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ヘレン・メリル「ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン」

2009年01月06日 10時41分26秒 | 音楽


 ぼくが高校生の頃、一時ジャズが少し流行ったことがあった。ヘレン・メリルやビリー・ホリデイの歌がCMに使われ、なんと森進一の歌う「Stardust」さえ、確か車のCMに使われていたのだ。あれは、でも、ルイ・アームストロングの歌う「Stardust」を聴いた人(あるいはウディ・アレンの「スターダスト・メモリー」を見た人)が、同じような声質だから森進一もイケルかもよ、というような企画なような気がする。
 でも、まあ、少し流行った。ジャズが大好きだったぼくは、世間が少し自分と折り合いをつけてくれたような気がして、嬉しかったものだ。
 そんな中ヘレン・メリルの「You'd be so nice to come home to」がもてはやされていた。中学の頃読んだ矢作俊彦の、あれは、たしか、「リンゴォ・キッドの休日」(もしくは「マイク・ハマーへ伝言」のどっちか)に出てきて、ぼくたちはレコードを探し求めて聴いていたものだ。クリフォード・ブラウンのソロがたまらく素晴らしい。
 ぼくはその曲も好きだったが、同じアルバムの「What's new」に惹かれた。たまたま出会う別れた恋人たち。その間に流れる情感。Handsome as ever I must admitの最後の「t」の発音だけで、男子高校生は昇天したものだ(ぼくだけじゃないはずだ)。
 そのくせ、別れた相手に街で偶然出会うなんてことあるわけないじゃん、なんて思っていた。その頃ぼくは初めて付き合ったレズビアンの女の子(彼女は男と付き合うのは初めてで、ぼくたちは初初しいのか、そうじゃないのか、不思議な関係だった)との仲がぎくしゃくしていて、電話をするたびに失望したり、天にも昇るような思いをしたり、シュトゥルム・ウント・ドランク、嵐と衝動の中をはいずり回っていた。たぶん、このまま二度と会わないだろう彼女とぼくがどこかで再会する? あり得ない。
 しかし、時を経て、もう少し落ち着いた恋愛をすると考えも変わってきた。
 東京中を平均化すれば出会う可能性など皆無だろうが、考えてみれば、付き合っている相手と自分とは立ち回り先が同じだったりするのだ。たとえばピロスマニ展で偶然出くわす可能性は、街で偶然出会う可能性よりもかなり高いはずだ。
 大瀧詠一にも大貫妙子にも恋人と偶然出会う、そんな歌があったと思う。
 現実に、ぼくにもそんなことがあった。
 ある劇団の芝居に弟がガールフレンドと出かけたら、隣の席に友人を連れたぼくの前の彼女が座ったことがあったそうだ。彼女は友人にぼくの弟を「義弟のなりそこない」と紹介したらしい。
一番多く再会したのは、絶対に再会するはずない、と思っていたレズビアンの彼女だ。
 ぼくのことをまるで相手にしていなそうだったのに、ぼくが二十歳の頃突然夜電話をかけてきた。「今、早稲田に住んでんの。焼きそば食べたいから、持ってきてよ。一緒に食べよう」
 振り回されるのは、もうごめんだ。それにぼくにはガールフレンドもいるし。それでもぼくたちは何回か会った。恋愛において過去が新しいという逆説をぼくは経験した。もちろん、数回会っただけでぼくたちはまた音信不通になった。
 そんなこんなでぼくが30歳のあるとき、母親がその彼女に会ったわよ、とぼくの度肝を抜くご発言。彼女はぼくの会社の真向かいのマンションに引っ越してきて、ぼくの会社の一軒となりの歯医者さんで働いていた。母親はその歯医者さんに通っていたのだ。
 あるとき近所のサンシャインをガールフレンドと歩いていると、その彼女がいてぼくに「あ、アキラくーん!」と手を振った。
「だれ?」
「近所の歯医者さんで働いてる人」
 だけど、どう考えても何の関係もない近所の歯科衛生士はファーストネームを呼んで手を振らないよな。

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2 コメント

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NYの溜息 (cellopy)
2009-01-06 23:37:50
大学生の頃、生まれ変わったらヘレン・メリルのようなジャズシンガーになりたいと思っていました。
カラオケ版You'd be so nice...は、ヘレンになりきれます

What's Newは、リンダ・ロンシュタットのも好きです。


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ぼくは (aquira)
2009-01-07 15:58:21
 What's the wonderful worldを歌うとき、ルイ・アームストロングになります。数少ない持ち芸なんです。
cellopyさんのYou'd be so nice...、是非聴いてみたいですねえ。
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