明
  〔柏〕2六飛 → 形勢不明
  〔桜〕9七玉 = 実戦の進行
  〔桐〕9八玉

 「6七と図」の結論はいまのところ、こうなっている。
 “戦後”の調査研究の内容を解説したのは、今のところは〔松〕3三歩成だけである。 調査の結果、実戦中はわからなかった「先手の勝ち筋」が確認された(前譜参照のこと)
 
 今回調査するのは、〔梅〕2五香 と、
 それから〔竹〕5二角成 である(5二角成は実戦中には全く考慮しなかった手)




[調査研究:2五香]

 〔梅〕2五香 → 先手良し(ただし互角に近い) という判断だった。

2五香基本図

 そして、“戦後調査”によって、「〔梅〕2五香 でどうやって勝つか」を追って調査を重ねていくうちに、「重大な事実」が発見された。
 なんと、〔梅〕2五香 は後手良し」という、逆の結論が出た のである!

 7五桂、9七玉、7七と、9八金と進行して次の図になり―――

研究2五香図01
 この図は後手の 7七と の “詰めろ” に、先手が9八金と受けた場面。
 そこで 「6二金」 以下を調べてきた。 「6二金」、2三香成、同玉、2五飛、2四歩、5五飛と進み、その結果は、「やや先手良し」という形勢判断になった。
 とはいえ、実質的にはほぼ「互角」の形勢で、だから我々はこの手選ぶことを見送ったのだった。(〔桜〕9七玉がより勝ちやすいと判断した)
 しかしこの図は「先手良し」ということを疑っていなかった。(「6二金」以下の変化は第34譜で示した)

 しかし―――それをひっくり返す手順を我々は発見することとなったのである。

 ここで、「2四歩」(図)が後手最善の一手のようである。

研究2五香図02
 「2四歩」(図)
 最新ソフトも「激指」も、「6二金」「2四歩」 とこの2つの手を示していた。
 どちらも、2三香成、同玉、2五飛という流れになるが、後手の金の位置と持ち歩の数という違いがある。それがどう影響するのかわからなかったので、実戦中は 「6二金」 のみに絞って考えていたのだった。
 わざわざ2四歩として一歩を損するより6二金のほうが本筋であろうと思い、「6二金」 以下を、この「一番勝負」を戦っている時には調べたのである。

 “戦後調査” で、「2四歩」 を調べ始めた。すると―――

 調べるうちにだんだんとその手の意味がわかってきた。 「2四歩」 は、「6二金」 にはないメリットがあるのである。(人間は理由がないときは動きが重くなるが、理由がわかると活発に動けるようになる)
 この手の意味は、後手はまず「香車がほしい」ということである。「香」を手にして、9五歩からの端攻めをねらう。
 そしてその時に、「6二金型」だと、4一の角が遠く9六や8五にまで利いてくる。 しかし、“5二金型のままで” 香車を取れば、その角の利きがないので、後手からの9五歩の攻めが厳しいという理屈なのだ。
 まとめると、「一歩を犠牲に5二金型のままで9五歩から攻める」というのが、「2四歩」 の意味なのである。

 2四同香、2三歩、同香成、同玉、2五飛。
 同じような展開になったが後手陣が「5二金型」なのが大きな違いだ。
 以下、2四歩、5五飛(次の図)

研究2五香図03
 そして、5五飛(図)に、そこで“4四銀” が継続する好手になるのだ。 この手にも、説明すれば明快にわかる理由がある。
 5五の飛車を5九に引かせたい―――ということである。

 後手のねらいは「9五歩からの端攻め」である。 しかしここですぐに9五歩と指した場合、7五飛、同金、同馬で、先手良しになる。 まずまずそれを確認しよう。
 以下、7六とに、1五桂、3四玉、9五竜(次の図)

研究2五香図04
 9五竜(図)で、竜を活用できた。これは後手の「9五歩の端攻め」を先手はうまく逆用できた形。
 こう進むと、先手優勢である(4七飛には8七銀と受けておく。先手は次に3五歩をねらう)

研究2五香図05
 だから、“4四銀”(図)である。
 これはつまり、先手の5五飛を、5九飛と引かせて、そこで「9五歩」のつもりである。
 ここで7五飛、同金、同馬もあるが、それは、今度は後手7六ととなったとき、先手に思わしい手がないのではっきり後手良しとなる。
 よって、5九飛、9五歩と後手の思惑どおりに進む。 9五同歩に、9四歩(次の図)

研究2五香図06
 端攻めが厳しい。
 7八歩、9五歩、7七歩、9六香、8八玉、9八香成、同香、8七金、7九玉、6七桂成(次の図)

研究2五香図07
 6七桂成がこの場合は正着手で、6七桂不成だと6九玉で先手良し。
 6八金の受けに、7七金(8八金にも7七金でよい)
 以下、同金、同成桂、6八金、6七金、同金、同成桂(次の図)

研究2五香図08
 後手の攻めがほどけない。 6八金は、7八歩(同金は7七歩)、8八玉、7六桂、8七玉、6八桂成で寄っている。
 先手負けになった。 「まさか…」の結果だった。


2五香基本図12
 こうして、評価が裏返り、〔梅〕2五香 は後手良し」が結論となった。


 先手がこの手〔梅〕2五香 を選ばなかったのは、正しかったということである。 選んだらこの勝負を負けにしていた可能性もあるわけだ。

 それにしても、我々が直感で「先手に勝ちがありそう」と思い、ソフトも“有力”と判断していたこの〔梅〕2五香で、逆に「後手良し」が確かになるというのは、思いもよらない、驚きの結果だった。



[追加調査:5二角成]

 次は、〔竹〕5二角成 の調査。

5二角成基本図
 「3三歩成、同銀」を入れないで、“単に5二角成” なら、どうなるのか。
 これが次の研究テーマである。

 戦闘中に我々が相棒としていた「激指」は、10個の候補手の中にこの手を入れていなかったこともあって、その時はまったく “単に5二角成” は読まなかった。
 “戦後”になった今でも、最新ソフト(「dolphin1/orqha1018」)もこの〔竹〕5二角成 は候補手として示さない。
 ということであれば、おそらく5二角成では勝てないのであろう―――と思ったが、それなら、どういう手順で後手が良しになるのか、それをはっきり見極めたいと思い、調べてみることにした。

 調べていくと、実は、〔竹〕5二角成 は、相当に有力だったことが明らかになっていくのである。

 〔竹〕5二角成 に、後手の応手は、(あ)5二同歩 と、(い)7五桂 とがある。
 まず (あ)5二同歩 だが、そこで4一飛や7一飛は、5一桂と受けられて後手良し。
 しかし、「3三歩成」がある―――(次の図)

研究5二角成図01
 3三同銀は、前譜で調査した〔松〕3三歩成(同銀、5二角成、同歩)に合流する。すなわち「3一金以下先手良し」である。
 それ以外の応手はどうなるか。
 3三歩成(図)に、同歩は、4一飛、3一桂、3二歩(同玉なら4二飛成以下詰み)で、先手良し。
 3三同桂は2一金までの一手詰。

 なので、3三同玉でどうなるかを調べておこう。

研究5二角成図02
 3三同玉には3五飛(図)。
 3四桂合なら4五金で先手勝勢になるが、2二玉で、まだわからない。最新ソフトも「互角」を示している。
 以下、3九香、3三桂打、3四歩、4四銀引、3三歩成、同歩、3七飛(次の図)

研究5二角成図03
 ここで後手の手が難しいが、たとえば7八角、9八玉、7六歩のような手だと、4一竜、3一銀、3四歩、同歩、2六桂で先手勝勢になる。
 だからこの図では、3一銀が後手最善手とみる。次に4二銀引と強化もできる。
 対して先手は、1五桂と打つ(次の図)

研究5二角成図04
 この1五桂(図)は、8四馬、同銀に、2三桂成、同玉、2四金、同玉、3四金(詰み)という寄せをねらっている。 持駒の少ない後手は、この受けが難しい。
 こう進んでみると、どうやら「先手良し」に傾いてきたようである。
 7八角、9八玉、6六と。 2三に角を利かせて受ける。
 先手は4一金と打ち、4二銀引に、3二歩、同玉、6一竜(次の図)

研究5二角成図05
 6一竜(図)を発見できれば、もう先手の勝ちはあと一歩というところまできた。
 次に3一金、同銀、5二竜、4二金、4一銀、2二玉、4二竜以下、後手玉は詰む。
 9六角成とすればその詰みは受けられるが、その場合は2三桂成、同玉、4二金で先手勝ち。

 よって、後手5三銀引が考えられる(3一金、同銀、5二竜、4二金は後手良し。以下4一銀、2二玉、4二竜は同銀引と取れるので詰まない)
 だが、問題ない。 5三銀引には、8四馬がある。 同銀に、3一金、同銀、4一銀とすればよい(次の図)

研究5二角成図06
 これで後手玉は詰んでいる。 2二玉、3二金、1一玉、2一金、同玉、3二銀成、同玉、3三飛成以下。 後手5三銀引で「3三」が弱くなったため、3筋の飛香が働いてこの手順で詰ますことができた。

5二角成基本図(再掲)
 以上のことから、「(あ)5二同歩なら、3三歩成で先手良し」が明らかとなった。

 では、(い)7五桂 なら、どうだろうか(次の図)

研究5二角成図07
 (い)7五桂(図)、9七玉、7七と、9八金と金を使わせ、そこで5二歩と手を戻す。
 そこで3三歩成は、今度はもう同銀でも同歩でも同玉でも後手良しになる(その手順は省略する)
 だから、先手は飛車を打つ(次の図)

研究5二角成図08
 7一飛(図)と打った。 後手は桂を手放したので、もう5一桂のような受けない。
 だからといって、3一角や5一角と受けに角を使うようでは、後手に勝ち目はなくなる。
 なのでここは後手は7九角と打ち、先手8八香の受けに、1四歩と端からの脱出を図る。
 先手陣はそのまま放っておくと、8八とから寄せられてしまうので、8九金と金を投入して受ける(次の図)

研究5二角成図09
 8九金に、〈ア〉3五角成とするか、あるいは〈イ〉4六角成か。
 (なお、5七角成では、2一飛成、1三玉に、3六桂があって先手勝勢になる)
 
 〈ア〉3五角成は、2一飛成、1三玉 の次に、4一竜左が好手になる。

研究5二角成図10
 4一竜左(図)に2四玉と逃げても、3二竜左が詰めろになるのが大きい。 以下3六馬、3三歩成、3五玉、4二とが予想され、先手優勢。
 したがって、後手は4一竜左に、8八と、同金寄、9五歩と攻める。 9五同歩、9六歩、同玉、9四歩、9七玉、9五歩、9八玉、9六歩、7八金上、3一香(次の図)

研究5二角成図11
 これ以上は先手陣に“詰めろ”で迫る手がないので、ここで後手は3一香(図)と受けた。
 しかし、これは、同竜左と取って、同銀に、2六香と打てばよい。
 以下、2二銀に、1五歩(次の図)

研究5二角成図12
 先手優勢である。2六馬、同歩、6九飛にも、7九歩と受けて先手良し。

 〈ア〉3五角成は、4一竜左と迫る手があって、先手良しになった。

研究5二角成図13
 〈イ〉4六角成(図)は、2一飛成、1三玉。
 今度は、4一竜左では、後手良しになる。2四玉と逃げられ、3二竜左に、3五玉と逃げられるところが上の場合と違うところ。 これは後手優勢である。
 では、どうするか。 ここからの手が広く、どちらが良いのかわからない。 最新ソフトは、7八歩や1七桂や3二竜や3三歩成や7一竜などの手を候補手として示している。どれも決め手に欠き、はっきりしない。
 だから、「形勢不明(互角)」として調査を打ち切ろうと思っていたが――――“好手”を見つけたのである(次の図)

研究5二角成図14(2六歩図)
 “2六歩”(図)。 この手は、偶然見つけた。
 最新ソフト(「dolphin1/orqha1018」)はこの2六歩を上位の候補手として示してはいなかった(8位~10位に時々現れたり消えたりしていた手)
 なんとなくこの手を調べてみて、そして調べるにつれ、この“2六歩”(図)が最有力手ではないかという感触になってきたのであった。 これで「先手良し」なのではないか。
 検討していこう。

研究5二角成図15
 “2六歩”(図)に、後手が 9五歩 とすると、1五桂(図)があって先手が勝つ。
 1五同桂は、8四馬がぴったりとした手になり、同銀は、1二竜、同玉、1四香以下の“詰み”がある。
 1五桂に、2四玉は、2三竜、3五玉に、2五竜で、これもぴったり詰んでいる(4六馬が後手玉の行く道を塞いでしまっている)

研究5二角成図16
 なので、後手は8八と と香車を取る。 同金寄に、そこで 9五歩 と突けば、今度は「香」を持っているためこの手が先手玉への “詰めろ” になっており、先ほどの1五桂の返し技が利かない(次の図)

研究5二角成図17
 後手 9五歩(図)の端攻め。 9五同歩に、9六歩、同玉、9四歩と攻めてくる。
 これには同馬とするのが正着(次の図)

研究5二角成図18
 9四同馬(図)に代えて、9七玉と逃げるのは、9五歩、9八玉、9六歩、7八金上、7六桂となって、先手が悪い。
 だから9四同馬しかないのだ。
 以下は、9四同金、同竜、6九角(王手をしながら2五にも利かせている)、7八歩、2四玉、8三竜、6二銀引と進む(次の図)

研究5二角成図19
 後手は6二銀引(図)とし、8二香のような手を含みに残しておく。
 ここで先手は3二竜(8五桂も有力)
 以下3五玉、3三歩成、4七角成(8三竜に当たっている)、4二と、3四歩、8五竜、7四銀、9四竜(次の図) 

研究5二角成図20
 後手は持駒が少ない分だけ少し苦しい形勢だ。正しく指せば先手が勝てるという将棋。
 もう少し進めてみよう。
 2九馬、4三竜、3六玉、4八銀(次の図)

研究5二角成図21
 4八銀(図)で、後手玉は入玉が難しくなった。
 2七玉には3九金、1九馬行なら3九桂がある。また4九金には、3七金、同馬、同銀、同玉、4九竜がある。
 先手優勢。

研究5二角成図22
 戻って、9五歩 に代えて、3六馬(図)の場合。
 この手は攻防の意味があり、攻めては6九馬と入る手や、9五歩、同歩、9六歩、同玉、6三馬のような狙いがある。そして受けとしては「2五」に利かせて、次に2四玉と脱出したときの先手8四馬~2五金を防いでいる。また図で1五桂なら同歩と応じて後手が良い(1二竜、同玉、8四馬、同銀、1四香の詰み筋を3六馬が防いでいる)
 ここは、2五歩と歩を突くのが良い。
 2五同馬に、3七桂、6九馬、7八歩と進む(次の図)

研究5二角成図23
 ここで後手9五歩は、8四馬(8四同銀には3五金)で先手勝ち。
 だから後手は2四玉としたいところ。しかしそれには2七桂がぴったりした手になり、以下4六銀に、8四馬、同銀、3二竜(次の図)

研究5二角成図24
 3二竜(図)として、次に2五歩、同馬、2一竜左がねらい。適当な受けもない(3一歩は同竜左で無効)
 よって、先手勝勢である。 2四玉には2七桂が良い手になった。

研究5二角成図25
 後手2四玉でダメだととすれば、攻める手になる。7六桂という手がある。その手には7七金と応じ、以下8八香で、この図である。
 8八香(図)を同金、同桂成となれば、先手負け。
 しかしここは攻めて、先手が勝てる場面になっている。たとえば8四馬(同銀なら3五金)、8九香成、7五馬、7九馬、8七玉で先手良し。
 もっと鋭い寄せは、この図で1二竜だ。 同玉に、2五桂打(次の図)

研究5二角成図26
 これで後手玉は寄っている。図は1三香以下の3手詰だが、2四歩、8四馬、2五歩、2四香、3一桂、同竜、同銀、2三金が想定手順で、先手勝ち。


5二角成基本図(再掲)
 〔竹〕5二角成 は以上のように、(あ)5二同歩 も、(い)7五桂 も、いずれも「先手良し」になった。
 つまり、「先手良し」が確定である。

 ただし、この〔竹〕5二角成と〔松〕3三歩成(同銀、5二角成)、実際にどちらを選ぶかを考えた場合、〔竹〕5二角成 は、(あ)5二同歩、3三歩成、同銀となると、〔松〕3三歩成 の手順に合流し、それに加えて後手には (い)7五桂 の選択権がある。 その変化を考慮しなければいけない分だけ、先手は苦労(読まなければいけない量)が倍増する。
 だから選ぶとすれば、〔松〕3三歩成 のほうになるだろう。 理論的、現実的には、そういうことになる。




6七と図
  〔松〕3三歩成 → 先手良し 
  〔梅〕2五香 → 先手良し(ただし互角に近い) → 後手良し
  〔栗〕8九香 → 後手良し
  〔柿〕7九香 → 後手良し
  〔杉〕5四歩 → 形勢不明
  〔柏〕2六飛 → 形勢不明
  〔桜〕9七玉 = 実戦の進行
  〔桐〕9八玉
  〔竹〕5二角成 → 先手良し

 これまでの結果をまとめると、このようになる。




[調査研究:2五香(追加調査)]

 さて、〔梅〕2五香 について、もう少し深く調査したので、その内容を以下に書いておく。

2五香基本図(再掲)
 〔梅〕2五香 、7五桂、9七玉、7七と、9八金、2四歩、同香、2三歩、同香成、同玉 と進んで、次の図。

研究2五香図09
 上での調査研究では、ここで、以下(1)2五飛 と打った。 以下進めた結果は「後手良し」となった。

 しかしここで、(1)2五飛 以外の手があるのでは――――というのが、次の研究テーマとなる。
 (2)7八歩、それから、(3)3七桂 という有力手があるので、それでどうなるかを以下検証していく。

 まず(2)7八歩 だが、7八歩 に、後手が 7六歩 と応じるなら、5二角成以下、先手良しになる―――というのが、(2)7八歩 と打つ意味である。

 その効果を知るために、まずここで(4)5二角成 と攻めていくとどうなるかを先に示しておく。
 (4)5二角成、同歩、2一竜、2二歩、2五飛、2四香(次の図)

研究2五香図10
 5五飛、7九角、8八桂(次の図)

研究2五香図11
 桂馬があれば、図で先手1五桂、1四玉、2三銀以下の“詰めろ”が後手玉にかかる状態になる。 だから7九角には“8八金打”と受けたいのだが、それは、同角成、同金、8七金以下、先手玉が詰まされてしまう。
 だから、8八桂(図)と桂合で受けたのだが、これで後手玉への詰めろは消えた。
 よって、後手は8八同と と取り、しかたなく先手はこれを 同金 と応じることになる。
 そして、8八同角成、同玉、7六桂打(次の図)

研究2五香図12
 7六桂打(図)で先手玉は、ぴったり詰まされてしまう。

研究2五香図13(7八歩図)
 さて、(2)7八歩(図)
 7八同と なら、先手玉は今の詰み筋がないので、7九角に8八金打と打って先手良しになる。
 そして、(2)7八歩に、7六歩 の時にも、またこの(2)7八歩の手の効果が現れる。

研究2五香図14
 先ほどと同じように進めたとき、7九角、8八桂(図)と受けてこの図となる。
 今度は、8八同と、同金、同角成、同玉 と進めたときに、後手“7六桂打”の手がないのがこの図を見ればわかるだろう。先手玉に詰みがないので今度は「先手良し」になるのである。
 一例として、ここから、8八と、同金、4四銀と進んだとする。この4四銀は、5九飛なら、8八角成、同玉、8七金、8九玉、6七桂成と、先手玉に迫る狙い。
 先手は、飛車を引かず、4一銀と打つ(次の図)

研究2五香図15
 後手玉に “詰めろ” をかけて、以下 3四玉、3二竜、3三歩、3五歩、同角成、5九飛が予想され、先手優勢である。

研究2五香図13(再掲7八歩図)
 「7八歩図」に戻る。 ここで 7八同と および 7六歩 なら、先手良しになるとわかった。
 しかしまだ後手の応手として、7六と がのこっている(他に9五歩も有力だ)

研究2五香図16
 「7八歩、7六と」の手交換で先手が良くなっているかどうか。
 ここで5二角成は9五歩とされて先手勝てないので、「2五飛、2四歩、5五飛」を選ぶことになる。
 以下、9五歩、同歩、同金(次の図)

研究2五香図17
 「7六と」の手を利用して9五金と攻めてきた。
 先手は7五馬と桂馬を取る。 もちろん 同と なら9五竜だ。
 7五馬以下、9六香、8八玉、9八香成、同玉、8七金、8九玉、6七と(次の図)

研究2五香図18
 進めてみると、どうやら「後手勝ち」になった。(1五桂は2二玉で惜しくも後手玉は詰まない)

 つまり、「(2)7八歩は、7六と で後手良し」である。

研究2五香図19
 それでは、(3)3七桂(図)はどうか。
 この手は、次に5二角成をねらっている。3七桂と後手玉の上部を押さえているので、後手玉が詰みやすくなっていて、ここで6六銀なら5二角成(同歩なら後手玉詰み)で先手良し。
 また、2二玉としても、5二角成で先手が良い。
 (3)3七桂には、9五歩が後手ベストの手。 先手玉への詰めろなので、先手は9五同歩と取る。
 以下、“9六歩”、同歩、9四歩(次の図)

研究2五香図20
 ここで8四馬と取って、先手優勢になる。
 8四馬、同銀、2五飛、2四角となる。 後手としては、角は攻めに使いたいので2四角と打ちたくはないが、代えて2四香では、同飛、同玉、2五金以下詰んでしまうので、2四角合はしかたがない。
 そこで9四竜(次の図)

研究2五香図21
 先手勝勢である。
 次に先手3五金と打つ手がある。それを受ける4四銀上には、8四竜、同歩に、2四飛、同玉、2五銀、2三玉、1一角で、後手玉は“必至”となる。

研究2五香図22
 上の手順は、9五歩、同歩、9六歩、同歩、9四歩と後手が攻めたが、“9六歩” に代えて、“9二歩”(図)と工夫する手がある。
 同馬 と取らせて、今の変化に出てきた8四馬のような筋をなくす意味である。  
 〈a〉9二同馬と、〈b〉9二同竜 とがある。
 
研究2五香図23 
 〈a〉9二同馬に、後手は7六と(図)
 7六とは、次に9五金とするねらいである。
 先手は8一馬。これは9一竜を受けに利かせて後手の9五金を防ぎつつ、4五馬の活用をみた手。

研究2五香図24
 後手は5六銀(図)。 この手が好手で、先手の4五馬を防ぎながら先手玉の活動域を狭めている。 3六馬なら、8六と、同玉、7四銀が“詰めろ”で、後手優勢。
 ここは、5七歩が最善手になる。5六の銀が動けば、4五馬(後手玉への詰めろ)が入り先手勝ちになる。
 後手は9四歩。 以下5六歩、9五金と進む(次の図)

研究2五香図25
 これで、どっちが勝っているのか。
 8八玉、8六金、8九玉、8七と(次の図)

研究2五香図26
 早逃げしてみたが、どうやら、後手が勝てる将棋となっている。
 ここで2五飛、2四歩、7五飛という手はあるが、7六香で後手勝勢である。

研究2五香図27
 戻って、“9二歩” に、〈b〉9二同竜(図)と、竜で歩を払うのはどうか。
 〈b〉9二同竜には、2二玉とする。 この手は(先手の手を見ながら)次に3一玉を狙っている。
 そこで 4五桂 と攻めたいところだ。しかし4四銀引、5三桂成、同銀引となって、桂を渡すと後手からの 9五金、9六歩、8四桂 という攻め筋もできて、どうやら後手良しになるようだ。
 2二玉に、9一竜 とするのもあるが、後手2三歩とキズを消しておいて、これでやや後手が良い形勢である。この変化は “9二歩” の犠打によって後手が手を稼いで自玉を整備したということになる。

 それなら、〈b〉9二同竜、2二玉に、2五飛 でどうなるか。 以下、2四歩、5五飛、3一玉(次の図)

研究2五香図28
 5二角成、同歩、9一竜、5一香(次の図)

研究2五香図29
 こう進んで、やはりこれも後手良し。
 先手は5九飛と金を取れるが、7八角で後手勝勢になる。7五飛、同金、同馬の二枚替えもあるが、やはり6九角、9六銀、7六とで先手勝てない。
 7八歩と打つのも、7六とで、次に6八角が厳しい。

 つまり、(1)2五飛に代えて、(2)7八歩 も、(3)3七桂 も、「後手良し」になった。

 すなわち、〔梅〕2五香 は後手良し」である。




 今回の調査結果を加えた「6七と図」についてのまとめは、次のようになる。

6七と図
  〔松〕3三歩成 → 先手良し 
  〔竹〕5二角成 → 先手良し
  〔梅〕2五香 → 後手良し
  〔栗〕8九香 → 後手良し
  〔柿〕7九香 → 後手良し
  〔杉〕5四歩 → 形勢不明
  〔柏〕2六飛 → 形勢不明
  〔桜〕9七玉 = 実戦の進行
  〔桐〕9八玉

 〔梅〕2五香で後手良し というのも、〔竹〕5二角成で先手良し というのも、“思いもよらない結果” であった。 この調査を始める段階では、「〔梅〕2五香で先手良し、〔竹〕5二角成で後手良し、を証明しよう」という、そのつもりで調査を開始したはずだったのが、それが完全にひっくりかえった結果になったのだから。



 第37譜に続く