経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

新刊のお知らせ

2008-01-26 | お知らせ
 「よくわかる 知的財産権担保融資」(金融財政事情研究会)が発売になりました。マニアックなテーマなので、お読みいただける方はどうしても限られてきてしまうと思いますが、担保権の設定手続や担保評価の方法などテクニカルな解説は半分程度で、残りの半分は融資先企業の知的財産権をどのように見るかという部分にスポットを当てています。以下、本書の「はじめに」からです。

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 知的財産権担保融資への取り組みを始めるにあたっては、この融資をどのような目的で開始し、どのような効果を期待するかを十分に意識しておくことが重要になります。「担保」という部分にばかり目がいくと、「不動産担保に代わる有力な手段として融資推進に活かせるだろう」とう期待を抱いてしまうことがあるかもしれません。しかしながら、私が過去に知的財産権担保融資の制度立ち上げを担当した経験、実務家として知的財産権を取扱う経験から考えると、特許をはじめとする知的財産権は不動産とは大きく性格を異にする財産であり、知的財産権担保は安易に不動産担保の代替手段として期待できるようなものではありません。また、そもそも知的財産権を単に不動産担保の代替手段とみているのであれば、従来の「担保融資」の発想から抜け出るものではなく、「銀行は事業の将来性をみることなく担保だけで融資判断を行っている」という批判に抗うこともできないでしょう。
 その一方で、知的財産権という切り口から金融機関が新たな機能を発揮できる可能性があるのではないかということも、金融機関の業務と知的財産実務の双方の経験に基づいて以前から考えていることです。そのきっかけの一つとして捉えると、知的財産権担保への取り組みは意義深いものとなるはずです。担保権の設定方法、価値評価の方法といった実務面のノウハウだけでなく、貸し手の視点から必要な知的財産権に関する基礎知識や融資先に対するチェックポイントにも言及することによって、金融機関の新しい業務への何らかの可能性が示せるのではないかと考え、そのような視点から本書の執筆を進めることとしました。
 私が企業の知的財産権に関する業務を支援するノウハウを身につけたいと思ったのは、ベンチャーキャピタルでベンチャー企業への投資を担当していた頃でした。米国でベンチャー企業の成長を支援しているベンチャーキャピタリストは、ただ資金を供給するという機能を果たすだけでなく、経営戦略の立案、資本政策、マーケッティングなど様々な面で企業の成長に積極的に関与しています。彼らと同じように投資先に対して何らかの支援を行っていきたい、その一つとして知的財産権という側面に注目したのが、知的財産権に関する仕事に取り組むきっかけとなっています。
 地域金融機関が取り組みを進めているリレーションシップバンキングにおいても、必要な資金を供給するという金融機関の基本的な機能に加えて、融資先に対する「経営支援機能」が求められるようになっています。経営支援にも様々な切り口があると思いますが、特に中小・ベンチャー企業においては知的財産権に関する業務への取り組みが後手に回りやすく、この部分においても金融機関が関与していく余地があるのではないでしょうか。多くの中小・ベンチャー企業では、知的財産権に関する専任の担当者を置く余裕がありません。このような企業の近くにいる金融機関が、知的財産権に関する状況に常に目を配るアドバイザーとしての役割を果たすとともに、資金調達が必要となる際には「知的財産権担保」という形に結びつけることができるならば、融資先と金融機関の間に今までにはない新しい関係を築いていけるのではないでしょうか。
  (中略)
 本書が、知的財産権担保融資への取り組みを通じて融資先の知的財産権に関与することによって、金融機関が経営支援機能の幅を広げていく一助となりましたら幸いです。