2013年8月5日(月) 土用二の丑と うなぎ
先月の7月22日は、土用の丑の日だったが、毎年のことだが、この時期になると、うなぎが話題に上る。
土用は、四季ごとに年に4回あるが、今年の夏の土用は、7月19日から立秋前日の8月6日までの18日間で、今年は、丑の日は2回あり、一昨日は、二の丑だった。
この所の うなぎに関する大きな関心事は、ウナギ資源の枯渇の進行と、それに伴う、関連物の値上がりである。 この3月に、タイのバンコクで開催された、ワシント条約の締約国会議(COP16)の間近になって、ニホンウナギの国際的な取引を規制しようと言う動きがある、とのニュースが流れたが、幸いにも、会議の議題にはならなかった。
この辺の事については、下記記事で触れているが、取引が規制されるのは、時間の問題で、2016年に予定されている次回会議で、現実のものとなる可能性は、極めて大きいだろう。
ワシントン条約 COP16 (2013/3/21)
うなぎの関連では、昨年にも、国内の状況、国際的な状況等について、それぞれ、以下の記事で触れているので、詳細は省略したい。
今年の丑の日に その1 (2012/7/28)
今年の丑の日に その2 (2012/8/01)
今回は、最近テレビの番組で見る機会があった、うなぎに関する二つの話題を取り上げる事としたい。
○一つは、先日8月1日朝、二の丑が近いとして、NHK総合TVのニュースで報道された、インドネシア産うなぎ「ビカーラ」を巡る話題である。
日本のうなぎに代わるものとして、これまでも、世界各地のうなぎ等の話題が報道されている。
世界の、主な うなぎには、
①ニホンウナギ(ジャポニカ種)
②ヨーロッパウナギ(アンギラ種)
③アメリカウナギ(ロストラタ種)
があると言われ、②のヨーロッパウナギは、国際的な取引が規制されている。 詳細は分らないが、東南アジアに多いビカーラ種は、これらとは別の種の④とも、③のアンギラ種に含まれるとも言われる。
テレビで報道されたのは、インドネシアで数年前、このビカーラを見つけた、日本人実業家が、現地で、このうなぎの養殖に挑戦しているニュースで、このうなぎの味覚を、日本の うなぎに近づけるために、餌を含めて色々工夫しているようだ。(加熱するアジアでのウナギ “争奪戦“ - NHK 特集まるごと)
ビカーラの稚魚の値段は、最近、急激に高騰している、ニホンウナギの稚魚の値段の1/10程度と言う。(下図:ウナギ界の救世主? 「ビカーラ種」を食べてみた)
ビカーラ種ウナギ
インドネシアの、この養殖場では、日本にも出荷しているようで、今年は、16トンが輸出されたとある。この量は、後述するように、日本国内の生産・消費量から見れば、微々たるものだがーー。
日本は、世界全体の8割もの うなぎを消費していると言われるが、日本国内でのうなぎの生産・消費量は、以下の様だ。(鰻輸入量及び国内鰻養殖生産量/日本養鰻漁業協同組合連合会)
23年度 養殖うなぎ 国産 22028t 39.1%
輸入品(中国、台湾等) 34061t 60.5%
天然うなぎ 230t 0.4%
総計 56319t
24年度 養殖うなぎ 国産 17377t 46.7%
輸入品(中国、台湾等) 19661t 52.8%
天然うなぎ 169t 0.5%
総計 37207t
24年度の生産量は、23年度に比し、全体として大幅に減少しているが、特に、養殖の輸入品の落ち込みが大きいようだ。うなぎ全体が、年々減少傾向にある中でも、大変な状況と言え、その原因としては、資源の枯渇が支配的なのだろうか。
この、ビカーラうなぎは、一時的なリリーフの役にはなったとしても、各国が繰り広げる争奪戦で、たちまちにして、枯渇することは目に見えている。
うなぎの生態には、まだまだ謎が多く、産卵場所はマリアナ沖、とほぼ突き止められたとは言うものの、前出の昨年に記事で触れたように、完全養殖までの道のりは、程遠いものだ。
やはり、嘗ての鯨と同じように、近い将来、うなぎを諦めるしか無いのだろうか?
○二つ目の話題は、7月29日夜のNHKTV番組 「プロフェッショナル 仕事の流儀」 で紹介された、「ウナギ職人 金本兼次郎」の話である。(金本兼次郎(2013年7月29日放送)| これまでの放送 | NHK プロフェッショナル 仕事の流儀)
氏は、85歳の現在も、現役として元気に仕事を続けている、創業200年という、麻布の老舗鰻屋「野田岩」の5代目である。
御本人は、15歳の時から修行に入り、この道、70年という。 どの場面をとっても絵になるような、職人としての、見事な仕事ぶりである。
番組の中で、特に、印象に残ったのが、
割き3年、串打ち2年、焼き一生
と言う言葉だ。
最初にうなぎを割(さ)く作業は、部外者には、余り見たいとは思わない光景だが、頭をまな板に固定して、手際良く、時間をかけずにやるのがポイントという。
ヌルヌルして気味の悪い細長い鰻を、割いて骨を外し、開きにすることで、見違えるように変身するのである。
串打ちは、比較的、やりやすいように見え、この結果、通常の魚の開きのように、扱い易くなる。これを、蒸して脂気を調整し、白焼きにするまでが、言わば、下拵えだろうか。
焼きは、習得するには一生かかると言われたが、秘伝の「たれ」をつけて焼くのは食べる直前だ。
焦げ目を作らないよう、団扇で煽いで風を送りながら、温度を加減し、何度も丁寧に焼くのがポイントの様だ。日本人好みの、綺麗な黄金色に焼きあげるのが、理想だろうか。
四つ足の獣は食しない時代にあって、うなぎの蒲焼きは、黄金色の最高の滋養食だったように思う。
大分以前だが、デンマークのコペンハーゲンに行った時、街中の、とある店のガラスケースの中に、長いまんまの、茶色っぽいうなぎの燻製が出ていたのを見つけ、へびのようで薄気味悪く、驚いたことがある。 残念ながら、これを食べる機会は無かったが、欧米人はあのようにして食べるのだろう。蒲焼きがある日本人に生まれた幸せを実感したことだった。
この野田岩のホームページを見て、面白い発見をした。何と、この老舗鰻屋では、定休日が、通常の、日曜日、年末年始等に加えて、
7、8月土用の丑の日
とあるのである。
世間一般的には、土用の丑の日こそ、書き入れ時なのに、である。しかも、この夏は、2回もあるのだ。
この鰻屋、丑の日の街の喧騒をよそにして、この日は定休日と言うのは、見上げたプライドと言おうか、商売上手か下手と言おうか、恐れ入り谷の鬼子母神である。
昨日のスーパーの店頭には、一昨日の2の丑の売れ残りのうなぎが、格安で並んでいた。
後学のためにと、調べてみたのだが、この店の鰻の値段は、標準的な鰻重セットに、一口白焼きとデザートを含めたコースで、4300円とある。
小金色の鰻重
よく知っている築地の某老舗鰻屋は、丑の日は定休日ではないようだが、ここのメニューを見ても、うなぎは、いずこも、なかなかの値段になってしまった、と感じた。
うなぎの蒲焼きの技術は、江戸時代に完成されたと言われるが、テレビで見た蒲焼きが出来るまでの作業工程は、食品というより、伝統工芸品に近いとも言える感じだ。値段的にも、大衆化とは対極にある、高級珍味の域に近づきつつある、とも言えようか。
沢山の手間暇をかける蒲焼きの調理技術は、世界に誇っていい、日本らしい貴重なものと言えるだろう。
でも、鰻に纏わる食文化のレベルが、伝統文化や文化遺産としてではなく、日常的な需要と供給を基本とした食習慣の中で、果たして、何時まで維持できるものか、危惧されるところである。