玄文社主人の書斎

玄文社主人日々の雑感もしくは読後ノート

ヘンリー・ジェイムズ『鳩の翼』(1)

2015年02月25日 | ゴシック論
 ヘンリー・ジェイムズはこれまで『ねじの回転』と創元推理文庫に『ねじの回転』とともに収録されている4編の心霊小説、これも心霊小説だが『エドマンド・オーム卿』それから心霊小説ではない『デイジー・ミラー』を読んできた。『ねじの回転』は世界で最も怖い恐怖小説三作のうちの一つに数えられていたはずだ。あと二つは、ブルワー=リットンの『幽霊屋敷』ともう一つは何だったか忘れた。
 そんなものは読む人によって違うはずだから、それほど重要なことではない。しかし、間違いなく『ねじの回転』と『幽霊屋敷』は3本の指に入るだろう。『ねじの回転』もまた幽霊屋敷譚としても読めるわけで、やはり怖い話の王道は幽霊屋敷にまつわるお話なのである。
『デイジー・ミラー』は若書きの習作のような感じで、それほどの作品とは思わない。天真爛漫なアメリカ娘デイジーは魅力的だが、あまりにもその行動は破天荒で、不自然な小説である。
『鳩の翼』に挑戦したのは、ヘンリー・ジェイムズの本領は長編にこそあり、その心理主義的といわれる小説作法は彼の長編を読まなければ理解できないと考えたからである。もう一つの理由はチリのホセ・ドノソがヘンリー・ジェイムズを偏愛していたという事実があるからである。
 ドノソの死の床を見舞ったバルガス・リョサが「ヘンリー・ジェイムズなんかクソだ」と言うと、ドノソが「フローベールはもっとクソだ」と言い返したというエピソードが知られている。私はリョサの小説は大好きだが、リョサが最も高く評価したフローベールは苦手というか、ほとんど食わず嫌いで『ボヴァリー夫人』さえ読んだことがない。
 ドノソの大好きだったヘンリー・ジェイムズの本丸を攻めない手はない。
「世界文学全集」オプション103の第54巻(講談社・1974)青木次生訳