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日本とフランス二つの民主主義

2006年11月28日 08時52分33秒 | 読書
「日本とフランス二つの民主主義」 薬師院仁志著 光文社新書

 著者のスタンスはこの一言につきる。
「フランス流の個人主義と連帯主義で、万事が上手く行くとは限らない。アメリカ流の自由主義がすべての問題を解決するわけではないのと同じである。ましてや、現実のフランスが、自らの描き出す理想を実現しているわけではない。
だが、われわれにとって重要なことは、自らの選択を正しく行うために、多様な考え方、多様な価値観を知ることである」

戦後日本は民主主義国家となったものの、敗戦・占領下においてその民主主義はアメリカ流しかなかったし、今もわれわれのイメージする民主主義はアメリカ流だろう。いや、アメリカ流と意識することすらないかもしれない。われわれには民主主義の選択肢がなく、一つの民主主義しかしらないからだ。
自由や民主主義という概念も日本独自の歴史的経緯によって他国とは違う用いられかたをしている。

「翻って日本は、戦時期の国家総動員体制の下で、自由主義も共産主義も民主主義も区別なく国賊視されたという歴史を持つ。だから、自由主義と左派思想がしばしば混同されがちなのだ」

 実は自由とは、保守的概念なのだ。

「自由こそが伝統で、自由主義こそ保守主義なのだ。要するに、市民革命(ブルジョワ革命)と産業革命以来の歴史を持つ伝統的な自由資本主義体制を守るのが、保守主義なのである」

では、自由に対する概念とは何か。それは平等である。

「伝統的な自由主義に対して、19世紀半ばになると、労働者や小市民を中心とする庶民階層は、平等を強く求めるようになる。市民革命以来の自由民主主義に異を唱え始めたのだ。歴史的には、1848年のフランス二月革命、およびそれに誘発されたドイツ三月革命を契機に、社会民主主義(démo-soc)という勢力が台頭してきたのである。
この時点で、平等を求める新しい民主主義(革新)が、自由を求める伝統的な民主主義(保守)と袂を分かつことになる。すなわち、自由ではなく、不自由でも平等を求める闘争が始まったのだ」

そこで、「極めて大ざっぱに言うならば、ヨーロッパにおける選挙は、常に自由(右)か平等(左)かの選択となる」。
この本はアメリカ流の自由競争を重んじる自由民主主義に対して平等を重んじるフランス流の社会民主主義について紹介している。そして、冒頭示した通り、ただフランスを持ち上げるのではなく、自由民主主義しか知らないわれわれに別な選択肢を紹介するという著者のスタンスは好感が持てる。
また日本独自の歴史的経緯から、自由や民主主義、国家主義などがどのように誤解されてきたかわかりやすく書いてあり、フランス流民主主義の紹介にとどまらず、日本の民主主義についても再考を促される内容であった。

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