栄光イレブン会

栄光学園11期卒業生の親睦・連絡・活動記録

ブログ開設:2011年8月23日

きよちゃんのエッセイ (93)”くじ引き”(Okubo_Kiyokuni)

2018年06月11日 | 大久保(清)

くじ引き

  ―一等賞でーす、おめでとーございまーすー

赤いサンタクロースの帽子をかぶったお姉さんが、カランカランと鐘を鳴らしながら、大声で叫んでいる。スーパーのレシートで空くじなしの金券がもらえるために福引所の前に買い物を終えたお客さんの列ができていた。一等賞が千円で50本、二等賞が五百円、三等賞が三百円、ハズレが百円。福引は、引く者も、それを見ている者も、なんとなくワクワクしてくる祭りのような気分を味あわせてくれる、大人になってもなぜか童心に帰らされる楽しい光景だ。

 小さなビニール袋を肘にぶらさげたお婆ちゃんは抽選箱から幸運を引きあてて本当にもらっていいのかねーと、しきりにお姉さんに愛想笑いをしつつ、千円の金券を胸の前で押しいただくようにして、照れくさそうに周りの人たちにも目で挨拶しながら立ち去っていった。一等賞の千円で明日の買い物で一寸だけ贅沢してみようかな、いつも素通りしていたあの品物をクリスマスに買えるかな、とお婆ちゃんにとって、きっと楽しい一日になるはずだ。この様子を見ながらホカホカした気分になっていたのだが・・・突然、セコイ考えが頭に浮かんできた。

 一枚のレシートで一回だけのくじ引のようだ。レシートに福引の女性がスタンプを押してからくじを引いている。長い帯のようなレシートを手にする人も、少額の短いレシートの人も一回しか抽選ができない仕組みらしい。デパートなどのくじ引きでは高額の買い物をしたお客様にはお買い上げ金額に応じて何度もくじ引きができるのに・・・

ご夫婦での買い物客は、どちらかが列の外で成り行きを見守っている。夫婦で二回、抽選できる人も大勢いるはずなのに・・このけち臭い考えが、どうも小さな脳ミソの網に引っかかってしまったらしい。

だが、しばし行列客を眺め続けていると、少しずつ網のほつれがとれてきた。今様の人たちは、おそらく、この金額では、時間をかけて、わざわざレジに二回も並ばないのだろう。百円の価値はその程度のものかもしれない。歳末の忙しい時期に、今年の運を一寸占うような雰囲気が味わえれば、それで十分なのかもしれない。

 二等賞、三等賞もかなり出ているようだ、思いのほかに頻繁に鳴り響く鐘の音に引き寄せられる周囲の客からの熱い視線を浴びながら、幸せ者の対応はそれぞれ特徴があった。顏色一つ変えずに淡々と金券を財布にしまうもの、父ちゃんに向かって、やったわよーと金券をつかんで、手を振りふり帰ってゆくお母ちゃん、五百円でも大金だよなーとほくそえむおじいちゃん・・・、みな、忙しい年の瀬の空気を楽しんでいる。

抽選箱から引き出して開いたくじをのぞく、その一瞬の神妙な表情を見続けていると、買い物客に一時の小さなスリルを体験させ、おかずの一品でも買える補助券のサービス企画はなかなかのアイデア物だよなー、と、ケチな頭がいつもの祭りの気分に戻ってきた。

コメント
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