経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

原理原則は「知財だから」というわけではなく。

2012-05-16 | 書籍を読む
 昨年度、四国経産局の事業で御一緒させていただいたデザイナーの大口様の著作、「稼ぐ デザイン力」を読みました。以前、このブログで「中小企業のデザイン戦略」という新書を紹介しましたが、その本と同じく、‘デザイン’に対するイメージが変わるというか、その本質がよく理解できる、お薦めの一冊です。
 私はこれまで、主に技術(特許)面から知財を見てきましたが、いろいろ考えてきたことに共通点が多いことにも驚かされます。デザインも知財の一つだから、というよりも、これは何も知財に限ったこと、知財だからそうなる、というわけではなく、どうやって事業に、経営に役立てるかということから考えると、結局原理原則は同じところに落ち着いてくるのではないかと思います。
 その中から2点、例を挙げてみることにしましょう。

 1つ目は、デザインを真似ることにはどういう問題があるか? という問いについて。
 この本では、デザインを真似ようとしている時点でライバルはさらに次に進んでいるはずだから、真似たデザインでは古いイメージになってしまいやすい、といった対競合との関係について説明した後に、社員等の関係者の意識の部分に着目し、「類似のデザインでは携わる人間すべてがモチベーションを落とす」 と説明しています。
 この、社員等の関係者の意識に対する効果については、技術についても同じことがいえるはずです。「会社のプライド」のエントリでは、フィーサさんや、テンパール工業さんの例を挙げて説明しましたが、特許の存在は、「我が社は他にはない技術に支えられた商品を売っている」という、営業マンのプライドの支え、モチベーションにもつながるものです。オリジナリティというのは法的な側面だけでなく、人の心に与える影響が大きいこと、技術やデザインを考える際には、ここも決して見落としてはいけない部分です。

 2つ目は、模倣品対策ですが、以下にコピー商品対策についての記述の一部を引用します。

 「コピー」にいちいち文句をつけていてはきりがありません。それよりも、「本物」としての魅力を引き上げることに全力を上げたほうがよいのです。コピー商品は自社の宣伝をしてくれるものと考え、自社製品の品質を上げ、さらには新商品を開発していくことに力を入れる。長期的に見れば、それが一番効果的です。

 ここでは警告や権利行使の必要性を否定しているわけではなく、それはあくまで短期的に必要になる対策であって、長い目で見た場合の差異化の本質を見失ってはいけない、ということを述べておられます。
 模倣品対策については、相手を排除することによって差異化するという方法だけでなく、相手を活かしながらその違いを明示して本物であることをアピールする、すなわち相手を下げるのではなく自分を上げることによって差異化する方法もあるわけで、知的財産権には前者の狙いで模倣品を排除するという機能だけでなく、後者の方法を考える場合にも、知的財産権の存在は‘本物’であることの証明になるものです。
 勿論、本物と見間違って購入されることを狙ったようなそっくりそのままのコピー商品を放置するわけにはいきませんが、1社の製品しか存在しないような市場が拡大するなんてことは医薬品でもない限り現実的ではないし、どんなに優れた製品でもいずれは何らかの形でキャッチアップされてくるものです。
 本物として進化し続けるという勝利の王道を見失わないように、短期的な対策と長期的な対策をしっかり区別して考える。この考え方には大いに共感します。

稼ぐ「デザイン力!」―経営者・管理職のためのデザイン戦略入門
クリエーター情報なし
アーク出版


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。