スマホの普及は社会の風景を大きく変えたし、そこに生きるぼくたちの意識も変えた。
とうぜん、いまの時代を描こうというなら、どんな作品もこれを避けてはつくれない。
映画『君の名は。』(2016年)でも、スマホは重要な小道具として使われた。ただしあの作品では、「本当に大切なことはスマホでは伝えられない」のがミソだった。瀧と三葉が互いの近況を残してたのは、あくまでも日記アプリであって、メールではない。3年の月日を隔ててるんだから、メールはできないのだ。そしてその日記だって、三葉の側の世界(時間軸)に彗星が落下した後は、砂に書いた文字が波にさらわれるように消え去ってしまう。
いっぽうこの『宇宙よりも遠い場所』では、メールがものすごく大事な役割をはたす。それなしでは作品そのものが成り立たぬくらいに。
もうひとつ、いわばメールの発展形というべき「ライン」もまた大きな役目を担う。
ぼくはテレビを見ないので、ほかのアニメやドラマをあまり知らない。だからきちんと比較はできない。できないんだけど、スマホをここまで見事に使いこなした作品は、そう滅多やたらにあるはずはない。そんな確信はある。それはマンガや小説をも含めてだ。
自室に戻った結月は、ひとり思い悩んでいる。「どういうことなんだろう。やっぱりよくわからないな……」
そこにノックの音がする。なんだかあの時と似ている。
扉を開け、廊下に出るが誰もいない。すると頭上から、「メ、メリークリスマス」の声が。

ノックしてからの僅かな時間にこの態勢になれるんだから、キマリはそうとう運動神経いいと思う。いや、まじめな話
「何してるんですか!?」
「クリスマスだから!」←意味不明 →落下「痛ててて……」
あの時と違うのは、3人が一緒にではなく、時間をずらして来るところである。まずはこのとぼけたサンタさん。

「なんかさ、ずっと夕方って落ち着かないよね。一日が終らないみたいで」
「怒ってるんですよね……」
「ふえ?」
「怒ってるんですよね……返事……ないし」

「だって、謝ることじゃないもん」

「なんです、これ?」
「(画面をスクロールしながら)めぐっちゃん。私の幼稚園からの幼なじみで、いちばんの親友。出発直前に、絶交だって言われたんだけど、私は友達だと思ってて」

「返事あまりないですね……」
「でもなんとなくわかる。(ここで挿入歌「またね」がはじまる。これが掛かるのは、第5話のあの「旅立ちの朝」以来だ) 画面を見てるとね、ぴっ、て読んだよってサインがついたり、なにか返ってきたり。すぐだったり、ちょっと時間が空いたり、半日後だったり。それを見るたびに、なんとなくわかるんだ。ああ、いま学校なんだなあとか、寝てたんだなあとか。返事しようかとちょっと迷ったのかなあとか」


このカットがあの壮大なオチへの伏線だったとは、このとき視聴者は誰ひとり気づかなかったろう

「わかるんだよー、どんな顔してるか。変だよね。…………私にとって友達ってたぶん、そんな感じ。ぜんぜんはっきりしてないんだけどさあ、でもたぶん、そんな感じ」
「…………」(ちょっと困った顔で笑みを浮かべる結月)
「ごめんね、なんの解決にもなってないかも。あはははは」
そこに再びノックの音。時間差でやってきたのは、もちろんこの2人(余興を抜け出してきたのである)。

メリークリスマス、アーンド、ハッピーバースデー!
キ「結月ちゃん、このまえ誕生日だったでしょ?(結月の誕生日は12月10日の設定) でもあのころ、私たち船酔いしてばっかりで……ごめんね」報「こうなったら、南極でお祝いしようってキマリが言い出して。弓子さんに材料分けてもらって」日「まあ、いびつなとこはイメージで補完してもらえれば」

キマリがケーキの準備をはじめたのは、基地に入ってすぐのことだ。つまり、「友達誓約書」はもとより、そもそも結月がオーディション合格のメールを受け取る前である。これはけっこう大きいと思う。友達うんぬんの話が出た後だったら、それこそ、「私がケーキの準備してくれって言ったみたいじゃないですかあぁぁぁ」ってことにもなりかねないからだ。

「あ……」
誕生日を祝ってもらって嬉しいのは当然だろうけど、ここ、それだけじゃないと思うんだよなあ。「友達って何ですか?」と問い続けてる自分に対して、ここまで一所懸命に、あの手この手で、「友達ってこんなだよ」と伝えようとしてくれる人たち。それこそまさに友達じゃないか。いやじっさい、それを友達と呼ばずして、いったい何と呼べばいいのかって話ですよ。

キマリ「結月ちゃん、……おめでと」
日向「おめでと」
報瀬「さ、消して」


キマリ「また!?」
日向「最初会った時もそうだったよなー」

「泣いて……すみません……」(かなりの涙声なんで、「泣いて……ません」にも聞こえるが、「すみません」と言ってると思う)
早く消さないとローソク溶けるぞ、と日向に促され、結月は泣きじゃくりながら「イヤです。初めてなんですから。友達からお祝いされるの……」と答える。「友達から」といったのである。ネットを見てたら、「ひとが生まれて初めて≪友情≫というものを実感した瞬間」という評価があった。だよね。『奇跡の人』(サリバン先生とヘレン・ケラー)の「water!」に匹敵するくらいのことだと思うな、個人的には。
このあと、なおも拒んでいた結月、くしゃみで火を吹き消してしまう。
「初めてだったのにぃ」という泣き声に、3人のあたたかい笑い声がかさなる。