玄文社主人の書斎

玄文社主人日々の雑感もしくは読後ノート

一匹残らず

2006年10月07日 | 日記
 市内堀の「古土の溜池」は、農業用水用の溜池で、かつては集落の人達が、ここでコイやフナ、タナゴやナマズを捕まえて、自分たちの食糧としていたという。農家の人達の貴重なタンパク源であり、大きな恵みを与える溜池だったわけだ。
 しかし、何者かがここにブラックバスを放流したため、生態系に大きな変化が起きた。春川町内会長によれば、「メダカやタナゴ、ナマズなどがいなくなった。もう大きなコイしか生息できない」という。また「ブラックバスは昆虫の幼虫も食べるから、昆虫も少なくなってしまった」と嘆く。本当にトンボの一匹も飛んでいる姿を見なかった。
 「古土の溜池」は近年、ブラックバス釣りの隠れた穴場になっていた。釣り人のマナーはよろしくないようで、ルアーやテグスも落ちていて、草刈りの時大変危険な思いをするという。地元の人は、ブラックバスを放したのは業者ではないかとさえ言う。人気のブラックバス釣りのポイントが増えれば、ルアーや釣具が売れるからだ。また、釣り人は釣ったブラックバスのほとんどを再び放す。三十センチ以上のものは食べてもうまくないのだそうだ。
 それにしても捕獲作戦は困難を極めた。池の水を落としたら、水中の藻が表面に現れ、ブラックバスの格好の隠れ家となってしまったからだ。捕獲されたブラックバスは体長四~五センチの幼魚も多く、これらを完全に駆除するのは至難の技である。
 春川町内会長の「一匹残らず」の掛け声もむなしく、絶滅作戦が成功したとは言えなかった。会長は「作戦を練り直して来年もやらなければならんかなあ」と話した。
 「古土の溜池」は面積も大きく、中央に弁天島もあって、なかなかのロケーションである。ここにメダカやタナゴが復活し、遊歩道が整備され、植樹された桜の花を楽しむ日がくることを期待したい。
P align="right">(越後タイムス10月6日「週末点描」より)



飲酒運転のこと

2006年10月07日 | 日記
 悲惨な交通事故が続いている。特に飲酒運転による人身事故はむごたらしい結果を生むが、あれだけ連日のように報道されても後を絶つことがない。飲酒運転に関してはとても忌まわしい思い出がある。一人の友人を死なせているのだ。しかも一緒に酒を飲んだ直後に……と書くと、運転するのを分かっていて飲ませた罪に問われそうだが、そうではない。
 二十五年以上前のことになるが、しょっちゅう一緒に飲み歩く友人がいた。ある晩、彼の住居近くの飲み屋で二人で酒を酌み交わした。彼は新花町界隈に住んでいたから、車をつかう必要もなく、いつも歩いて待ち合わせ、いつも歩いて別れるという習慣だった。その日も、異常に速いピッチで飲む彼とアンバランスな飲み方をし、ハシゴもしないで別れた。
 翌朝の八時頃、彼の勤める会社からの「昨晩、交通事故で死んだ」という知らせに、我が耳を疑った。しかも飲酒運転で橋の親柱に激突して死亡したというのである。飲み屋で別れ、いったん家に帰ってから、どこへ行くつもりだったのだろう、酒酔い状態で車を運転し、悲劇は起きた。
 彼の場合、車で出掛けて飲み、タクシーで帰るのが面倒で飲酒運転をしたというのではない。どうも、酒を飲むと車でふらっと出掛けたくなる習性があったらしい。友人達の誰も、その夜彼がどこへ行こうとしたのか知る者はいなかった。未だに彼がどこへ行こうとしたのかは謎のままだ。
 その時は、“きのうの夜まで話していた友人が突然いなくなった”という事実に気が動転し、何も考える余裕はなかったが、今となってみれば、“道連れをつくらなくてよかった”と思うほかはない。
 優しくて親切でおとなしい男だったが、もし誰かを巻き添えにしていたらと思うとぞっとする。自損事故で一人で死んでくれたおかげで、彼の善良なイメージは今も保たれている。
P align="right">(越後タイムス9月29日「週末点描」より)