アンテナ設置を手伝うキマリたち。「SF映画みたいですね」と結月。

「水を飲んでみたら? 美味しいわよ」と信恵が勧める。「飲めるんですか」ときくキマリに、「ある意味世界でいちばん綺麗な水かもね。ひとがふれることはほとんどないし、雑菌が繁殖するほど気温も上がらないし」
信恵さん、「ユウくんモード」にさえ入らぬかぎり、ちゃんと有能で、気配りもできる人とみた。
日向が「いっちば~ん」と水辺に駆け寄る。「あー日向ちゃんずるーい」

かぷかぷかぷ。んま~
つづいて結月「ほんとだ。冷たくて美味しい~」。キマリ「からだに沁みる~」。にこやかにその様子を見ている日向。
なんかやたらと~が多いが、ほんとにこのへん、3人ともそんな喋り方をしてるのである。
「報瀬ちゃんは~?」とキマリがきくが、報瀬は、「あとでいい」と、やはり頑として協調しない。
そんな報瀬に夢が、マイクを渡して「喋って」という。通信テストだ(報瀬を指定したのはたまたま近くにいたからで、意図して藤堂とここで話させようとしたわけではない。そこまでは配慮していない)。
「わ……私ですか」
基地の藤堂、かなえに繋がる。「え、えっと……こちら……ルンドボークスヘッタの小淵沢です」
かなえ「はい。こちら昭和。感度良好です。景色はどうですか。どうぞ」
「はい……なんか……ケーキに囲まれてるみたいです」
藤堂がくすっと笑って、「貴子も言ってた。着いた瞬間、チョコケーキ食べてえーって」

マイクをわずかに離して「お母さんも……」とつぶやく報瀬。
このシークエンスは、11話の内容には関係がなくて、12話へと直につながるものだけど、藤堂が「あなたが今いるその場所に貴子がいた」こと、「そして、あなたとよく似た感想を貴子も口にした」ことを報瀬に伝えた場面として印象ぶかい。そんな体験を重ねることは、報瀬にとって大切なステップなのである。
そして、そういう機会をお膳立てしたのは、元をたどればキマリなのだ(当人は今、結月とはしゃいでいるが)。
そんな報瀬を、すこし怪訝そうに見つめる日向。なぜこんな硬い態度をとりつづけてるのかわからぬらしい。
ところで、キマリが今回ことのほか子供っぽいのは、これまで書いてきた理由のほかに、前話でより深く結月とうちとけたせいもあるのかな、とふと思った。そういえば結月もいくぶん幼く見える。子役として子どもらしい子ども時代を送れなかった高校生が、ちょっとだけ、子どもの頃をやり直していて、それにキマリも無意識に付き合っている。そんなぐあいに見えなくもない。
シーンが変わって、衛星写真のためのペンキ塗り作業。「ルンドボークスヘッタ」でgoogle検索すると、茶色い岩肌の上に白いペンキを塗ったこの実物写真が出てくる。
塗り終えて、「こんな感じですか?」ときくキマリ。夢が、感心したように「上手」という。「キマリさん、変な作業は得意ですよね」と結月。「変じゃないでしょ~?」 そういえば、OPのサングラスを上下に動かすおふざけも、キマリだけ妙に速い。
日向「これが衛星から見えるんですか?」
「そう、位置を特定するのに使うの、けっこうちゃんと映るのよ」と信恵。キマリが「ふん!」とポーズを決めて天を見上げ、結月が「今じゃないですよ」とつっこむ。このやり取りに触発されたか、信恵がここで「ユウくんモード」に入り、天に向かってユウくんの名を叫ぶ。
そんなミニコントをよそに、埋め込まれた円形のプレートを撫でて、「こんな所にも印はあって、誰かが見てるんだな」とつぶやく日向。報瀬がぐっと息をのむので「他意はないぞ」と念を押す。ひとりで荒れていたところを陰で報瀬が見ていた一件をいってるのである。
「暗喩」ってのは隠喩ともいうが、隠れてるから暗喩なのであり、露骨に出れば「皮肉」になってしまうこともある。
シーンチェンジして、水辺に張られた二つのテント。時刻は夜に向かっている。
一方のテントの中の4人。気温はどんどん下がっているが、キマリは相変わらずのハイテンション。「次お湯わいたら卵焼きにするね~」。卵焼きが大好物なのだ。フライパンらしき物は画面に見えぬので、ゆで卵じゃないんだ……どうやって焼くんだろう……と初見のとき思った。これは未だにわからない。まあ鍋の底でってことか。
日向もにこにこしている。報瀬ひとりが張り詰めた顔。正直ちょっと目が据わっててコワい。
そして言う。
「日向、水汲みに行くから付き合って」
おう、と立ち上がる日向。「あ、さっき使っちゃった? ごめーん」とキマリも立ち上がる。結月がその袖を捉え、「キマリさん」といって首を振る。
今話のキマリはとことん空気が読めない。日向に「いいから忘れろ」といわれて「うん、わかった。忘れる」と本当に忘れちゃったもんで、報瀬がしつように拘ってるのも視えないのだ。つくづく「闇」が視えない人なのである。
「世界で(地上で)いちばん綺麗な水」のほとりへと歩いていく2人。それは「澱んだ水」の対極にあるものだ。思えばあの旅立ちの朝、キマリとめぐっちゃんも、清冽な水の傍らで対峙していたものだった。

うわー。風あったらマジでやばい。軽く死ねますね(結月の真似。似てない、というか似せようともしてない。でも笑える)

私さ、ずっと考えてた。日向と同じだったらどう思うだろうって

ひどい目にあわされて。でもある日何事もなかったのように連絡してきて。もう取り返しはつかないのに謝ってきたりして

平気でいられるわけない。笑ってなんかいられない
あのなあ……

報瀬は私じゃないだろう

そうだけど……そうだけど

報瀬。手袋をとれ

貸せ(また教官調)

パサッ

手だけでいい。報瀬よけいなことばっか言ってうるさいから

ありがとう。ごめんな。私、たぶんまだ怖いんだよ

日向……
怖いんだよ……

でも、私たちは、

ピシ

手だけでいいって言ってるだろ




連れてきてくれてありがとう……

卵焼きできたよー

行くぞ


このとき日向がデコピンで阻んで言わせなかった「でも、私たちは、」につづく言葉を、この次のクライマックス・パートにおいて、報瀬はもっとも鮮烈なかたちで口にすることになる。