ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

海辺の彼女たち

2021-05-03 00:19:30 | あ行

この現実を、直視せよ。

 

「海辺の彼女たち」71点★★★★

 

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ある夜。

ベトナムから技能実習生として日本にやってきた

フォン(ホアン・フォン)は

同僚のアン(フィン・トゥエ・アン)とニュー(クィン・ニュー)とともに

小さなバッグを持ち、地下鉄に乗り込む。

 

いまの職場で3ヶ月間、

1日15時間、土日もなく働かされ、

十分に寝ることすらできなかった彼女たちは

そこから逃げ出し、

ブローカーを頼って、別の職場へと移ったのだ。

 

そこは雪が降る寒い海辺の港町。

 

だが、少しはマシになったと思った状況は

さして変わらず

それでもフォンたちはブローカーへの借金と、ベトナムの家族への送金のため

働かざるを得ない。

 

そんななかで、フォンが体調を崩してしまう。

 

アンたちはフォンを病院に連れていくが

保険証も在留カードもない彼女らは、受付で門前払にされる。

 

「妊娠してるかもしれない」――

フォンの告白に、アンたちは彼女を気遣いつつも

どうすることもできない――。

 

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ベトナムからやってきた“技能実習生”のリアルを

藤元明緒監督が、実際に出会った彼女たちからのメールをきっかけに

フィクションとして描いた作品です。

 

外国人技能実習生の実態は

コロナ禍でその窮状がよりクローズアップされ、

ニュースにもなっているけど

しかし「じゃあ、なんらかの対応や支援があるのか?」という話は

まったく見えてこない。

 

そんな彼らの状況を

限りなくドキュメンタルに描くことで

訴えと、気づきをうながしてくれます。

 

映画の冒頭、

ベトナムから日本に来た女子3人が

過酷な待遇から逃げ出し、ブローカーの斡旋で別の港町にたどり着く。

しかし

ここでも、さして待遇は変わらないんです。

そんななかで、一人の女子=フォンの妊娠が発覚する。

 

でも、前の職場から逃げ出した彼女は不法滞在者となり、保険証もなく

診療を受けることができない。

彼女を診る日本の医師たちも、状況はわかっている――だろうに

逆に、というか

わかっていても、どうしようもないんでしょうね。

 

尊い命を宿したフォンに

しかし静かに、ゆるゆると迫る絶望。

 

どうしようもなくて

雪道をさまようフォンに、道を行く車上の人々をはじめ、誰も気づくことはない。

安易に助けの手はこないんです。

 

でも、だからこそ

劇的な展開を選ばないところに、非情ながらも、迫るものがある。

 

世界は甘くない。

それでも生きていくしかない。

 

それこそが現実であり、いまを生きる苦しみなのだと

胸に刺さります。

 

こんな世の中で、みな、余裕がなくなっている。

そんなときに、人を思いやることは難しいけど

でも、だからって見て見ぬふりをしていいの?

日本を信じてやってきた外国人たちへ

日本がしている非道から、目をそらしていいの?

 

――いいわけないじゃないですか?

 

まずは日々流れっていってしまうニュースを

こういうかたちで、心に留め置き、考えさせることができる、それこそが

「映画の力」にほかならない。

 

そのうえで、しかと、考えるべき問題であります。

てか、この世の中、考えること大杉!(苦笑)

しんどいけど、でも考えることを、

せめて気づくことを、止めてはダメなんだよね・・・。

 

★5/1(土)からポレポレ東中野ほか全国順次公開。

「海辺の彼女たち」公式サイト


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