イギリスの音楽のイメージを口で説明するのは難しい。
それこそ、イギリスの代表的な作曲家の曲を何度も聴きこんでいるうちに、自然と耳というか心の中に入ってくるものだと思う。
それに一番相応しい作曲家となると、このディーリアス以外に頭の中に浮かんでこない。
このCDの説明書にあるディーリアスの紹介は、何とも素っ気ない。
「1862年1月29日英ヨークシャー州のブラットフォードに生まれ、1934年6月10日パリ近郊のグレ=シュル=ロワンで没したイギリスの異色作曲家」としか書いていない。
もう少し調べてみると、彼はイギリスに生まれはしたが、両親はドイツ人であり、24歳から2年間ライプチヒ音楽院で学んでいる。
26歳以降はフランスに定住し、他国に住むことはなかった。
晩年は病により失明し、長く苦しんだ末に亡くなる・・という、気の毒なものだった。
それなのに彼の音楽から流れてくる草原の香り、爽やかな風、そんな自然の雰囲気はどこから来るのだろう。
たぶん子供の頃にイギリスの自然にたっぷりと親しんだ経験、そんな思い出が体にしみこんでいたからに違いないと思う。
このCDに入っている曲は、田園詩曲、春はじめての郭公を聞いて、楽園への道、「イルメリン」前奏曲、「フェニモアとゲルダ」間奏曲の5曲だが、どれも素晴らしい。
バルビローリは、イタリア人を父に、フランス人を母に持って1899年にロンドンで生まれている。
彼も血はイギリス人ではないが、イギリス音楽は得意中の得意で、このディーリアスの演奏も何とも言えないほどの素晴らしい情緒を醸し出している。
彼は68年にディーリアスの曲をEMIに再録音しているが、私としては断然、この55年の演奏に惹かれる。
今年の夏の暑さを忘れさせてくれるこの演奏、「この曲この1枚」としてぜひ聴いて欲しいと思う。
・ジョン・バルビローリ指揮、ハレ管弦楽団(1955年録音) <PRT>
とっておきの名盤 その86 マーラー 交響曲第9番ニ長調