経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

仕事の定義

2011-05-10 | 書籍を読む
 引続き、最近読んだ新書シリーズです。
 中小企業に特化している2人の工業デザイナーの書かれた「中小企業のデザイン戦略」です。企業と顧客を結ぶ知財を扱ううえで成果を上げていきたいと思うなら、もっと顧客に近い出口の部分も理解しないと、なんて最近よく思うので手に取ってみたのですが、期待以上の内容でした。いわゆる知財屋としての仕事のあり方に当てはめてみても考えさせられるところ大なので、特に中小企業をターゲットに「特許事務所の仕事はどうあるべきか」とか悩んでいる人は、たぶん読んでおいたほうがいいと思います(勿論、同じ知財だから「新規業務としてデザインを始めよう」なんて意味ではありませんが)。

<その1> 前工程にしっかり時間をかける。
 デザインというと図面を引く仕事が中心というイメージがあったのですが、それはほんの一部であって、その前段階のコンセプト作りにかける時間が凄い。経営者をはじめ関係者と議論を重ね、商品を通して顧客に伝えたいことやその会社のコアコンピタンスを引き出していくそうですが、そういう前工程にたっぷり時間をかけるので、1つのプロジェクトに3~6ヶ月、長いものであれば1年くらいかけるとのことです。先願主義とかが絡んでくる我々の仕事と同一視することはできませんが、これまでの仕事のやり方はあまりに前工程が不足しているのではないか。工業デザイナーのプロフェッショナルとしてのスキルは、図面を引くこと以上に前工程の経験の蓄積にあるようで、そこは知財屋も中小企業の仕事をするならば、もっと考えていかなければならない部分だと思います。

<その2> 「事業計画を作成して、デザイン予算を決定してから声をかけてください。デザイン予算は指値でもかまいません。・・・『まずは事業計画と予算ありき』です。」
 これにはちょっと驚きました。昨年度に制度設計をお手伝いさせていただき、今年度からスタートした‘横浜知財みらい企業支援事業’は、事業に活かす知財活動を支援するために、まず事業計画が存在していることや知財活動の目的が明確に意識されていることを支援の前提にしていますが(その段階に至る前であればその切り口から支援する)、そんなことは工業デザインの世界(少なくとも著者のお2人)では前から意識し、実践されていたことだったんですね。特許出願とかの場合、通常であればデザインよりもステージが早いので、‘事業計画’とまではいかないこともあるかもしれませんが、少なくとも‘事業化のイメージ’くらいはできていないと、出願をしてもその知財は結局活かされない可能性が高い(「知的財産経営の定着に向けて」の株式会社アカネ・砂本社長へのインタビューの135p.下段参照)。そこは我々も中小企業からの依頼を受ける際には、確認しておくべき点かと思います。そして「指値でも構わない」の意味は、値段に合わせた作業内容をこちらから提示する、ということだそうです。

<その3> 自らの仕事の定義がきっちりとできている。
 ここが一番重要なのではないかと思いますが、「メーカーとユーザーの両者の立場を視野に入れ、それぞれの問題点を見つけ出し、商品の持つイメージや使い勝手を通して、両者のスムーズなコミュニケーションを実現する」のが工業デザインの役割である、と定義しています。上記のポイントにしても、結局はこの定義がしっかりしていれば、具体的なやり方も自ずから定まってくるということなのでしょう。やっぱりそこが一番のポイントです。


中小企業のデザイン戦略 (PHPビジネス新書)
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