坊主の家計簿

♪こらえちゃいけないんだ You
 思いを伝えてよ 何も始まらないからね

小熊英二『日本という国』

2009年12月01日 | 坊主の家計簿
 寺の通信完成。って、まあ、明日から12月やし、ギリギリやのぉ。。。

 そういや、先日娘の3ヶ月検診に行って来た。っちゅうてもパパはロビー(?)で待ってたりしてヒマ。余りにもヒマだったので同じ敷地内にある図書館に行く。料理雑誌なんぞを見ながら「おお、このあんかけ焼そばの店、自転車で行ける範囲やし、安いやんけ」なんぞと。それでも終わらぬ3ヶ月検診。ついでに本を物色する。
 小熊英二の『日本という国』という本を見つける。小学生向けなんだろうか?例えば『福沢諭吉』『義務教育』なんぞに『ふくざわゆきち』『ぎむきょういく』なんぞとイチイチ漢字に平仮名のルビをふってある。しかも第一章が『なんで学校に行かなくちゃいけないの』である。
 んで、内容は危ない(笑)まあ、恐らく義務教育では教えてくれない事を小熊英二先生が教えてくれるであろう。名著。

 小熊英二『日本という国 (よりみちパン!セ)』

 娘が小学校4年生ぐらいになったら『無理矢理』にでも、要するに「この本を読んで読書感想文を書いたら1200円分(本代)の好きなものを買ってあげる」なんぞと交換条件にして読ませよ。

 
 あ、本に紹介してあった文章を見つけたので、引用。


【次の日、久しぶりにほとんど留守家族が来ないので、やれやれとしているときふと気がつくと、私の机から頭だけ見えるくらいの少女が、チョコンと立って、私の顔をマヂ、マヂと見つめていた。
 私が姿勢を正して、なにかを問いかけようとすると、
 「あたち、小学二年生なの。おとうちゃんは、フィリッピンに行ったの。おとうちゃんの名は、○○○○なの。いえには、おじいちゃんと、おばあちゃんがいるけど、たべものがわるいので、びょうきして、ねているの。それで、それで、わたしに、この手紙をもって、おとうちゃんのことをきいておいでというので、あたし、きたの。」
 顔中に汗をしたたらせて、一いきにこれだけいうと、大きく肩で息をした。私はだまって机の上に差し出した小さい手から葉書を見ると、復員局からの通知書があった。住所は、東京都の中野であった。私は帳簿をめくって、氏名のところを見ると、比島のルソンのバギオで、戦死になっていた。
 「あなたのお父さんは――」
 と言いかけて、私は少女の顔を見た。やせた、真黒な顔、伸びたオカッパの下に切れ長の長い眼を、一杯に開いて、私の唇をみつめていた。私は少女に答えねばならぬ、答えねばならぬと体の中に走る戦慄を精一杯おさえて、どんな声で答えたかわからない。
 「あなたのお父さんは、戦死しておられるのです。」
 といって、声がつづかなくなった。瞬間少女は、精一杯に開いた眼をさらにパッと開き、そして、わっと、べそをかきそうになった。涙が、眼一杯にあふれそうになっているのを必死にこらえていた。それを見ている内に、私の眼に、涙があふれて、ほほをつたわりはじめた。私の方が声をあげて泣きたくなった。しかし、少女は、
 「あたし、おじいちゃまからいわれて来たの。おとうちゃまが、戦死していたら、係のおじちゃまに、おとうちゃまの戦死したところと、戦死した、ぢょうきょう、ぢょうきょうですね、それを、かいて、もらっておいで、といわれたの。」
 私はだまって、うなづいて、紙を出して、書こうとして、うつむいた瞬間、紙の上にボタ、ボタ、涙が落ちて、書けなくなった。
 少女は、不思議そうに、私の顔を見つめていたのに困った。やっと、書き終えて、封筒に入れ、少女に渡すと、小さい手で、ポケットに大切にしまいこんで、腕で押さえて、うなだれた。涙一滴、落とさず、一声も声をあげなかった。肩に手をやって、なにかいおうと思い、顔をのぞき込むと、下唇を血が出るようにかみしめて、カッと眼を開いて肩で息をしていた。私は、声を呑んで、しばらくして、
「ひとりで、帰れるの。」
 と聞いた。少女は、私の顔をみつめて、
「あたし、おじいちゃまにいわれたの、泣いては、いけないって。おじいちゃまから、おばあちゃまから、電車賃をもらって、電車を教えてもらったの。だから、ゆけるね、となんども、なんども、いわれたの。」
 と、あらためて、じぶんにいいきかせるように、こっくりと、私にうなづいてみせた。私は、体中が熱くなってしまった。帰る途中で、私に話した。
 「あたし、いもうとが二人いるのよ。おかあさんも、しんだの。だから、あたしが、しっかりしなくては、ならないんだって。あたしは、泣いてはいけないんだって。」
 と、小さい手をひく私の手に、何度も、何度も、いう言葉だけが、私の頭の中をぐるぐる廻っていた。
 どうなるのであろうか、私は一体なんなのか、何が出来るのか?
 戦争は、大きな、大きな、なにかを奪った。
 悲しみ以上のなにか、かけがえのないものを奪った。
 私たちは、このふたつのことから、この悲しみから、なにかを考えるべきであろうか。
 私たちは何をすべきであろうか。
 声なき声は、そこにあると思う。】
 (杉山龍丸『ふたつの悲しみ』 ただしhttp://tanizoko2.hp.infoseek.co.jp/futatunokanasimi.htmlより)


【いまでもニュースなんかで、「どこそこの戦争で何万人が死んだ」とか簡単に報道され、私たちはそれを聞きながすのに慣れている。しかし、そういう数字の背後には、たくさんの悲しみや心の傷があることを、覚えておいたほうがいい。】(小熊英二『日本という国』89ページより)