十一日に開かれたドナルド・キーン氏の講演会の後、永井荷風を研究している東京の坂巻裕三さんと懇談することができた。永井荷風の文章を高く評価したドナルド・キーン氏の講演会を聴くために、わざわざ来柏されたのだった。
あの長大な『断腸亭日乗』を読破したという、坂巻さんの荷風についての知識と理解は、膨大かつ深遠なもので、久々に一夜文学談義に花を咲かせた。
坂巻さんは、カバンから一冊の本を取り出す。ドナルド・キーン著『百代の過客』のハードカバー本である。日本の日記文学を論じたその本の目次を見ただけで眩暈がする。『土佐日記』や『和泉式部日記』『蜻蛉日記』なら知っているし、読んだものもあるが、『高倉院厳島御幸記』だとか、『内務内侍日記』とかいうものを知っている人がどれだけいるだろう。キーン氏の読書量にびっくりするばかりである。
講演会の綾子舞の部でキーン氏は我々のすぐ近くにおられたのだが、サインを求めるような雰囲気ではなかったので、翌日の綾子舞現地公開でのチャンスに〓けた。坂巻さんは、昨年コロンビア大学主催のドナルド・キーン翻訳賞を受賞したジェフリー・アングルスというアメリカ人と、荷風研究を通じての友人だということで、サインをいただく資格は十分あった。
午前中から現地公開の会場で会場設営の作業をしていた私は、坂巻さんとキーン氏の到着を待っていた。そのうち鳥越文藏氏が急用で帰られたという一報が入り、次いでキーン氏も来られなくなったという知らせが届いた。残念だった。
しかし、坂巻さんによると、キーン賞を受賞したアングルスさんでさえ、授賞式でキーンさんと話をすることができなかったということで、なかなか“雲の上の人”であるらしい。
あの長大な『断腸亭日乗』を読破したという、坂巻さんの荷風についての知識と理解は、膨大かつ深遠なもので、久々に一夜文学談義に花を咲かせた。
坂巻さんは、カバンから一冊の本を取り出す。ドナルド・キーン著『百代の過客』のハードカバー本である。日本の日記文学を論じたその本の目次を見ただけで眩暈がする。『土佐日記』や『和泉式部日記』『蜻蛉日記』なら知っているし、読んだものもあるが、『高倉院厳島御幸記』だとか、『内務内侍日記』とかいうものを知っている人がどれだけいるだろう。キーン氏の読書量にびっくりするばかりである。
講演会の綾子舞の部でキーン氏は我々のすぐ近くにおられたのだが、サインを求めるような雰囲気ではなかったので、翌日の綾子舞現地公開でのチャンスに〓けた。坂巻さんは、昨年コロンビア大学主催のドナルド・キーン翻訳賞を受賞したジェフリー・アングルスというアメリカ人と、荷風研究を通じての友人だということで、サインをいただく資格は十分あった。
午前中から現地公開の会場で会場設営の作業をしていた私は、坂巻さんとキーン氏の到着を待っていた。そのうち鳥越文藏氏が急用で帰られたという一報が入り、次いでキーン氏も来られなくなったという知らせが届いた。残念だった。
しかし、坂巻さんによると、キーン賞を受賞したアングルスさんでさえ、授賞式でキーンさんと話をすることができなかったということで、なかなか“雲の上の人”であるらしい。
(越後タイムス9月17日「週末点描」より)