『雪』
三好達治
太郎をねむらせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。
二郎をねむらせ、二郎の屋根に雪ふりつむ。
私の大好きな詩です。
「あかり」が、灯り、
そして、一つ 二つと「あかり」を落として、村が、すっぽりと雪に包まれ、
眠りに閉ざされていく光景が浮かんできます。
山里という故郷(ふるさと)が。
風もなく、夜じゅう降りしきる雪には、雪の音があるのです。
「しんしん」とでもなく「しーん」でもない雪の音が。
天にも地にも充ち満ちていく雪の息づかいが。
子ども達が幼かった頃、この詩を、歌うように、子守歌のようにつぶやきました。
「とん とん」と布団の上を軽くたたきながら、何回も なんかいも。
子ども達が眠るまで繰り返していました。
ひょうきん者だった長男は、半分眠りにおちながら、私と唱和します。
「二郎をねむらせ、二郎の屋根に雪ふりつむ」
「三郎をねむらせ、三郎の………雪ふりつむ」
「四郎をねむらせ、………………………つむ」
「五郎」「六郎「七郎」………際限なく、眠りに落ちるまでこぼれ出してくるのです。
あれは、幸せと名づけられる ひととき でした。
今年、下の孫が成人式を迎えました。
この孫、四歳の頃、親に叱られたといって、500メートルほど離れている私たちの家に、
裸足で逃げてきたことがありました。
道路に雪があった冬の晩のことです。
熱いタオルで冷たい足の泥を拭い、こたつ にあたらせ、
眠ってしまった孫を、親が抱いて帰ったのは、
つい昨日のことのようです。
先だって、成人式を済ませ、ちょっとだけ顔を出してくれました。
玄関から、「ごめん下さい」のチャイムと共に、
三個入りの うぐいす餅が差し出されたのです。
自分の身体より先に差しだした うぐいす餅は、
「ありがとう」の、ご挨拶がわりだったのでしょう。
夫と共に、寝る前でしたが、食べました。
歯磨きが済んだのに食べました。
「ありがたーく」頂きました。
天気予報によれば、これから雪になるとのこと。
原発事故で避難している方たちのふるさとも、雪になるのでしょうか。
その村には、家々の「あかり」ではなく、防犯用の街灯だけが
ポツ ポツと、家々や道を照らしているのでしょうか。
ばぁちゃんがいて、じいちゃんがいて、
母親が、
「太郎をねむらせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。」
「二郎をねむらせ、二郎の屋根に雪ふりつむ。」
そんな、山里。
そんな、故郷(ふるさと)。
〈ゴマメのばーば〉
三好達治
太郎をねむらせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。
二郎をねむらせ、二郎の屋根に雪ふりつむ。
私の大好きな詩です。
「あかり」が、灯り、
そして、一つ 二つと「あかり」を落として、村が、すっぽりと雪に包まれ、
眠りに閉ざされていく光景が浮かんできます。
山里という故郷(ふるさと)が。
風もなく、夜じゅう降りしきる雪には、雪の音があるのです。
「しんしん」とでもなく「しーん」でもない雪の音が。
天にも地にも充ち満ちていく雪の息づかいが。
子ども達が幼かった頃、この詩を、歌うように、子守歌のようにつぶやきました。
「とん とん」と布団の上を軽くたたきながら、何回も なんかいも。
子ども達が眠るまで繰り返していました。
ひょうきん者だった長男は、半分眠りにおちながら、私と唱和します。
「二郎をねむらせ、二郎の屋根に雪ふりつむ」
「三郎をねむらせ、三郎の………雪ふりつむ」
「四郎をねむらせ、………………………つむ」
「五郎」「六郎「七郎」………際限なく、眠りに落ちるまでこぼれ出してくるのです。
あれは、幸せと名づけられる ひととき でした。
今年、下の孫が成人式を迎えました。
この孫、四歳の頃、親に叱られたといって、500メートルほど離れている私たちの家に、
裸足で逃げてきたことがありました。
道路に雪があった冬の晩のことです。
熱いタオルで冷たい足の泥を拭い、こたつ にあたらせ、
眠ってしまった孫を、親が抱いて帰ったのは、
つい昨日のことのようです。
先だって、成人式を済ませ、ちょっとだけ顔を出してくれました。
玄関から、「ごめん下さい」のチャイムと共に、
三個入りの うぐいす餅が差し出されたのです。
自分の身体より先に差しだした うぐいす餅は、
「ありがとう」の、ご挨拶がわりだったのでしょう。
夫と共に、寝る前でしたが、食べました。
歯磨きが済んだのに食べました。
「ありがたーく」頂きました。
天気予報によれば、これから雪になるとのこと。
原発事故で避難している方たちのふるさとも、雪になるのでしょうか。
その村には、家々の「あかり」ではなく、防犯用の街灯だけが
ポツ ポツと、家々や道を照らしているのでしょうか。
ばぁちゃんがいて、じいちゃんがいて、
母親が、
「太郎をねむらせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。」
「二郎をねむらせ、二郎の屋根に雪ふりつむ。」
そんな、山里。
そんな、故郷(ふるさと)。
〈ゴマメのばーば〉