すべてスマホで撮影されたリアル過ぎる記録。
*************************************
「ミッドナイト・トラベラー」72点★★★★
*************************************
2015年、本作の監督であるハッサン・ファジリは
タリバンから死刑宣告を受ける。
監督が制作したアフガニスタンのドキュメンタリーが
「気に入らない」というのがその理由。
彼らは、すでに映画に出演した男性を殺害していた。
身の危険を感じた監督は
同じく映像作家である妻ナルギスと、幼い二人の娘を連れて
ヨーロッパを目指すことを決意する。
その行程すべてを、スマホで記録したものが本作です。
試写を観たときはまだ
タリバン復権の前だったのですが
いま、こんな状況になり
ニュースを観ながら、この映画をヒリヒリと思い出しました。
ただ、本作は「恐怖一辺倒」ではないんです。
家族4人の逃避行は、たしかに過酷なのだけど
しかし
写る日常には、どこかあたたかみすらあり
そこが沁みるんです。
たとえば、ぎゅうぎゅうで入れない避難所の狭い廊下でも
奧さんは段ボールで寝床をしつらえ、娘たちを寝かしつける。
殺風景な収容所でも
食事をし、洗濯をし、なんとか「暮らそう」と苦心する。
いつも明るく、なにかと楽しみを見つける長女や
愛くるしい次女の姿もほほえましくて
どんな状況でも、人は「営み」を作っていこうとする生きものなのだと
映画を観ると感じるのです。
だからこそ、彼らの陥っている苦境が
ことさらに、辛い。
いつも明るい長女が、たまさかに涙するシーンが辛い。
それに彼らはアフガニスタンに帰されたら
間違いなく殺されるというのに
どの国でも、難民申請が全然、通らないんです。
そして一家は
タジキスタン→アフガニスタン→トルコ→ブルガリア→セルビア、と
移動と放浪を余儀なくされる。
奇しくも彼らの旅路は
周辺諸国の空気や、それぞれの対応を映し出す
貴重な記録になっていて
なかでも衝撃だったのがブルガリア。
道路を歩いているだけで「難民、出て行け!」と
ナショナリストから攻撃を受けたりするんですよ。
えー、、牧歌的で中立なイメージだったのに・・・(勝手に)
それをする側にも、社会不安がある故なのだろうとは思うけど
ちょっとショックだった。
加えて考えさせられたのが
奧さんが、同じ映像作家である、という点。
監督は、撮影することを「仕事」と考え、
気を保っていたのだと思うけど
奧さんは、どうしても家事や日々のことで手一杯になってしまう。
そのことに苛立ちを募らせる様子も
とても苦しかった。
正直にいうと、共同監督、で奧さんの名ナルギス・ファジリを
出してあげたらよかったのに、と思う。
奧さんが撮ってる映像もかなりあったと思うんですよね。
そして補足。
スマホ映像といっても、予想よりも画面は安定していました。
ただ夢中になるだけに、ワシのように映像酔いする向きは
少々ご注意を。
映画館では少し遠い席からの鑑賞をおすすめします。
★9/11(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。