栄光イレブン会

栄光学園11期卒業生の親睦・連絡・活動記録

ブログ開設:2011年8月23日

きよちゃんのエッセイ (17) ”担々麺”  (Okubo_Kiyokuni)

2014年11月23日 | 大久保(清)

坦々麺

 

今日は息子が入院中に夢にまで見ていた中華飯店に行く日である。その店の駅までは私鉄を乗り継ぎ十駅ほどだ。食べる前に少しからだを動かそうと、二駅手前で下車し朝の散歩が始まった。コンクリートジャングルという言葉も使えそうな人工構造物があたりを占拠し、冬の寒空の下、冷たい風が吹き抜けていく高架のガード沿いの歩行は味気がない。途中、広い通りを何度も渡るが、周囲はよく整備されているわりに人影は疎らで何処か殺風景な印象を受ける。

 単調な歩きを続けていくと、前方に緑の木立が見えてきた。父の散歩ルートを気にかけて土地勘のある息子が道中に選択してくれた自然公園である。舗装された緩い坂を登っていくと枯葉が敷きつめた遊歩道にでる。歩道に沿って誘引された小川の底にも枯葉が沈み、その上を冷たそうに水がチョロチョロと流れていく。    

坂の上につくと、公園の陽だまりで家族連れが遊んでいる。この光景は、昔、息子と一緒に経験したような気もする。ボール投げに、親子の追いかけっこ。我々の街の公園と違い、これからの若い世代の街のように見える。

 駅前を通り過ぎ、ガード沿いに少し歩くと目指す中華飯店が見えてきた。店先に立てかけた写真付メニューが美味そうなニオイを店の外まで漂わせている。中に入っていくと、間口は狭いが奥行きがあり、男たちが厨房で忙しそうに鍋をさばいているのが目に入る。中華街で体験した食堂のような空気が漂う。入り口に近い席に腰をおろし、店内の様子を観察していると、メニューを手にした小柄なお姉さんが近づいてきた。

 店に入ったときに決めておいた坦々麺を注文すると、――辛イヨ、細メンと太メン、どっちかーと姉さんがすかさず問うてきた。このぶっきらぼうな中国風のアクセントが美味しさを予感させた。味噌の風味は絶品、ひき肉もたっぷりあり、おたまで掬っても手ごたえ十分である。少し注文をつければもう少し熱々で舌を焼くぐらいでもいいかもしれないが、老人向けの熱さに調節してくれたのだろうか。

 息子の注文はきくらげの卵餡かけと青梗菜の炒め物の二品。――量多いよ、タイジョウブカーと言っていた通り、皿一杯にたっぷりあるが、味付けも良いのだろう、最後に残った炒め汁にご飯をまぶして舐めるように平ら上げてしまった。この姿を眺め、息子の満足感がひしひしと胸に伝わり、今日の長距離散歩は大成功と安堵する。美味しい料理を楽しめることは、生きている最大の楽しみの一つだろう。帰りの電車に揺られながら、また一緒に食べに来たいねと、言葉を交わしながら家路についた。

 

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