ダウンワード・パラダイス

「ニッポンって何?」を隠しテーマに、純文学やら物語やら、色んな本をせっせと読む。

映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』良かったです。

2023-12-08 | 映画・マンガ・アニメ・ドラマ・音楽

「いやもうオレは飽きちゃったんだよアニメには。勘弁してよ。だって『君たちはどう生きるか』も観てないんだぜー」などとぶつぶつ言いながら、知り合いに無理やり引っ張っていかれた劇場映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』がたいへん良くて、ぼろぼろ泣いてしまいました。ちょうど昨年の今ごろ夢中になっていた『すずめの戸締まり』とは「鎮魂」という主題において通底するところはありつつも、鑑賞後の爽快さに関しては真逆というべく……。「すずめ」が文字どおりの「カタルシス(浄化)」を齎してくれたのに対し、こちらは澱(おり)のようにドロリと胸の底に残る感じで……。しかし裏返していえば、こちらのほうがより深い所まで「日本」という国の本質に錘をおろしているということなのでしょう。
 感想を言語化すべく、例によってネットであれこれ探していたら、映画批評で一家をなしているラッパー宇多丸さんの口演およびその文字起こしを発見。言いたいことはほとんどここに尽くされていて、ぼくとして書くべきことはなくなりました。ひとことだけ言い添えておくと、みなが口をそろえて言う横溝正史はもちろんですが、ぼく個人は手塚治虫御大の名作『奇子(あやこ)』を思い浮かべましたね。
(本作はPG-12指定………小学生以下のお子様が視聴する際、保護者の助言・指導が必要…………です。)










口演(ラジオ放送をyoutube用に録画したもの)
宇多丸『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』を評論:週刊映画時評ムービーウォッチメン【公式】2023年11月30日
https://www.youtube.com/watch?v=K8n8utzlThU









一部を抜き書き。




「………………そこで明らかになるおぞましさっていうのは、結局……権力に執着する家父長制というのが行き着いた果ての、暴力的、一方的搾取構造。結局ここに行っちゃう、っていうことなんですね。それは戦前日本の軍国主義、そして戦後日本の経済大国化とも、本質的に繋がるものでもあるよ、という話になっていく。………………」






「………………で、そこから生じた富を脈々と貪り続けているあのラスボスも、やはり極度に寓話化されてはいますけども、現実のこの国の権力のあり方というのを、象徴しているわけですよね。そしてそれは、水木漫画の根幹……特に今回、本作でも直接的に引用される、さっきも言いました『総員玉砕せよ!』で描かれた戦争観、日本観、もっと言えば「日本社会の権力」観ですね。これは正直、現実にもこういう構図はあるわけですよ。ということです。で、そのメッセージを改めて作品に落とし込んだ、という表現なわけです。なので私は、メールでリスナーの方もおっしゃっている通り、そのメッセージを今、このメジャーなコンテンツに改めて昇華してみせたその作り手の志、というところにも大変感動いたしました。………………」






「………………つまりそれはどういうことかっていうと、戦後日本が忘れてしまったもの、あるいは蓋をして見ないようにしてきたものたちを、鬼太郎というヒーローは、見つめ、鎮魂する。そういう存在だったよ、っていうことを再定義してみせる。鬼太郎を。だから鬼太郎はかっこいいし、尊く見えるし……その、なんていうのかな、単にヒーローが悪者をやっつけるんじゃない感動っていうんですかね。ヒーロー物として、すごくここでカタルシスが、この構成によって生まれるようになっていて。………………」






「………………物語内での鬼太郎の誕生、これを描く。でも、これのみならず、さっきから言っているように、水木しげるさんが戦争をはじめ様々な経験を経て産み落とした漫画作品、そしてキャラクターとしての鬼太郎の誕生、というメタ的な意味。しかもそこには、本作がずっと描いて訴えてきた、その戦前から戦後に至る日本社会の負のなにか、みたいなものに至るまでが、重ね合わさっている。物語的な意味と、水木しげる作品であることの意味と、社会的な意味と……っていうのが何重にも重なったところで、ラスト、満を持して、『鬼太郎誕生』ってドーン!と来ると、これはだから単に「上手い」を超えた、ズシーンとくる感動が残るようになっていて。………………」



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