かっぱ寺から直接待乳山に行くなら西なんだけれど、ここはついでに太郎稲荷へ。
江戸時代に流行った人んち拝み。その家その家に神棚や祠があるのだけれど、成功した人の神仏には御利益の能力が高いのではないか、と他人の家に拝みに行ったりする流行。直接そこへ拝みに行く場合もあるし、その神様などを勧請して分祠する場合もある。
こうした人んち拝みで、一番有名なのは於岩稲荷かもしれない。お岩さんは貧しい暮らしの中やりくりし、商家に奉公に出たりと苦労を重ね、やがて夫婦の蓄えも増え、周囲の評判になる。で、お岩さんちのお稲荷さんのおかげだということで、無病息災、商売繁盛などの御利益を期待する人々が拝みにやって来る。
あの怪談は幕末、鶴屋南北の創作で、実際のお岩さんは夫婦睦まじく成功裡の人生を送ったのだった。
この太郎稲荷も人んち拝みのお稲荷さん。樋口一葉の「たけくらべ」にも登場するし、落語の好きな方なら「ぞろぞろ」に出てくるお稲荷さんと言うとわかりが早いかもしれない。よほど太郎稲荷の効き目やあらたかだったのか、この近くにもう一つある。
小さいながらも地元の人たちに篤く祀られているお稲荷さんだ。
太郎稲荷から西に行くと、鷲神社。そこの熊手。酉の市のシーズン到来、ああ、かくも1年の過ぎゆく早さよ。
で、ごらんの通り、鷲がいない。
日露戦争時、敵国ロシアの紋章を飾るのはいかがなものか、というバカな意見によって鷲の姿は熊手から消えるのであった。
そのお隣、長国寺。もともとは鷲神社と一つのものだったのが、明治の神仏分離令によって分断され、妙見信仰は長国寺へ受け継がれていく。ここんとこ、なぜか妙見信仰に縁があるな、そう言えば。
ここから西へ、隅田川の方へ。
しかし、この先の街がなんというか大変だったのである。