ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

海辺の家族たち

2021-05-15 17:12:50 | あ行

「キリマンジャロの雪」(11年)も、素晴らしかったよねえ。

 

「海辺の家族たち」72点★★★★

 

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マルセイユ近郊の港町。

かつては別荘地として栄えたこの土地も

いまでは古くからの住民が残るのみ。

 

そんなさびれた町に、パリからアンジェル(アリアンヌ・アスカリッド)がやってくる。

老父が倒れたと聞き、20年ぶりに故郷を訪れたのだ。

 

いまや人気女優となった彼女は

この町で3人兄妹として育っていた。

 

彼女を迎えたのは

長兄(ジェラール・メイラン)と次兄(ジャン=ピエール・ダルッサン)。  

久し振りの再会を喜ぶ3人だが

兄妹の間はどこかぎこちない。

老父の介護をどうするのか、この家をどうするのか。

これからを考えねばならないなかで、

それぞれが持つ思い、そして哀しい過去があらわになっていく――。

 

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「マルセイユの恋」(96年)「キリマンジャロの雪」(11年)で知られ

市井の人々をみつめるその視線から

フランスのケン・ローチとも言われる

ロベール・ゲディギャン監督の新作です。

 

兄妹の不仲、老父の介護など「あるある」な家族の問題に

難民、という現代の問題を織り込み

いまを、そしてその先を見通す、まなざしがある。

 

舞台となるマルセイユの

どこか切なげに淡く霞んだ陽光が美しく、

彼の作品の常連にして味アリアリの

俳優たちの妙技を楽しめるし

 

特に難民の子らが登場する終盤に

グッと物語が動き、余韻をもらえます。

 

ただ

正直に言うと、そこにたどり着くまでの家族話は

やや「よくある」話にも思えるし

 

なにより登場人物たちが

いまいち好ましくないキャラばかりで(苦笑)

最初は入り込みにくいかもしれない。

まあ、そこも監督の計算なんだと、気づくんですけどね(笑)

 

たとえば

次兄を演じるおひげのジャン=ピエール・ダルッサン、ワシ好きなのに

この役はいかにもな皮肉屋で

差別的発言がいちいちイヤな感じだったり

 

末の妹アンジェルも

事情はありそうだけど、あまりに物憂げすぎるし

さらに

母親ほども離れた彼女に

熱烈なアプローチをする地元の漁師もちょっと怖い・・・(苦笑)

 

でも、そんななかで

父と想い出ある土地を

黙々と、献身的に世話する長兄の尊さが光るし

 

それにですね

それほどに想いも性格もバラバラな兄妹たちが

難民をつかまえようと港を張ってる警備隊に対し

一様に「反抗的な」態度をとったりするんですよ。

 

そこに

ベースにある「家族」ならではの共有、結束もとい結託(?笑)のようなものを感じて

それが、ラストへとつながっていくあたりは

さすがゲディギャン監督、と感じるのでした。

 

変わりゆく時代や世界。

それでも家族は再生する。

どんな形かはわからない。でもきっと再び進み出す。

そんなことを、伝えているのだと思います。

 

★5/14(金)からキノシネマほかで公開。

「海辺の家族たち」公式サイト

※上映状況は公式サイトおよび劇場サイトなどでお確かめください


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