ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

存在のない子供たち

2019-07-19 23:50:56 | さ行

これは必見!

 

「存在のない子供たち」81点★★★★

 

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「両親を訴えたい。僕を産んだ罪で」――

12歳のゼイン(ゼイン・アル=ハッジ)は

法廷で、まっすぐにそう話した。

 

中東レバノンの貧民窟で生まれたゼインは

両親が出生届けを出さなかったため

「いないこと」にされている。

学校にも行かず、路上で働かされる彼の唯一の支えは

仲良しの妹サハラ(シドラ・イザーム)の存在だった。

 

が、ある日

両親はまだ11歳のサハラを、

無理矢理アパートの大家と結婚させてしまう。

 

無力感と絶望にさいなまれたゼインは

家を飛び出し、一人で生きていこうとするが――?!

 

*********************************

 

うわ、これはもう・・・・・・

胸がつぶれそうですよ。

 

レバノン・ベイルートの貧民窟で生きる少年の、

ある闘いを描いた作品。

 

出演者全員が、似た境遇にある素人だそうで

そのリアリティはハンパなく

ほとんどドキュメンタリーのよう。

 

そのなかで

主人公の少年ゼインの存在感、

ゴミ溜め世界でも強く気高く生き抜く

その瞳に撃ち抜かれました。

 

 

12歳のゼインは

学校にも行けず、日々路上で働かされている。

 

それだけでも憤怒ものなのに

さらに幼い妹が無理矢理、スケベおやじと結婚させられる。

怒った彼は家を飛び出し、

アフリカ系の難民女性と出会い、彼女の幼い子の子守をして

なんとか生き延びようとするんですが

――そううまくはいかない、という。

 

 

弱者が弱者に手を伸ばし、助け合い、

つかの間の平穏が訪れたかにみえても

それが長続きしない悲しさと、この世の不条理。

それに耐えかねて、ゼインは

「両親を訴える」という行動に出るんです。

 

「親を訴える」というのは一種奇抜なアイデアですが

監督は3年かけて現地の状況をリサーチした末に、この設定を考えたそうで

あながち嘘じゃない、と感じさせるんですよねえ。

 

 

それにこの映画は

悲惨ばっかりでもない。

 

大人相手にもひるまず、ときに機転を聞かせて生きのびるゼインのタフさ、

子どもらしい愛らしさを

ときにユーモアを持って描いてもいて

悲惨にとどまらない「光」を、我々に届けてくれるんです。

 

 

なにより、主人公であるゼインの表情、その存在が

“奇跡”としかいいようがない。

 

そのまっすぐな瞳が、映画をとおして世界の人々の目に映ることで

この子、世界のなにかを変えるかもしれない!と

マジで思わせるほどです。

 

実際、ゼイン役のゼインは

役同様に出生証明書も戸籍ももたないシリア難民の少年。

ゼインが出会い、助けられるアフリカ系の女性ラヒルも

実際に難民で撮影中に不法移民として逮捕されてしまったそう。

(監督が保証人になって保釈されたけどね!)

 

そりゃあ、リアルだよなあ!

 

おなじみ「AERA」連載、いま観るシネマで

ナディーン・ラバキー監督にインタビューさせていただきました。

 

ゼイン少年のこと、そして気になったあのシーンの秘密まで

たくさんお話を伺ってます。

まもなくAERAdot.にもアップされるかと思いますが

 

ぜひ映画と併せてご一読くださいませ~!

 

 

★7/20(土)からシネスイッチ銀座、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。

 

「存在のない子供たち」公式サイト


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