玄文社主人の書斎

玄文社主人日々の雑感もしくは読後ノート

新潟弁で書かれた『苦海浄土』

2012年09月27日 | 日記
 新潟市寺尾の新村苑子さんの『律子の舟』││新潟水俣病短編小説集Ⅰという本ができたので、納品に出掛けてきた。熊本の水俣病に関しては、石牟礼道子の『苦海浄土』を代表として、数々の文芸作品や演劇・映像作品がつくられているが、新潟水俣病に関しては、佐藤真監督の映画「阿賀に生きる」があるのみであった。
『苦海浄土』が熊本弁の圧倒的呪力と詩情をもって完璧な作品となっているために、逆にそれが高い障壁となって、これまで文芸作品の成立を拒んできたという事情がある。ようやく新潟水俣病をめぐる新しい文芸作品を刊行することができた。それにしても“新潟水俣病”という病名は違和感を感じさせるもので、『律子の舟』にもそれがどこまでも“仮の名前”であることが指摘されている。
 福島潟にある「新潟水俣病資料館」まで足を伸ばし、館にも本を置かせてもらった。館の正式名称は「新潟県立環境と人間のふれあい館」というので、平成七年の被害者の会・共闘会議と昭和電工との解決協定締結(協定で館の設立が条件とされた)を受けて建設されたものだという。
 館内には阿賀野川に棲む生き物やジオラマが展示され、新潟水俣病三十年の歴史を、映像やパネル展示、資料で紹介している。ただし、資料は館内閲覧のみで、貸し出しもコピーもできないという。コピーくらいできるようにした方がよいと思うが……。
 隣りには、加藤登紀子が館長をつとめるビュー福島潟が建っている。せっかく来たのに時間がなくて、立ち寄ることができなかった。自然豊かで風光明媚なところである。また今度訪れようと思いながら、福島潟を後にした。
『律子の舟』はA5判252頁。定価1,500円(税込み)。問い合わせは玄文社(電話・FAX0257-21-9261)まで。

越後タイムス8月24日「週末点描」より)


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