「サラエボの花」(06年)「サラエボ、希望の街角」(10年)の
ヤスミラ・ジュバニッチ監督の新作です。
「アイダよ、何処へ?」72点★★★★
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1992年に勃発したボスニア・ヘルツェゴヴィナ紛争。
セルビア人勢力に包囲されたボスニアの町・スレブレニツァは
国連によって、攻撃してはならない「安全地帯」とされ
国際保護軍のオランダ軍も派遣されていた。
だが、1995年7月。
スレブレニツァを包囲した
セルビア人勢力のトップ、ラトコ・ムラディッチ将軍は
市長以下、住民もあっさり「殺れ」と命令を下す。
命の危機に、2万人を超える市民が
国連の施設に押し寄せてきた。
現場は国連本部に応援を頼むが
全然話は進まず、助けがこない。
国連の通訳として働くアイダ(ヤスナ・ジュリチッチ)は
市民たちを助けるべく奔走しながらも
夫や二人の息子が心配でならない。
そんななかセルビア軍が
「バスで市民を移送する」と言い出し――?!
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これまでも一貫してボスニア紛争の悲劇を描いてきた
ヤスミラ監督の最新作。
ボスニア紛争末期の1995年7月、
約8000人ものボシュニャク人(イスラム教徒)が、敵対するセルビア人勢力に殺害された
「スレブレニツァの虐殺」を
そのただ中にいる女性アイダの視線で描き
極限の状況がスリリングにサスペンスフルに描写され
高い評価を受けています。
まず1995年って、ホントに、つい最近ですよ?っていうのがショック。
ボスニア紛争については、少しはかじってきたつもりでしたが
この虐殺については知らなかった。
しかも
その場所には国連によって「安全地帯」が作られ
国連保護軍であるオランダ軍も駐留していた。
なのに
助けてくれると思った国連がまったくダメ――というこの絶望感。
そして、こんな惨劇が起きていたなんて――
町が包囲され
恐怖のあまり、国連施設に逃げてくる市民たち。
しかし、あまりの多さにまず施設には入りきれない。
現場は国連本部に援軍や物資補給を頼むのだけど、
どうにもまったくスムーズにいかない――という
もうギシギシと歯ぎしりしたくなる苛立ちと
恐怖のただなかに、身を置かれる。
そのなかで
国連の通訳として、懸命に住民を助け、働いていたアイダ。
そんな彼女が、ヤバくなっていく状況で
「せめて、自分の家族だけでも・・・・・・」と次第に利己的になっていく。
裏の手で夫と二人の息子を施設に招き入れ、
なんとか"特権”で彼らを逃がそうとする。
決して「ヒーロー」だけではない彼女の行動に
実際、複雑な気分にもなるんです。
が、しかし
いや、そうならざるを得ない状況こそがおかしいのであって。
そんなアイダの生身の人間っぷりこそが
常識を逸した現実を、その理不尽を写しているんだと。
そして
他国が他国を助けようとしても
こうもうまく機能するのが難しいのか・・・・・・と
その状況をリアルに知らしめたことも、本作の大きな意義だと思います。
国連施設に押し寄せる市民たちの姿は
まさにいまタリバン復権下のアフガニスタンで
空港に押し寄せた人々にも重なってつらい。
轍を踏まず、国際社会がうまく機能するすべはないのか?
重い問いが残るのでありました。
★9/17(金)からBunkamura ル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。