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原発の安全審査  4

2014年08月07日 17時38分00秒 | 日記

2014年8月7日(木)  原発の安全審査  4  

 

  本稿は、当ブログの下記記事

       原発の安全審査  1  (2014/7/29)

       原発の安全審査  2  (2014/7/30)

       原発の安全審査  3  (2014/8/04) 

と続いた、安全性の適合性審査に係るシリーズの続編である。

 本稿では、原発の安全性の特殊性と、再稼働に向けての課題等について述べ、シリーズを締めくくることとしたい。 

なお、本稿でも、今回の川内原発の安全審査に関する資料は、前稿までと同じ略称のまま引用している。 

 

 

◎ 原発の安全性の特殊性ーー通常業務と非常事態と

○ 原発の運転では、システム全体の正常性を確認し、放射能に対する作業者の安全を確認しながら、通常業務(ルーチンワーク)として発電が行われる訳だ。

 その間、システムとしては、各種準正常状態として、小さなトラブルや、アラームが検出される事もあり、機器や部品の劣化等による部分的な故障もあり、放射能漏れもある訳で、これらへの対処が必要だ。

 慎重な取り扱いが求められる、燃料棒の出し入れも、重要なルーチンワークの一つだろう。又、定期検査時の、運転の停止や再開も、その延長上の、重要な作業となる。 

 関係する作業従事者には、これらの事象・事態に、的確に対処することが求められ、基本的な通常の作業をこなすだけでも、並大抵のことではないだろう。

 

 一方、原発の運転では、周囲環境に深刻な影響をもたらす、シビアクシデントの様な重大事故を起こさないことが至上命題である。 そのために、非常事態に備えて、予め自然災害等のリスクに対する諸対策が行われ、防止のための措置・操作の訓練に加え、非常時が起こった場合に対処する訓練も必須な訳で、作業従事者には、高度なスキルが要求される、極めて厳しい職場環境と言えるだろう。

 

○ 比較出来るものではないが、最近、無事地球に帰還した、若田宇宙飛行士の話は印象深い。氏が初めての船長の任務に就くに当たって、宇宙船内で発生する非常事態(火災や重大なトラブルなど)に対処するための、厳しい訓練をクリアしなければならなかった、という。 地上の管制センターと連携しながらの対処となるが、かなり大変なものだったようだ。

 言うまでも無いが、船内では、盛りだくさんのルーチンワークや、目的業務があり、船内の「和」を保つ中で、これらをこなしていく必要がある。

 

○ 又、この所相次いでいる航空機事故だが、航空機の運航でも同様の事が言えようか。航空機でも、安全航行は最重要テーマだが、操縦士はじめ、乗り組んだクルーにとっては、ルーチン的な通常業務をこなすことは勿論だが、これに加えて、気象条件の悪化や機体の不具合への対処、火災やハイジャックへの対処、さらには、緊急着陸時の対処等も、重要な任務であろうし、このための訓練も必須だ。

 

⇒ 原発の安全運転には、宇宙船や航空機の安全運航と、同等/それ以上に、危険と隣り合わせた環境での、厳しい条件が課せられている、と言えようか。

 

 

◎ 再稼働に向けて

・ 前稿でも触れたが、規制委員会の田中委員長は、先日の記者会見で、“規制委員会としては、あくまでも、技術的な事項について、安全上の規制基準をクリアしているか否かを判断したもので、100%安全だとは言っていない”、とコメントしている。(<川内原発>田中規制委員長「安全だとは私は言わない」) 

 これは、逃げを打っているようにも聞こえるが、想定する自然災害等のリスクと、これへの人間側の対応・対策に関するリスクは、ともに、“0”には出来ず、「絶対安全だ」、と言えないのは、当然のことだ。

 日本の安全規制基準は、世界で最も厳しいものだ、などと喧伝されているが、規制基準自体が、一定の範囲までのリスクしか想定していないため、これに適合していても、100%の安全性を保障したものではないのだ。

 

・ 現在は、8月15日までに、審査書案に対する、パブリックコメントを聴取している最中で、それを受けて、審査書の最終版を纏めるようだ。 順調に行けば、再稼働はこの秋と言われる。

 

今後の再稼働等に向けての、幾つかの重要な課題について、以下で触れることとしたい。 

 

◇必要性

 当初、九電としては、川内原発を稼働して、この夏場を乗り切る予定だったようだが、間に合わなくなった。 そこで、この所、当たり前となって来ている、節電の効果も見込んだ上で、電力業界内で電力の融通を受けることで、管内での

           予備率: (供給力―需要)/供給力

で、安定供給の限界と言われる、3%を、辛うじて確保したようだ。 関電も同様である。(下図 電力供給サービス:今夏の予備力を電力会社6社が積み増し)   

 

 川内の2基の原発が稼働すれば、供給力が増し、上表にある、九州電力管内の電力需要の1割程度が賄える訳で、他力本願で綱渡りの安全率が、改善されるようだ。  

今回、川内原発の安全面の追加工事では、1300億円も投資しているようで、事業者としては、社運を懸けているとも言えよう(津波、竜巻対策を公開 九電「月末完成目指す」 川内原発を考える

 

 全原発が稼働していなくても、国内は十分に活動しているではないか、という見方がある。

 でも、陰に隠れて良く見えず具体的な数字は把握していないが、古くなった施設も含めて、火力発電が目いっぱい稼働しているようで、燃料費も大変なようだ。一方では、電気事業者は、電気料金の値上げで経営上の苦境に対処している。

 国内での、安価で安定した電力の供給は、産業の国際競争力の基本でもあるが、明確なエネルギー政策が無い中で、我が国の基礎体力が、じわりじわりと、低下してきているように思える。

 

 原発のコストは、これまでは、重大事故は考えないことで、意図的に安く見込まれていたのは事実だろう。 今回の原発事故を通して、大変なコストが掛かることも経験したところだ。

 原発のコストを、今後どの様に評価するかは、重大事故の防止対策と事故処理にかかるコストと、重大事故の生起確率との関係になる訳だが、専門家の出番だろう。

 今後のエネルギー政策の方向については、リスクの少ない再生可能エネルギーへの移行等も含めて、改めて取り組むべき重要課題である。

 

 

◇避難計画と周辺自治体

 原発から30km圏内に住む周辺住民の避難計画を、関係する自治体が策定することになっているが、この3月時点での、朝日新聞社の避難計画についてのアンケート調査では、全国134市町村の内、約4割の自治体が未整備と言う。川内原発では、一応、出来ているようだがーー。 (避難計画、4割が未整備 原発30キロ圏首長アンケート) 

      

 避難計画を含めて、安全性に関する周辺住民の了解を得た上で、再稼働には、関係する自治体の同意が必要とされる。

 これらの手続きに関する法的な根拠は、どの位明確なのだろうか。

 

 川内原発では、規制委員会の指導に沿って、鹿児島県と薩摩川内市は、先日の7月末に、原発が立地する5km圏内の希望する住民約2400人に、下図の様なヨウ素剤(甲状腺被爆に有効)を配布したようだ。薬剤の有効期限は、3年という。(東京新聞:ヨウ素剤 初の住民配布 

       ヨウ素剤 

 以前御世話になった、富山の置き薬ではないが、自己責任で保管するのは面倒で、いざと言う時に行方不明となる可能性は大きい。でも、住民にとっては、大きな安心材料であることは間違いない。

 “これは懐柔策で、金の無駄遣いだ、再稼働は止めるべきだ”、といった主張はどうだろうか。 

 

◇誰が判断し責任を負うのか

 原発の再稼働について、一体、誰が判断し責任を負うのだろうか?

一昨年の関電大飯原発の再稼働時は、当時の民主党政権下で、国(総理+3関係閣僚の合議)が主体的に判断している。(その後、大飯原発では、稼働差し止めの地裁判決が出ている慌しさだがーー。)

 法的な建前では、再稼働は、事業者の判断で行うこととなっているようだ。

 

 規制委員会の田中委員長の、先だってのコメントにあるように、判断と責任を規制委員会に押し付ける訳にもいかず、一方、全て、事業者の責任で行う事にも無理があろう。 

 ここは、少なくとも、新体制での再稼働第一号となる川内原発に関しては、国が責任を負う形で、判断・決定するのが妥当であろう。

 

 川内原発に関係する自治体の一つと自任する、鹿児島県知事は、先日、再稼働の必要性を、国として文書化して関係する自治体に出して欲しい、と言っているようだ。

これは、国として責任を負う一つの形であろう。(鹿児島知事「再稼働の必要性、文書化を」 川内原発

 

 

◇検察審査会

  この時期に、又も、関係深いニュースである。

 福島事故の責任を問う裁判が続いているが、当時の東電幹部を検察が不起訴としたことに対し、先日、検察審査会が、3名は起訴すべきと判断したようだ。そして今後、再度、検察が起訴を見送った場合、審査会がそれも不服として起訴すべきとの裁決が行われると、強制捜査・裁判が行われるという。

少し前の、小沢氏の疑惑を巡っての、不毛とも言えるごたごたが、思い出される。

 

 今回の検察審査会の審議では、大事故の3年前、今回の3人の東電幹部も出席した社内会議で、福島第一原発に、高さ14mの津波が来襲する可能性が示されていたと言う。しかし、会議では、何の対策も講じられなかった、ということから、責任の所在は明白としている。(東京新聞:大津波の恐れ報告 東電元会長出席の会議

 津波の大きさだが、施設設計上の想定値は、5.7mで、事故時に実際に襲った津波は、14~15mといわれる。(福島第一原子力発電所事故 - Wikipedia

 

 国内では、福島事故以前までの長い間、重大事故が無かったことで、自然災害等のリスクに対して「鈍感」になっていた、と言えるようで、人心の赴くところ、でもあろう。

福島事故を経験した今なら、関係者は勿論、国民全体が、津波の恐ろしさや、原発事故の深刻さは身にしみている訳だ。

 東電の肩を持つ訳ではないが、でも、上記の社内会議当時としては、安全神話の虚構の下、意図的に無視した訳ではなく、“まあ、確率は小さいだろう”、と恃んで、何の対策も講じなかった、と言うのが実態のように思える。

後出しジャンケンのように、現時点での結果論で、責任を追及することは、そんなに難しいことではない。

 

 原発の安全神話の復活と言った声もあるが、福島事故の教訓を踏まえながら、常にリスクはある、との覚悟を決めて、原発と向き合い、必要性を見極めながら、再稼働も行うこととなるだろうか。

 

 

◎環境への放射性物質放出の抑制   

 新規制基準の中では、最悪のシビアアクシデントが発生した場合に、発電所外への放射性物質の拡散抑制のための対策が要求されている。

当原発では、下記の様な対策(資料3)

    ・移動式大容量ポンプ車を追加配備(1台を、放射性物質拡散抑制対策に専用化)

    ・上記ポンプ車と放水砲による原子炉建屋への放水(プルーム防止?)

    ・放射性物質吸着剤の追加配備

    ・シルトフェンス(海中カーテン)の配備(放水での放射性物質の海中拡散を抑制)

が取られるようだ。

 

 今回の審査結果として、驚いたのは、なんと、万が一、重大事故が起こった場合を想定して、放射性物質の飛散量を計算し公表しているということだ。 こんな数字を公表することは、これまでなかったことと思われる。

 シュミレーションで、格納容器破損モードを想定し、この事態で、上記の各拡散抑制策を行うことで、放射性物質の拡散・飛散を押さえ、環境汚染を、極力、抑制するとしている。

 

 位置づけはやや不明だが、安全目標として、Cs-137の飛散放出量が、100TBq以下であることを確認すること、としているようだ。 

                                                                  TBq:テラ(1012)ベクレル 

川内原発の実際の審査では、1~2号機合計で、5.6TBq(7日間)であったという。(資料1)      

これらの数字は、どの位、危険な(安全な)値なのか、説明があったのだろうか?

                          

 福島第一原発事故では、Cs-137の放出量については、当ブログの

       原発事故 レベル7に  (2011/4/14)

でも触れているが、1~3号機合計で、      

       10000~15000TBq    (10~15PBq P:ペタ 1015

程と言われている。  (チェルノブイリ事故との比較 - Wikipedia

 

 福島事故の実際値と比べて、川内の数値が極めて小さいのが気になるところだ。

 川内原発での事故シュミレーションが、どの様な前提条件で行われたのかは不明だが、福島の場合に比べると、前稿に述べたような、

    ・シビアアクシデントを防止する各種安全対策等が、あるレベルまで利いた後、事故になっている、

と言う想定に加え、

    ・上述の、事故後の各種拡散抑制策が効を奏している

ということだろうか。

 

 シュミレーションで重大事態を想定し、具体的な数字を公表することには、両面性があるだけに、慎重さも求められる所だ。

先述のように、科学的・客観的な立場からは、原発は絶対安全だ、とは言い切れない以上、

    “重大事故が起こったとしても、この程度ですよ”

と言う事を示したとも思えるが、自然界に対する謙虚さを失っているような印象も受ける。 

 一方で、机上の空論では、どの様な想定も可能なだけに、意図的に数字を小さくして安全性をアピールし、人心を惑わせているのでは、といった疑念も禁じえないところだ。 

 

  

◎ 「せんだい」余話

 今回登場した鹿児島県の川内市は、これまで、一度通過したことがある位なのだが、筆者の第2の故郷とも言える宮城県仙台市と、同じ地名なので、かなり前から気にはなっていた。おまけに、仙台市内には、広瀬川沿いに、川内(かわうち)という地域もある。

 この川内市の名称が、10年前に、近隣自治体との再編で、薩摩川内市に変わったようだが、今回の川内原発の安全審査の話題で、初めて、その事実を知ったところだ。

 以前は、同一地名を区別するために、下記のように、一方に、旧国名を付ける例は、多かったようだ。

   (秋田県)湯沢市                 越後湯沢町

   (新潟県)高田市(今は、上越市)       陸前高田市

   (静岡県)清水市(今は、静岡市清水区)  土佐清水市

    (新潟県)長岡市                 伊豆長岡市

   (群馬県)太田市                 常陸大田市

   

 

 

 


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