ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

おらおらでひとりいぐも

2020-11-07 14:21:06 | あ行

まず、冒頭にぶっ飛ぶと思います(笑)

 

「おらおらでひとりいぐも」70点★★★☆

 

*********************************

 

75歳の桃子さん(田中裕子)は

夫に先立たれ、一人暮らし。

 

毎朝、寝床から出て、朝ご飯を食べ、

TVに独り言を言い、病院に行けば長時間待たされ、

図書館で趣味の本を読み、黙々と勉強する。

 

そんな毎日の繰り返しのなかで

桃子さんの「心の声」が

目の前に現れて――?!

 

*********************************

 

「キツツキと雨」(12年。これ名作!)「モリのいる場所」(18年)などで知られる

沖田修一監督が

芥川賞受賞の同名小説を映画化。

 

夫に先立たれた75歳・桃子さんの

日常を描くもの――と思うと

冒頭にぶっ飛ぶと思います。

え?宇宙の神秘?NHKスペシャル?みたいにはじまるから(笑)

 

中身も、基本は桃子さんの毎日なのですが

そこに原作にもある

桃子さんの心の声を、擬人化し(濱田岳×青木崇高×宮藤官九郎の3氏が担当)

さらに回想シーンとして、

蒼井優さん演じる若き日の桃子さんの場面がはさまる、という。

 

かなりファンタジー色がつよく

「モリのいる場所」の、あのラストの不思議さをずっと見ている感じもあり

ワシとしては

たとえフツー過ぎても、桃子さん(=田中裕子さん)の毎日を追うだけでもよかったかな、と思いましたが

そこは好みでしょうね。

 

だって桃子さんのフツーの日々を見ているだけで

十分、満足で楽しいんだもの。

 

沖田映画は、いつもながら美術がしっかりしていて

決してオシャレだったりしない

フツーの郊外の一市民の暮らしぶり、

家の細々した小道具を見ているだけで、なんとも心ほぐれるし

 

飯島奈美さんによるフツーの目玉焼きやお弁当も

めっちゃくちゃおいしそう。

 

そんななかで、一人生きる桃子さんをみていると

一日、一日を

淡々と積み重ねていくことの滋養を

しみじみと感じるのです。

 

自分もこんなふうに、一人でもきちんと生きたい

(部屋も片付けて!)と思うし、

離れて暮らす老親たちのことも考える。

特に、「息子と思ってください!」的に車のセールスをする青年との

やりとりにね

ほのぼのしてるんだけど、

ちょぴっと心がキシッときしんだのでした。

――今日も、親に電話しとくか。

 

★11/6(金)から全国で公開。

「おらおらでひとりいぐも」公式サイト

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

PLAY 25年分のラストシーン

2020-11-06 00:16:21 | は行

すごくよく出来てる。

できれば予備知識ナシでどうぞ!かなり笑ったし(笑)

 

「PLAY 25年分のラストシーン」77点★★★★

 

********************************

 

1993年、パリ。

13歳のマックスは

誕生日に両親からビデオカメラを贈られる。

 

うほー!と大喜びのマックスは

カメラで家族や幼なじみの友人たちを撮り始める。

 

自主映画もどきを作ってみたり、

サッカーのw杯に熱狂したり、

ただの幼なじみだったエマが

ちょっと気になる存在になったり――。

 

そんな青春の日々をマックスはホームビデオに記録し続けてきた。

 

そして、2018年。

38歳になったマックスは、いろいろとイマイチな状況にある。

 

そんななか、彼は

撮りためたビデオを1本の作品にしようと思い立つ。

 

25年分の映像を改めて見直したマックスは

そこに映っていたかけがえのないものに気づくのだが――。

 

********************************

 

できれば予備知識ナシでどうぞ!

と言いつつ、書かなあかんので(笑)

以下はご注意のもとお読みくださいませ。

 

 

 

1979年生まれのアントニー・マルシアーノ監督が

主人公マックスを演じた盟友にして俳優兼コメディアンである

同い年のマックス・ブーブリルと

共同脚本で作った作品。

 

 

ホントに25年分撮りためたドキュメンタリーかと

最後まで信じて観てました(笑)。

 

 

まあ出来過ぎとは思う部分は多少あったけど

しかし、それほどにホームビデオ感がリアルだったんですよねー。

 

90年代に青春を送った主人公の

思春期のドタバタ、仲間たちとのバカ騒ぎ、

いつまでも仲の良い男女4人組のキラキラな青春の日々――。

 

ノイズありまくり、ホームビデオ感ありありの映像を緻密に作り上げ、

当時のカルチャーもリアルに取り入れられ

10代、20代、30代を演じる俳優たちも

そっくり!

すべてが「ホントだよね」と思わせるんですよ。

 

主人公マックスの笑いも、けっこうセンスいいし。

(ちょっと大泉洋氏っぽいっていうか。笑)

 

 

作られたものだ、と知って「だまされた!」感もなくはないけど

それでも「おもしろかった!」が勝るのは

徹底した再現と

これをやることの意味と意義を

作り手が強く共有しているからだと思う。

 

監督と主演のマックスは同い年で

2013年にも共作をしている

ホンモノの同志であり、バディなんですよね。

 

だから彼らにとって、これは本気で

「俺たちの25年、こんなだったかもしれない」で

だから、そこにフェイク感がないんです。

 

緻密なフィクションが、現実のほうへオーバーラップしていく

とても面白い感覚を味わえる映画なのでした。

 

★11/6(金)から新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国で公開。

「PLAY 25年分のラストシーン」公式サイト

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

トルーマン・カポーティ 真実のテープ

2020-11-03 19:25:52 | た行

おこがましくもこの小柄な天才を

ギュッ、としたくなってしまった。

 

**********************************

 

「トルーマン・カポーティ 真実のテープ」73点★★★★

 

**********************************

 

「ティファニーで朝食を」「冷血」などで知られる

20世紀を代表する文豪、トルーマン・カポーティ。

 

フィリップ・シーモア・ホフマンの

「カポーティ」(06年)っていう作品もありましたが

 

背が低く、独特な声、そしてゲイ。

コンプレックスになりそうな要素を多く持ちながらも

そんなことを物ともせず

文壇の寵児となり、社交界を牛耳った。

 

いっぽうで辛辣な物言いで

「一度会ったら二度と会いたくない」――などとも言われた彼が

実際、どんな人物だったのか?――を

追ったドキュメンタリーです。

 

彼の伝記をまとめたジョージ・プリンプトンのテープをもとに

オバマ元大統領の秘書という異色の経歴を持つ監督が、

さらにさまざまな証言者にインタビューし

実に手際よく、うまくまとめられています。

 

 

カポーティの原動力にもなった幼少期の複雑な家庭環境、

そして19歳で美少年キャラとしてデビューしたころ

(ほんとうに可愛らしい!

 

その後、

「ティファニーで朝食を」の成功、そして

CBS会長や鉄道王などホンモノのセレブである夫人たちとの

パーティー三昧のキラキラライフ――

 

このへんの彼は、間違いなく絶頂期にあるんだろうけど

どう見ても空虚に見えて仕方ない。

 

特に1968年、プラザホテルのボールルームで

世界中のセレブ540人を招待して開かれたという

伝説のパーティーシーンを

とてつもなく、むなしく感じてしまったのですが

 

そしたらですね

出席者の一人だったキャンディス・バーゲンが、

その後のインタビューですごくいいことを言ってるんですよ。

「ベトナム戦争中だったし『罪の意識を持つべきだ』という空気はあった」

――ああ、良識ある人は、やっぱりいたのだ!って。

 

で、その後、カポーティは

社交界の内幕を暴露する本を書き始め――

そこからもまあ、いろいろあるので

ぜひ、映画をご覧いただきたいですが

 

波瀾万丈の人生!なのはたしかなのですが

それよりも

その生い立ちや、彼の養女の存在、ふとした優しさを知る証言に

知らなかった文豪の素顔がすごく自然に立ち現れてくるのが

とてもよかったんですよね。

 

最後には不思議なほどに

切なくやさしい気持ちが残るのでありました。

 

そして今回はオバマ元大統領秘書にして

あのバイデン氏の素顔も知る

イーブス・バーノー監督(40)にインタビューをしております。

近々、AERA.dotのオリジナル記事として掲載されると思いますので

こちらもお楽しみに~

 

★11/6(金)からBunkamura ル・シネマほか全国で公開。

「トルーマン・カポーティ 真実のテープ」公式サイト

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする