玄文社主人の書斎

玄文社主人日々の雑感もしくは読後ノート

長期入院と幻覚(13)

2016年10月23日 | 日記

「拘禁夢」
 四六時中ベッドに寝ている病人にとって、入院生活は「拘禁」そのものであって、「拘禁」状態からの脱出という願望を夢に見ないわけにはいかない。多分それが最もありふれた夢であって、私もまたそのような夢を最も多く見たのである。
 最初に見たのはベッドから這い出そうとする私を、知り合いの女性に何度も何度も押し戻される夢である。「拘禁夢」に共通しているのは、私が病院のベッドに寝かされているという認識を持っておらず、ベッドに寝ていることが何か不当な扱いであるかのように思っているということである。
 私は何かよく知らない秘密の会合に、ベッドに寝たままの状態で行ってみることにする。会合はどういう訳か深夜に開かれていて、旧知の女性が二人ばかり私に対応する。私はベッドに縛りつけられたまま、会場に行っていて、会場をよく見るためにベッドの外に出ようとする。
 最初彼女たちは私と何かの取引をするようなそぶりで、愛想良く対応するのだが、次第に態度を豹変させていく。扱いも暴力的になっていくのである。
 二人の女は「ここは病院です。貴方は入院しているんです」と言って、私をベッドに押し戻すのである。私にはあまりにも綺麗で、豪華なその部屋が病院だなどとはとても思えないので、激しく抵抗するのだが、非力にもベッドに押し戻されてしまう。
 私は彼女たちが看護師でなどないことをよく知っているのだが、彼女たちは「私らは看護師で貴方の面倒を見ているのです」と言い張る。私は嘘つきの彼女たちに抵抗しようとして、ベッドから這い出そうとするが、どんなに頑張っても出ることが出来ない。
 そうこうするうちに部屋には家具の類が何もなくなり、殺風景になって、病院らしくなってくる。廊下に目線をやってみると、そこはまさしく病院の廊下ではないか。私は嘘つきの彼女たちによってではなく、自然にそこが病院であることを納得していく。
 最後にはそこが病院であること、私はベッドでおとなしく寝ていなければならないのだということを納得することになる。しかし、この納得の過程は私が見たいくつかの「拘禁夢」によってまちまちであったように思う。最後まで納得しない場合もあったのである。


 

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