「鉄くず拾いの物語」ダニス・タノヴィッチ監督。
「汚れたミルク/あるセールスマンの告発」70点★★★★
*****************************
1994年、パキスタン。
新婚の青年アヤン(イムラン・ハシュミ)は
やり手のセールスマン。
巨大グローバル企業に転職し
医師に薬を売り込む
セールスマンとして張り切って働いていた。
だがあるとき、アヤンは知り合いの医師から
彼が売っていた粉ミルクで、ある問題が起こっていることを知らされる。
アヤンが目にしたのは
やせ細った体で死んでいく未熟児たちだった。
いったい、何が起こっているのか――?!
責任を感じたアヤンは
真実を調べ、世に知らせようとするが――?!
*****************************
大企業を告発したある男性の
実話をもとにした作品。
冒頭、この映画を撮ろうとする監督やプロデューサーが
アヤンから事情を聞く――というシーンから
ホンモノっぽいんですが
この映画は
ノンフィクションを模したシーンと、再現ドラマを
リアリティを持って混ぜている、という作りです。
ちょっと複雑な構造なんですが
それは扱ってる内容のヤバさ、ゆえだと思う。
大企業を相手にした告発なので、スポンサーが降りてしまい
結局、公開ができず
日本でのこの公開が、世界初となるそうです。
ネスレ社(あ、言っちゃった!笑)の実名はチラッと出るんですが
劇中では「仮名」になってます。
ただ「ザ・告発映画!」という体ではなく
序盤は楽しげですらあったり
事態が動いてからもサスペンスフルな作りで、
かなりエンターテイメントになっている。
さらに、ここがちょっと難しいんですが
刺激的なタイトルだけど
「汚れた」は物理的な意味ではなく
いろんな意味が含まれているってところ。
実際に商品が「汚染されている」のではなく
問題の根っこは、パキスタンなど発展途上国で起っている
貧困層が、粉ミルクを清潔な水で作らない
→乳児が下痢をして栄養不足になってしまう・・・ということなんですね。
あるいは、粉ミルクを薄めて使っちゃうので、栄養不足になったり。
この会社だけでなく、いろんな企業が
同じように粉ミルクを売っているし
なにより、問題の根本にあるのは
製薬会社に賄賂をもらって
「粉ミルクを使いましょう」と妊婦たちを啓蒙している
医療現場の腐った状況なんです。
これは
パキスタンという国だけでなく
世界中に蔓延する問題なのかもしれませんが。
まあ、想像よりいろいろ複雑な映画なんですが
いちサラリーマンが、巨大企業を相手に闘う――というテクストは
素材としてドラマチックだし
さらに「問題がいまも続いている」ということに
ものすごくショックを受ける。
やはり知る手段として
この映画の意味は大きいと思います。
告発した人物の
決して「ヒーロー」な美談ではないシビアな現実も
ピキッと、痛いですね。
★3/4(土)から新宿シネマカリテほか全国順次公開。
「汚れたミルク/あるセールスマンの告発」公式サイト