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一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

花見酒の決算

2005-09-14 | あきなひ

カネボウ粉飾決算、公認会計士4人を逮捕
(2005年 9月13日 (火) 13:49 読売新聞)


 関係者によると、佐藤容疑者らは監査の過程でカネボウの経営実態を把握し、売り上げの架空計上などによる一部の粉飾決算を指摘したこともあった。
 しかし、帆足被告ら旧経営陣と折衝を重ねる中で、「債務超過を回避する」という帆足被告らの方針を承諾。債務超過に陥った子会社を連結決算から外すなどの不正を黙認して、監査報告書に「適正」の意見をつけ、粉飾に協力していた。

バブル経済は「花見酒の経済」と評された事もありますが、元ネタの「花見酒」という落語は、花見の場所で酒を売って一儲けしようとたくらんだ2人組が、酒樽を運ぶ途中で誘惑に負け、ひとりが持っていたつり銭を相手に渡してその分の酒を買い、今度は金をもらった方が逆にその金を相手に渡してまた酒を買い、とそれを繰り返しているうちに酒をすっかり飲んでしまった、というものです。

つまり、土地の値上がりによる担保価値の増大が信用供与の増大=資金供給につながりそれが資産の値上がりにつながるという「信用が信用を生み出す」メカニズムを揶揄したものです。

今回も会計監査人の適正意見が見かけの決算を補強し、それによって見かけの企業の信用力が増す結果さらに無理な融資を受けたり配当をしたりと企業規模を拡大させ、さらに不正な決算操作が拡大するというスパイラルがここまでの大掛かりな不正経理につながったのではないでしょうか。


ただ、エンロンなど(のアメリカの新興企業)では、企業の成長戦略の中に不正経理が組み込まれているかのようなものに比べると、カネボウや他の日本の企業は「今をごまかしておけばそのうち業績が回復して帳尻が合うさ」という出来心が、結局深みにはまって抜けられなくなる、というパターンが多いように思えます。

その意味では、ここ10年で相次いで破綻をきたした、高度成長時代を前提とした「問題を後送りすれば結果オーライ作戦」のうちのひとつともいえると思います。

※となると「花見酒」よりは「薬物依存」「サラ金地獄」のほうが近いかもしれませんね・・・


ところで、ここ数年、企業に求められる情報開示がより詳細になり、会計監査人の重要性が増す一方で、エンロン事件のように会計監査人の独立性・責任も求められるようになってきたわけですが、それにもかかわらず、4大会計事務所の1つである中央青山監査法人がここまでの深みにはまってしまったのでしょうか。


最近は会計事務所内でも繰り延べ税金資産の計上とか減損処理のような評価にかかわるものは複数のパートナー(共同経営者)の承認が必要になっていると思います。
現行法では会計監査人は同じ企業の監査を7年以上やってはいけないことになっていますが、個々の公認会計士は独立という建前なので、同一の監査法人で違う会計士に交代するということが行われています。そうすると、過去に同じ事務所の先輩が「適正」としたものを否定するのは難しいのかもしれません。


もっとうがった見方をすると、寡占化に伴う公認会計士のサラリーマン化とポスト不足という構造的問題も影響しているのかもしれません。
※以下は伝聞+私の推測を元にしていますので、それを前提にしてお読みください


企業の決算も連結決算が中心になるとともに情報開示も複雑化し、会計監査も大型化・専門化した結果、事務所側も合併によって対応能力をあげて企業のニーズに応えようとし、企業側も毎年企業会計ルールが変わる中で大手に任せたほうが安心ということで、監査法人の大型化、寡占化が進んできました。

会計事務所は普通職員(要はヒラ。固定給)、「社員」(俗にいうパートナー、共同経営者というか主として自分のチームの売上に対してサラリーが決まる歩合制社員)、「代表社員」(事務所全体の利益配分権と経費負担義務を負う。事務所の負債に対して無限責任を負う)から構成されているようです。そして社員総会で理事が選任され、事務所の経営にあたり、理事長が事務所の対外的な代表者という形になっています。
たとえば中央青山のHPによると、職員3,421名(うち公認会計士1,321名、公認会計士補863名、その他799名)、社員438名(うち代表社員263名)という構成です(理事が何人かはHPからはわかりませんでした)。

そして給与体系は、公認会計士の資格をもっていても単なる「職員」のままでは給料が頭打ちで、「社員」、「代表社員」と組織を出世していかないとなかなか収入が増えない構造になっているそうです。


ところで、今の理事クラスの人は、合併前の(更に「中央」とか「青山」の前の母体になった)会計事務所の経営者で、「俺が〇〇グループを一手に握っているんだ」というように今の事務所の収益基盤に寄与した人がなっていることが多かったようです。

しかし、時代を経るにつれ、そのようなlegitimacyを持った人から、既に大きくなった事務所に入ってきた人に世代交代をしていく必要が生じます。

一方、会計監査の仕事は(コンサルタントやアドバイザー業務と違って)定型的なので結果に明らかな差がつきにくいという問題があります。
結局組織の中で出世していくには、たまたま担当の会社の子会社が上場した(=運)とか、新しい顧客を獲得した(=顧客とのコネ)や上司の引きとかが影響することが多いようです。

このような構造だと、ある理事の系列にある代表社員や社員は、ボスの存立基盤の顧客企業を失うような指摘は口が裂けてもできない、ということになるのも避けられないのかもしれません。


となると、企業を監査すべき監査法人自体の内部統制がしっかりしていない、というあまり笑えない現状があるのかもしれませんね。

コメント (5)
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