「トトとふたりの姉」(14年)の監督、やっぱ間違いない!
*********************************
「コレクティブ 国家の嘘」81点★★★★
*********************************
マイベストな「トトとふたりの姉」の
アレクサンダー・ナナウ監督によるドキュメンタリーです。
この映画、題材もすごいんだけど
やっぱりこの人の「魅せる」ドキュメンタリストとしての才能に感服してしまう。
「観察型」のスタイルで、ナレーションも挟まず
起こる出来事を追うのみなのに
本能、と言えそうな、ある種のエンタメ性とサービス精神で
惹きつける。
そして
真実を探り、告発するだけでなく
その先に起こることまでも追う視点に、
ちょっとレベルが違う――というか、驚きました。
すべてのはじまりは
2015年10月にルーマニア・ブカレストのクラブ「コレクティブ」で起こった火災。
27人が死亡、180人が負傷する大惨事となってしまったのですが
映画はまず遺族の会合から始まり、
そこからバンドのライブ映像に転じる。
最初はわからないのですが、
これ、当日のコレクティブで撮影された映像なんですよ!
まさに火災が起こる瞬間が捉えられていて
「え?」と鳥肌が立つほどショックを受けるのですが
同時に観る人をハマらせる絶妙な作りにも驚くというか。
さらに、この事件がショッキングなのが
火災を生きのびた負傷者たちが4ヶ月以内に37人も
搬送先の病院で亡くなっているんです。
結果、合計64人もの死者を出してしまった。
「いったい、なぜ?」
政府は記者会見を開いて説明をするんだけど
どうも釈然としない。
そこからカメラは、記者会見で鋭い質問を投げかける
スポーツ紙のトロンタン記者の取材を追いはじめます。
「報道が目を光らせなければ、国家は国民を虐げる」。
そう言い放つトロンタン記者がまぶしく
彼の戦友ともいえる女性記者ミレラもカッコいい。
そして
粘り強い調査と、衝撃の内部告発などから
彼らはある驚愕の事実にたどり着くんです。
さすがにやばくなった国が動き、保健相も辞任する。
――と、ここまでもかなり劇的なのですが
しかーし映画は、ここでは終わらない。
カメラはここから新任の若き保健省の大臣へと
視点をスイッチするんです。
疑惑を追及する側から、変革する側へ。
医師出身で誠実そうな彼の働きに希望がともるのですが、だが、しかし・・・・・・という
これまた怒濤の展開になっていきます。
国が、権力者が、自らの利益のために嘘をつき
それに国民が苦しめられる。
この一連の顛末は
あまりに我が国の「沼」に似ていて、やるせない。
正直、最近のニュースはもう聞くのもいやになっちゃうところあるのですが
それでもあきらめてはいけない、と鼓舞された気もするのです。
来週(10/4)発売の「AERA」で
アレクサンダー・ナナウ監督にインタビューをさせていただいてます。
あの映像はどうやって入手したのか?
現在のルーマニアは変化したのか?
監督はこの「沼」な状況に、果たして光を見い出せているのか?
ぜひ、映画とともにご一読くださいませ!
★10/2(土)シアター・イメージフォーラム、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開。