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魔都江戸の都市計画

2007年02月15日 09時52分27秒 | 読書
魔都江戸の都市計画            内藤正敏著 洋泉社
 
 京都に対する江戸、伊勢神宮に対する東照宮、天照大神に対する東照大権現、朝廷に対する幕府。
 われわれが学校で習う徳川幕府の由来は朝廷から征夷大将軍を拝し、幕府を開いたという朝廷の権威のもとに展開した江戸幕府というものだが、実際はそうでないとこの本は説く。朝廷に匹敵する王権として江戸幕府は存在したのだ、と。
 江戸は幕府が置かれた政治の中心であるだけではなく、京都に匹敵する王都であった。王都は都市にフェティッシュな意味づけがなされてこその王都である。江戸は京都がそうであるのと同様、四神相応の地であった。また、刑場、被差別民、遊里、こうした周縁が異界である東北への玄関口(奥州街道・日光街道)ともう一つの王都である京都への玄関口(東海道)に置かれている。とくに千住は重要で、東北への玄関口であると同時に、朝廷の伊勢神宮に対する徳川家の東照宮への玄関口でもあった。
 江戸を守護しているのは日光東照宮だけではない。寛永寺、増上寺に埋葬されている将軍の遺体もフェティッシュな意味で江戸を守護している。知らなかったのだが、質素にせよと遺言した秀忠を除けば、将軍の遺体はミイラ処理がされているとのことだ。将軍のミイラが鬼門(寛永寺)と裏鬼門(増上寺)に配置されている。
 読んでいて、この辺の分析にワクワクしてしまう。風水や陰陽師がブームになった今、こうした説はさほど突飛とも思わず受け入れることができる。
 東照大権現はかつての支配者豊臣秀吉の豊国大明神に対抗する神ではなく、伊勢の天照大神に対抗する神だとも著者は言う。


「日光東照宮の宮号が宣下された正保2年(1645)の翌年から、天皇の勅使である例幣使が日光東照宮に派遣される。それと同時に伊勢神宮への例幣使も復活する。江戸時代を通じて例幣使が発せられたのは日光東照宮と伊勢神宮だけですからね。文字どおり、東照大権現は最高の国家神となったわけです」


 輪王寺宮に天皇の皇子を用いたのは、天皇家を東照大権現に仕えさせるためだと言う。
 こうして江戸は王都として存在した。明治になると王都江戸は帝都東京へと変貌させなければならない。その一環が明治神宮であったと言う。


「殿内には、これも当時最高の美術工芸家の手により造られた神服、神鏡、神劔の三種の神宝が納められました。これらの神宝は、生きている天皇のための“三種の神器”とは異なり、神器のひとつ勾玉が神宝の場合は神服に代わっています。神服は魂の宿る形代であり、魂の象徴である勾玉と同じ意味があると思います。明治神宮の三種の神宝こそは、死者の王のための“三種の神器”だったのです。
(中略)
こうした熱狂的な雰囲気の中で明治天皇は神に祀り上げられ、呪力ある国家神が造り出され、帝都東京に新しい“聖地”が誕生しました。明治神宮は当時の最高最新の知識・技術と国家神道の祝祭儀礼によって造り出されたのです」


 著者はさらに王都と盛り場との関連を指摘する。


「それともうひとつは、江戸最大の盛り場はすべて王権と関係する聖地なのです。
上野山下、浅草奥山、そして回向院、いずれも将軍墓があったり、大量の変死者の埋葬地だったり、非日常的な死が関係した場所です。浅草寺の奥の北側には小塚原刑場があり、死臭がただよっている、やはり非日常的な死の空間ですね。
(中略)
こういう死と王権のかかわる場所は、江戸最大の盛り場であると同時に、ものすごく情報の溢れた場所で、グロテスクな見世物とか、ラクダだの豹だのという、新しい動物が来たり、からくりの技術などが見世物にかかる場所でもあります」


 したがって、王都が帝都に変わるためには盛り場も変わらなければならない。著者の結論は面白いものだ。

「江戸時代の盛り場をみると、その多くは江戸城からみて北東の方位にあります。ところが1960年代から70年代以後の東京の盛り場は、皇居の西北の新宿、渋谷、原宿、青山、六本木へと移っています。これら東京の新しい盛り場をみると、明治天皇の死に関係する明治神宮と神宮外苑、それに大正天皇と昭和天皇の大喪の礼がおこなわれた新宿御苑に隣接する場所ばかりなのに気づきます。
政治的には、徳川王権から近代天皇制へと政権が変わるのは明治になってからですが、東京が徳川将軍の都から天皇の都市=帝都へと完全に変化するのには100年以上もかかったわけです」


 なかなか刺激に富んだ面白い本だった。中に挿入された写真もいい。

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