ダウンワード・パラダイス

「ニッポンって何?」を隠しテーマに、純文学やら物語やら、色んな本をせっせと読む。

22.04.14 円安とセミの抜け殻。

2022-04-14 | 映画・マンガ・アニメ・ドラマ・音楽
 このところの円安は行き過ぎではないかとぼくは思うが、日銀の経済操作の是非にかんする判断というのはなかなかに高度な知識を要するので、軽々に「黒田(総裁)が悪い。」「なに考えてんだ。」とは言えない。ただ、お気に入りのtwitterを眺めていると(もともと自民党政府に批判的な方々が多いせいもあって)、おおむねみんなそう言っている。
 いっぽう、自民礼賛サイドの上念司氏は、「悪しき円安」という常套句に反論して、「あのさ、為替レートに良いも悪いもないから。日本の場合は望ましいインフレ率を達成しようと政策を動員した結果でしかない。逆に言うと、望ましいインフレ率以上に大事なものがあるならそれを証明して。」とツイートしている。この人は根っからのインフレ推進派だからこういうことを述べるわけだが、しかし、コロナ禍による輸出の低迷・訪日客の激減・資源高や供給網(サプライチェーン)の混乱などが重なって、近年のニッポンにとって円安は以前ほど歓迎されるものではなくなっているし、物価はただでさえ上昇傾向にある。そこへロシアのウクライナ侵攻(によるエネルギー価格高騰)が追い打ちをかけ、コロナ禍が収束する気配も一向にない。こういった不安定要素が積みあがる中で、インフレが決して景気の拡大を保証しないとなると、これはいわゆるスタグフレーション、つまり賃金は上がらず物価だけ上がる、庶民にとってはいちばん痛い状況になるのではないか? という懸念が拭えないんだけど、どうなんだろう。杞憂であればよいのだが。


 『鎌倉殿の13人』は、後の悲劇につながる「仕込み」が着々と埋設されて、三谷幸喜の意地わるな筆がいよいよ冴えわたってきた感じだが、事実上の人質として大姫(頼朝と政子との娘)のもとに婿入りしてきた八代目・市川染五郎演じる木曽(源)義高が「蝉の抜け殻を蒐めるのが趣味」というのは、いかにも三谷さんらしい潤色だと思った。なるほどこういう細部の作り込みがキャラの存在感を際立たせるのだなあ。清水冠者とも呼ばれた義高は、当年17歳の八代目よりもさらに年少で、今でいうなら小学校の5、6年生くらい。そんな子供っぽい嗜好があってもぜんぜん可笑しくはないが、むろんそれだけに留まるものではないだろう。
 古来「蝉の抜け殻」といえば「空蝉」と称され、およそ「儚いもの」の代表とされる。源氏同士の骨肉の争いの中で、わずか12歳かそこらで命を散らす義高じしんの象徴のようでもあるし、もっというなら許嫁の大姫の運命をも示唆しているのかもしれない。この姫、当時たかだか6歳くらいにすぎず、しかも義高と一緒にいたのは1年にも満たぬ間ながら、彼を心底慕っており、義高が横死を遂げたのちは「魂の抜け殻」のようになってしまう。頼朝はなんとか彼女を幸せにしようと、本来の政治構想に反してけんめいに朝廷に媚びを売り、入内まで画策するのだが、その工作もむなしく彼女は20歳にもならない齢で身まかることになる。のちの頼家、実朝の最期はご存じのとおり。つまり政子は3人の子供すべてを非業のかたちで喪うのである。



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