栄光イレブン会

栄光学園11期卒業生の親睦・連絡・活動記録

ブログ開設:2011年8月23日

きよちゃんのエッセイ (126) ”禅寺丸”(Okubo_Kiyokuni)

2020年09月12日 | ◆お知らせ・行事案内

禅寺丸

禅師丸との出会いは散歩の途中の立ち話から始まった。王禅寺からの帰り道、いつものコースを外れ、遠回りしてゆくと、梨畑の前に出てきた。同年輩と思しき小柄の老人が枝の誘引作業をしている姿が目に入る。

ここからは、いつもの立ち話のパターンである。その若木は何年目なの?このごろ、老木を切り倒して若木に植え替える農家が多いよね

すると、聞きかじりの知識だけの爺さんに何の違和感も抱かずにこれで二年目、ここに持ってくるまでに、二年寝かしておいたから、再来年ぐらいかなー実がつくのは、でも、売り物になるまでもう少しかかるかねー

ここで、かねがね気になっていた質問をぶつけてみた、あのさ~、この近くの王禅寺の、禅寺丸を植えている畑、この辺にあるのかなあ~。エー、あれ美味しくないよー、でも、アンタ好きなノー

ーはいーちょっと食べてみたいんですー

=あんたどこの人、と真顔になってきた、これは肝心な話をする前の決まり文句、こちらの身元が確認されれば、次の情報が飛び出してくる、今回もこの流れになってきた。

=禅寺丸、下麻生住宅で販売するよ、23日の勤労感謝の日に、地元限定の極秘情報を明かしてくれた、見ず知らずの爺さんに、嬉しい限り、

―ありがとう、行って見る、と目を輝かせて挨拶し終わり、歩き出そうとすると、こちらの本気度が伝わったのかもしれない、更なる貴重な情報が後から飛んできた。

=ハーブガーデン、ららら、10時、

ー下麻生、ららら、23日、10時ー、と口の中でなんども繰り返しながら帰宅する。

風は冷たいが、空は青くすみわたり、低く射しこむ朝の陽光に目を細めながら鶴見川の土手道を歩いてゆく。尻手黒川道路を渡ると前方に見覚えのある建物が見えてきた。だが、人の気配はなく十一時開店と張り紙がある。確か10時と聞いたよなあ~、と自信を失いかけているところに、軽トラックが道をふさぐように近づいてきた。あの老人が乗っている。車から降りてくるなり、黙って荷台のシートをめくった。ビニール袋に詰めた小さな柿が並んでいる。二袋ほど手に取った老人は、ーいくつ持ってゆく? と、なんだか懐かしそうな顔で声をかけてきた。自分で育てていたのだが、品数が少ないゆえ、開店前に内緒で分けてくれるつもりだったのだろう。

日本最古の甘柿といわれる禅寺丸。小ぶりで、見栄えの悪いゴマが入った褐色の果肉だが、コリコリとかじっているうちに、ざらざらとした食感の中に素朴な甘さがにじみ出る。舌で転がしていくと、柿の背負ってきた歴史の香りが口の中にそっと広がってきたような気がした。

 

コメント
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