ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

テイク・シェルター

2012-03-24 16:27:59 | た行

けっこうコワおもしろいす。

「テイク・シェルター」73点★★★★


米の田舎町。

工事現場で働くカーティス(マイケル・シャノン)は
恐ろしい大災害の夢を見るようになる。

夢は現実のようにリアルで
重い雲がたれ込め、雷鳴が轟き、鳥たちが逃げてゆく。
しかし誰にもその兆候は見えない――。

カーティスは妻(ジェシカ・チャスティン)と
耳の不自由な愛娘を守るべく
避難用のシェルターを作り始める。

彼の不安は妄想なのか?それとも――?


第64回カンヌ国際映画祭で絶賛された心理スリラーです。

こういう話は
主人公が精神病なのか、あるいは神の啓示なのか?っていうところが
ミソなんですが

まずうまいな、と思ったのが
この映画では主人公がおおよそ精神疾患であろうと、
かなりはっきり表明しちゃってること。


彼には妄想型総合失調症の母親がいて、
彼自身も「自分にも遺伝しているかも」と自覚していて
自分から病院に行くんですね。

しかしそこで彼がなかなか
ちゃんとした医師に巡り会えなかったり
(なんせ田舎町なんで)

大勢の人の前で「みんな逃げないと!」と叫んで
ひかれていく様など

田舎町の閉鎖的な集団心理とか、主人公の苦しみの切実さとか
SF系の終末モノとはまた違う
“怖さ”や“不安”がよく描かれている。

スティーブン・キング系の怖さですね。

クリアな映像が、余計に不気味さと不穏を増幅するしね。


そしてそれでもやっぱり最後まで
彼が精神病なのか、それとも本当に終末を予知したのか
わからないんですよ。

さあ、どうなるでしょうねー。


★3/24(土)から新宿バルト9、銀座テアトルシネマほか全国で公開。

「テイク・シェルター」公式サイト
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マリリン7日間の恋

2012-03-21 18:03:13 | ま行

モンローのふわふわと甘い芳香が
確かに漂ってきました。

「マリリン7日間の恋」72点★★★★


番長のお気に入りミシェル・ウィリアムズが
マリリン・モンローに扮する映画です。


1956年、イギリス。

映画界に憧れる23歳の青年コリン(エディ・レッドメイン)は
なんとか助監督の職にありつく。

その映画とはマリリン・モンロー(ミシェル・ウィリアムズ)主演の
「王子と踊り子」。

そしてマリリンが撮影のため、
イギリスにやってくるというのだ!

コリンは彼女のためにゲストハウスを用意し、
緊張の面持ちでマリリンの到着を待つ。

現れた彼女は、スクリーンそのままに
愛らしく美しい女性だった。

だが、次第にコリンは
彼女の知られざる素顔に触れることになり――。


マリリン・モンローと、新米映画スタッフの
ほのか“すぎる”恋を描いた
実話に基づく話。


彼女とのロマンスうんぬん、というよりも
この有名な人物を、改めてきちんと造型し、
彼女がどんな人物だったかを詳細に描き出したのがいい。

3時間の遅刻は当たり前、セリフは飛び
すぐに現場を逃げ出してしまう。

そんな甘ったれでダメ女優のような彼女が、
いったん銀幕に写ると魔法のように輝き、人を惹き付けるさまが
うまく表現されていました。


ローレンス・オリビエ役ケネス・ブラナーが言う
「彼女の才は“天性”のもの。だからこそ本人は不幸だ」の言葉に
観客だれもがうなずくはずです。

生い立ちからくる薄幸さ、精神面の危うさも含めて、
彼女は生まれながらのスターだったのだ、とつくづく。


ミシェル・ウィリアムズが見事に役を消化しており
ふわふわと漂うマリリンの甘い芳香を
確かに感じました。


ハリポタを卒業したエマ・ワトソンも登場します。


★3/24(土)から角川シネマ有楽町ほか全国で公開。

「マリリン7日間の恋」公式サイト
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僕達急行 -A列車で行こう-

2012-03-18 23:28:39 | あ行

最近の森田作品はどうも苦手続きだったんですが
久々にこれはおもしろかった!


「僕たち急行 -A列車で行こう-」75点★★★★

森田芳光監督の遺作となった作品。
本当に早すぎました。


大企業で働く小町(こまち、松山ケンイチ)は
大の鉄道好き。

あるとき小町は同じく鉄道好きの
コダマ鉄工所の二代目小玉(こだま、瑛太)と出会い
意気投合する。

“鉄”ながら、そつなく会社勤めをこなし
そこそこモテる小町に対し
小玉は女性との出会いもゼロな超オクテ。

個性はあれど仲良く“鉄”道をひた走っていた二人だが
小町に九州転勤の辞令が下りて……?!


森田芳光映画には
独特の芝居がかったセリフや、会話の間とテンポ、
「カクッ」とはずしてくるビミョーなリズムがありまして

最近の作品ではどうも合わなくて
ダメだったんですが
この作品はそのビミョーな間合いが、うまく作用していました。


とことん明るく朗らかな雰囲気と、快活さがあり
音楽も軽快。

鉄道というモチーフも、愛や友情も
どこか古風で“昭和”を感じさせていい。


監督自身がかなり“鉄”で
この企画は数十年越しで温めていたそう。
作り手の素直な楽しさが
こちらにも伝わってくるんでしょうね。


ま、番長、ゆるーい“鉄”なんで
単純にグッドポジションで撮影された列車ショットや
「おお、これがかのHOゲージ模型……!」などなど
趣味的に相当楽しかった(笑)


「九州転勤?」って聞いて、松ケン以上に喜んじゃったもん。
「はやとの風」乗りて~~!九州新幹線「さくら」も乗りてえ~~~

急逝が惜しまれますが
マジでいい作品が最後で素晴らしいね!監督!
どうぞ安らかに。


★3/24(土)から全国で公開

「僕達急行 -A列車で行こう-」公式サイト
コメント (2)
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青い塩

2012-03-16 23:31:15 | あ行

バイオレンスにも人間味を吹き込む
究極のおやじ、ソン・ガンホ。

好きやー。

「青い塩」73点★★★★


韓国・プサン。

主人公のドゥホン(ソン・ガンホ)は
料理教室に通っているごくフツーのおやじ。

彼は教室で、無愛想な女の子セビン(シン・セギョン)に出会う。

二人は少しずつ打ち解けていくが、
実はセビンには別の目的があった。

彼女は元ヤクザの幹部であるドゥホンの命を
狙うよう命じられていたのだ――。


久々に好きな韓国映画でした。

おじさんと少女の邂逅、という
ネタは定番なんだけど、

ゴリゴリのバイオレンスだけではなく
ソン・ガンホがおどけた調子で、映画をなごませてくれるというか

裏社会のバイオレンスな陰と、ソン・ガンホのチャーミングな陽が
みたことのない混じり合いをしていて面白かった。


キャラメルマキアートをズルズルすする
ガンホのほどよいお茶目っぷりと、
クールな少女戦士という
アニメのようなキャラ設定がうまく相乗し

父娘ほども離れた男女の
プラトニックな“愛”をうまく表現してる。

この成功は
ソン・ガンホのキャラに追うところも大きいけど、
影ある“暗殺者”少女を演じるシン・セギョンも
ナイスでした。


監督は「イルマーレ」(00年)のイ・ヒョンス。


その映像や音楽には
どこかヨーロッパ的というか
洗練された美しさがあり、

ファーストシーンの塩田も美しかった。

iPhoneやスタバ(風カフェ)、ワインが
韓国映画の重要な小道具になっているのも、なかなか興味深かったですね。

あと
ソン・ガンホ以外の男性キャラが
みーんないかにも“韓流!”といった感じの
イケメンなのも
いい作為が感じられておもしろかった。

そのなかでも、やっぱガンホが断然いいんだよナ~。

★3/17(土)から丸の内TOEIほか全国で公開。

「青い塩」公式サイト
コメント (3)
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長ぐつをはいたネコ 3D

2012-03-14 23:48:37 | な行

ネコ好きさん、いらっしゃ~い。

「長ぐつをはいたネコ 3D」50点★★★

「シュレック」の人気キャラが主役になって大活躍する
3Dアニメーションです。


長ぐつをはいたネコこと“プス”
(声・アントニオ・バンデラス&竹中直人)は
ワイルドなお尋ね者。

腕っぷしと必殺“ウルウル光線”で
さまざまな修羅場を渡り歩いている。

しかし彼がお尋ね者になったのには
ある理由があった――。

という、ネコが主役のファミリームービー。

映像は「シュレック」時代よりレベルアップし、
特にネコの毛なみのもふもふ具合が
たまらないことになっております。

うっわー、顔うずめてえ!(笑)

しかも黒目もよりウルウルに、
おっきくなってないか?

ってな具合で
たまらなくかわいらしいんですが、

しかし話はつまらなかった。

まあ普通にそつのないお話ではあるんですが、

最初の「シュレック」のような
アンチおとぎ話、
アンチ正統派、
アンチ○ィズニーのような
作り手の精神性が感じられないのは寂しい。

ほどよくまとまったいい話程度で
あとは映像が勝負、ではどうしようもないんですよねー。


話の薄さに比べ、
延々と終わらないスタッフ名の羅列にげんなりしてしまった。

そもそも
今年のアカデミー賞長編アニメーション賞を獲った「ランゴ」だって
まあおもしろくはあったけど
オスカーレベルかというと、かなり疑問であり。

いまハリウッドアニメーションは
けっこう冬の時代かもしれない。

★3/17(土)から全国で公開。

「長ぐつをはいたネコ 3D」公式サイト
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