中小企業の知財のあるべき骨格をわかりやすく示すのに、これまでに「経営課題→知財活動→成果のループ」(ここがポイント・3p.)とか「定着モデル」(プランニングブック・13p.)とか、いろんなモデルを考えてきましたが、現時点で一番使えると思っているのが、定着モデルをフローで表したこの図です。今までこのモデルには名称がなかったのですが、これでいくことに決めました。名付けて、「上から知財」。
「定着モデル」において特に重要なポイントは、知財に取り組む際には、法制度や実務に関する知識の習得、体制整備に力を入れればよいというものではない。そもそも何のためにわざわざ時間とお金をかけて知財活動に取組むのか、その目的意識を明確にしておくことが必要だ、というところにありますが、ではその知的財産活動に取組む目的はどうやって導き出されるのか。そして、定着モデルと日々の業務との関係はどのようにあるのか。その関係をフローで示したのが、この「上から知財」です。
現在講師を担当している、あいち知財経営塾、高知県知財塾、そしてその原型である西条知財塾は、いずれもこのモデルに基づいてカリキュラムを設計しています。
まず、参加者の皆さんに、知財を意識することなく、自社が抱えている‘経営の悩み’(=経営課題)を書き出していただきます。社長でなくても社長になったつもりで、これを考えるところからスタートします。
次に、私から具体的な事例を紹介しながら‘知的財産の力’(=7つの知財力+1)について解説します。ここでは、知財=排他権=参入障壁・模倣排除、のように固定して考えないことがミソ。その多様性とあわせて、会社が本当に目指すべきものは何なのか、他者を排除することだけを考えていて本当に会社の発展につながるのか、中小企業ゆえに考慮すべき問題は何なのか、といったことも考えていきます。
そして、最初に考えた‘経営の悩み’と‘知的財産の力’を照らし合わせて、自社が抱えている悩みに対して、知的財産活動を通じて何ができるのか、ということを考え、そこから‘その会社が’知的財産活動に取組む目的を明らかにします。ここをしっかりと腑に落ちる、説得力のあるものにして、関係者で意識を共有することが大切。目的がちゃんと見えていないと、どんな活動だって長続きしません。
知的財産活動に取組む目的がはっきりすれば、そのために必要な組織のあり方・仕事の役割分担、必要な規程や書式、仕事の流れといった知的財産活動に必要な仕組みも、自ずから見えてくるはずです。そして、ここで重要なことは、仕組み作りを目的化するのではなく、そもそもの活動の目的に沿った仕組みを作ること。特許の力で市場で独占的なポジションを固めていくことが目的であれば、特許の実務知識が豊富な専任の担当者をおいて集中的に取り組んだ方がいいだろうし、社員の意識共有やアイデア出しの活性化が目的であれば、手続面の敷居を下げながら幅広く参加できる仕組み作りが必要。「中小企業が知財専任の担当者を置くべきか?」といった議論自体は不毛であり、それは目的によって自ずから決まってくるはずのものなのです。
こうして作った仕組みに基づいて日々の実務が行われ、1件1件の特許や商標がつくられ、ノウハウの管理が進められていく。
これが、「上から知財」のアウトラインです。
一方、「知財、ヤルぞ!」と気合を入れた場合に嵌ってしまいやすいパターンが、その逆である「下から知財」です。特許を取った、商標を登録した。もっと取るには、これを活かすには、専任の担当者が必要だ。規程や書式も整備しなければ。なんてやっているうちに、お金も時間も賭けてる割には儲からないぞ、取っただけじゃだめだ、活用しろ。で、活用ってどうするの?ライセンス?侵害を見つけて警告?誰がやってくれるの?特許流通?コンサルタント?・・・こうなってくると泥沼です。
そもそも論になりますが、ビジネスがどうしてビジネスとして成り立つのか。中小企業や零細業者が、いろいろ不利な条件も克服しながらどうして飯を食っていけているのか。それは、自分の仕事にこだわりをもって、その仕事が必ず世の中の役に立ち必要とされるはず、俺がやらなくて誰がやる、と「魂を込めて」やっているからに他なりません。そういう根っこの部分でのパワーがないと、普通は幾多の困難が待ち受けている事業の立上げなんてやっていけないでしょう。それを、「私は使いませんからどうですか」って流通してきた他人様の知財を、果たして「魂を込めて」事業にしていけるんだろうか。未利用特許を活用して・・・といったコンセプトを絵に描くことはできたとしても、そこにはそういう精神的な支えとなるものが考慮されておらず、もちろんいろんなケースがあるので可能性ゼロとは言いませんが、私はこうした‘特許活用’や‘特許流通’にはかなり懐疑的です。今まで耳にした中で、これはいい事例だと感じた‘特許流通’の成功例は、ある中小企業が推進していた事業でどうしても行いたかった新サービス、そのために欠けていた1ピースを、当時の特許流通アドバイザーさんが特許を検索して発見し、技術導入に結びつけた。こういう事例は、まさに魂を込めた事業を実現するのに必要なピースとして外部の特許が活用された例ですが、これは「こういう事業をやりたい、こういうピースが足りない」と「上から」いっているからこそ嵌ったのだと思います。
知財が「下から」になってしまいやすい理由は、「財産」としての側面が強調されやすいことにもあるように思います。財産なんだから、まずは確保しておくことに意味があると。しかしながら、誤解をおそれずに言えば、知的財産そのものに価値があるわけではない。これは「オープンビジネスモデル」にも、「テクノロジー自体には固有の価値はない。テクノロジーを市場に投入するためのビジネスモデルが価値を決定する。同じテクノロジーであってもビジネスモデルが異なれば、提供される価値は異なる」と書かれているとおりで、「上から」いかないと知財はなかなかその価値を見せてはくれません。
少し話がそれましたが、個別の企業に限らず、行政の知財支援も「下から知財」になってしまう傾向があるように思います。例えば、地域の産品の商標を登録して地域を元気にしましょう、なんていうのも「下から」の典型例で、商標を登録したからといって物が売れるようになるわけでもなく、それだけで地域が元気になるはずもない。地域を元気にするために必要なものは何か、例えばそれが、この地域ならではの強みの理解とその意識共有、さらにはPRと考えられるのであれば、まずはそこから取組みを進める。つまり、その地域の産品の特徴をもう一度みんなで洗出して議論し、ではその強みを何と表現すればよいのか、それをみんなで考えて意識を共有し、一つの地域ブランドとして表現し、最後に商標登録をする。この順序が「上から知財」の発想です。
考え見れば、「上から」いくべきなのは知財に限った話でなく、企業がソフトウェアを導入するときも資金調達をするときも同じことです。グループウェアを導入してから「さぁ何をしようか」ではなく、何かをするためにグループウェアを導入する。資金調達をしてから「さぁ何に使おうか」なんてことになればバブルを疑ったほうがよく、資金調達は何かにお金が必要だから行うべきものです。それを考えても、やはり「上から知財」は基本中の基本といえるのではないでしょうか。
「定着モデル」において特に重要なポイントは、知財に取り組む際には、法制度や実務に関する知識の習得、体制整備に力を入れればよいというものではない。そもそも何のためにわざわざ時間とお金をかけて知財活動に取組むのか、その目的意識を明確にしておくことが必要だ、というところにありますが、ではその知的財産活動に取組む目的はどうやって導き出されるのか。そして、定着モデルと日々の業務との関係はどのようにあるのか。その関係をフローで示したのが、この「上から知財」です。
現在講師を担当している、あいち知財経営塾、高知県知財塾、そしてその原型である西条知財塾は、いずれもこのモデルに基づいてカリキュラムを設計しています。
まず、参加者の皆さんに、知財を意識することなく、自社が抱えている‘経営の悩み’(=経営課題)を書き出していただきます。社長でなくても社長になったつもりで、これを考えるところからスタートします。
次に、私から具体的な事例を紹介しながら‘知的財産の力’(=7つの知財力+1)について解説します。ここでは、知財=排他権=参入障壁・模倣排除、のように固定して考えないことがミソ。その多様性とあわせて、会社が本当に目指すべきものは何なのか、他者を排除することだけを考えていて本当に会社の発展につながるのか、中小企業ゆえに考慮すべき問題は何なのか、といったことも考えていきます。
そして、最初に考えた‘経営の悩み’と‘知的財産の力’を照らし合わせて、自社が抱えている悩みに対して、知的財産活動を通じて何ができるのか、ということを考え、そこから‘その会社が’知的財産活動に取組む目的を明らかにします。ここをしっかりと腑に落ちる、説得力のあるものにして、関係者で意識を共有することが大切。目的がちゃんと見えていないと、どんな活動だって長続きしません。
知的財産活動に取組む目的がはっきりすれば、そのために必要な組織のあり方・仕事の役割分担、必要な規程や書式、仕事の流れといった知的財産活動に必要な仕組みも、自ずから見えてくるはずです。そして、ここで重要なことは、仕組み作りを目的化するのではなく、そもそもの活動の目的に沿った仕組みを作ること。特許の力で市場で独占的なポジションを固めていくことが目的であれば、特許の実務知識が豊富な専任の担当者をおいて集中的に取り組んだ方がいいだろうし、社員の意識共有やアイデア出しの活性化が目的であれば、手続面の敷居を下げながら幅広く参加できる仕組み作りが必要。「中小企業が知財専任の担当者を置くべきか?」といった議論自体は不毛であり、それは目的によって自ずから決まってくるはずのものなのです。
こうして作った仕組みに基づいて日々の実務が行われ、1件1件の特許や商標がつくられ、ノウハウの管理が進められていく。
これが、「上から知財」のアウトラインです。
一方、「知財、ヤルぞ!」と気合を入れた場合に嵌ってしまいやすいパターンが、その逆である「下から知財」です。特許を取った、商標を登録した。もっと取るには、これを活かすには、専任の担当者が必要だ。規程や書式も整備しなければ。なんてやっているうちに、お金も時間も賭けてる割には儲からないぞ、取っただけじゃだめだ、活用しろ。で、活用ってどうするの?ライセンス?侵害を見つけて警告?誰がやってくれるの?特許流通?コンサルタント?・・・こうなってくると泥沼です。
そもそも論になりますが、ビジネスがどうしてビジネスとして成り立つのか。中小企業や零細業者が、いろいろ不利な条件も克服しながらどうして飯を食っていけているのか。それは、自分の仕事にこだわりをもって、その仕事が必ず世の中の役に立ち必要とされるはず、俺がやらなくて誰がやる、と「魂を込めて」やっているからに他なりません。そういう根っこの部分でのパワーがないと、普通は幾多の困難が待ち受けている事業の立上げなんてやっていけないでしょう。それを、「私は使いませんからどうですか」って流通してきた他人様の知財を、果たして「魂を込めて」事業にしていけるんだろうか。未利用特許を活用して・・・といったコンセプトを絵に描くことはできたとしても、そこにはそういう精神的な支えとなるものが考慮されておらず、もちろんいろんなケースがあるので可能性ゼロとは言いませんが、私はこうした‘特許活用’や‘特許流通’にはかなり懐疑的です。今まで耳にした中で、これはいい事例だと感じた‘特許流通’の成功例は、ある中小企業が推進していた事業でどうしても行いたかった新サービス、そのために欠けていた1ピースを、当時の特許流通アドバイザーさんが特許を検索して発見し、技術導入に結びつけた。こういう事例は、まさに魂を込めた事業を実現するのに必要なピースとして外部の特許が活用された例ですが、これは「こういう事業をやりたい、こういうピースが足りない」と「上から」いっているからこそ嵌ったのだと思います。
知財が「下から」になってしまいやすい理由は、「財産」としての側面が強調されやすいことにもあるように思います。財産なんだから、まずは確保しておくことに意味があると。しかしながら、誤解をおそれずに言えば、知的財産そのものに価値があるわけではない。これは「オープンビジネスモデル」にも、「テクノロジー自体には固有の価値はない。テクノロジーを市場に投入するためのビジネスモデルが価値を決定する。同じテクノロジーであってもビジネスモデルが異なれば、提供される価値は異なる」と書かれているとおりで、「上から」いかないと知財はなかなかその価値を見せてはくれません。
少し話がそれましたが、個別の企業に限らず、行政の知財支援も「下から知財」になってしまう傾向があるように思います。例えば、地域の産品の商標を登録して地域を元気にしましょう、なんていうのも「下から」の典型例で、商標を登録したからといって物が売れるようになるわけでもなく、それだけで地域が元気になるはずもない。地域を元気にするために必要なものは何か、例えばそれが、この地域ならではの強みの理解とその意識共有、さらにはPRと考えられるのであれば、まずはそこから取組みを進める。つまり、その地域の産品の特徴をもう一度みんなで洗出して議論し、ではその強みを何と表現すればよいのか、それをみんなで考えて意識を共有し、一つの地域ブランドとして表現し、最後に商標登録をする。この順序が「上から知財」の発想です。
考え見れば、「上から」いくべきなのは知財に限った話でなく、企業がソフトウェアを導入するときも資金調達をするときも同じことです。グループウェアを導入してから「さぁ何をしようか」ではなく、何かをするためにグループウェアを導入する。資金調達をしてから「さぁ何に使おうか」なんてことになればバブルを疑ったほうがよく、資金調達は何かにお金が必要だから行うべきものです。それを考えても、やはり「上から知財」は基本中の基本といえるのではないでしょうか。