ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

或る終焉

2016-05-26 23:44:11 | あ行

誰もに他人事でない。
強烈に響くテーマです。


「或る終焉」74点★★★★


*********************************


デヴィッド(ティム・ロス)は
終末期の患者のケアをする看護師。

一人一人の患者の最期に、真摯に寄り添おうとする彼は
ときに患者と家族以上の絆を築いていく。

だが彼はある家族から
「患者と親密すぎる」と
セクハラで訴えられてしまい――?!


*********************************

1979年、メキシコ生まれ
「父の秘密」(12年)のミシェル・フランコ監督の新作。


人生の最期に関わる看護師(ティム・ロス)の日々を
静かに見つめる映画です。

重く、シビアなテーマだけど
淡々としていて、暗い気持ちにはならない。
そのことにとても救われます。


それに前作「父の秘密」もそうだったけど
この監督は、観客の想像を自然に引き出し、
それをうまく“裏切る”ことに長けている。

冒頭、主人公(ティム・ロス)が
女性をかいがいしく世話する様子が写されると
「あ、彼の病気の妻なのね」と思う。

しかしそれもフェイクで
彼は彼女の世話をするために雇われた
看護師なのだとわかる。

そうしたシーンを無言で積み重ね、
映画は少しずつヒントを明かしていくんですね。


主人公は
苦しむ患者のうめきを間近に聞き
吐瀉物や汚物を片付ける。

家族の誰も「そこまで出来ない」領域で
彼は患者と深い絆を持ち、疑似家族のようになっていくんです。


見ていると「なんと立派なことだ!」と感心するけれど
彼の行為は必ずしも
本物の家族に「よし」とされない。

ここに正解のない「介護」の難しさが映り、
実に複雑な気分になります。


本作は監督が、自分の祖母の介護を通じて見た
看護師の姿に触発されて作った作品だそう。

結局、人間の「最期のとき」にきちんと立ち会い、
向き合えるのは家族じゃないのだ、と
本作を見ると、つくづく感じます。


そして型どおりの介護ではない
一人一人にマッチした介護を実践しようとする人間は
ときに排除されかねない。

くさか里樹さんの「ヘルプマン!」を思い出し、
「海外のヘルプマンもつらいなぁ」と
感じました。


★5/28(土)からBunkamura ル・シネマほか全国順次公開。

「或る終焉」公式サイト

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« マイケル・ムーアの世界侵略... | トップ | デッドプール »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

あ行」カテゴリの最新記事