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ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

人間の値打ち

2016-10-03 23:41:43 | な行

これは見応えあり!


「人間の値打ち」80点★★★★


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クリスマスの夜、
イタリア、ミラノ郊外で一件のひき逃げ事件が起こる。


そして、時間は事件の半年前にさかのぼる。

小さな不動産屋を営むディーノ(ファブリッツィオ・ベンティボリオ)は
その日、富豪ジョヴァンニ(ファブリッツィオ・ジフーニ)の邸宅にいた。

ディーノの娘セレーナ(マティルデ・ジョリ)が
ジョヴァンニの息子(グリエルモ・ピネッリ)と同級生で
恋人同士になったのだ。

これを期に、とばかりに
ディーノはジョヴァンニに接近し、
投資の儲け話に一口乗せてもらおうとする。

そんな父に娘はうんざり顔だ。

そんなディーノは
家を急いで出ようとする
ジョヴァンニの美しい妻カルラ(ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ)と鉢合わせし――?!


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「グレート・ビューティ/追憶のローマ」を制して
イタリア・アカデミー賞7冠に輝いた作品。

なるほど、納得です。


現代イタリアの上流階級と、中流階級の親子との関わりから
ヒタヒタと人間の中身をえぐる
見応えのあるイタリアンドラマ。


娘が上流階級の息子と付き合ったことから、
そこに入り込もうとする
しがない町の不動産屋。

そんな父の俗人っぷりに
敏感に反応し、嫌悪する娘。

そして
何不自由ないはずの上流階級の夫を持つ妻は
(良作に必ず登場する、テデスキ!)
ぼんやり、フワフワと心ここに在らず――。


この三人の登場人物の視点から、
同じ時間の出来事をそれぞれ追っていくんです。

この方法は
こちら側からはAと見えていたものが
こちら側から見るとBだった――という意外性が
ミステリアスでおもしろいんですよね。

そして、あの夜の事故から
それぞれの運命が崩れていく――という。


誰の行動が一番
「人間の値打ち」に値するのか――?!

見終わったあと
辛辣なタイトルを、直球ではなく
胃の腑にじわじわとくるように考えさせるところも
ニクイですな。


★10/8(土)からBunkamura ル・シネマほか全国で公開。

「人間の値打ち」公式サイト
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ニュースの真相

2016-07-30 16:37:47 | な行


「スポットライト 世紀のスクープ」とはまた違った
ジャーナリズムに関する衝撃ストーリー。


「ニュースの真相」75点★★★★


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2004年4月。

CBSニュースの敏腕プロデューサー、メアリー(ケイト・ブランシェット)は
イラクのアブグレイブ刑務所での虐待事件を
「60ミニッツⅡ」でスクープし、

ベテランのアンカーマン、ダン・ラザー(ロバート・レッドフォード)と
祝杯をあげていた。

そして
彼女は、すぐに次のテーマに取りかかる。

それは、現職大統領のジョージ・W・ブッシュが
かつてコネを使って
ベトナム戦争への派兵を逃れたのではないか?、という
軍歴詐称の疑惑だった。

だが、当時の関係者たちは一応に口をつぐむ。

そんななか、メアリーたちは
重要な資料を持つ、ある人物を見つけるのだが――?!


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2004年に起きた実話の映画化です。

大統領戦の行方を左右したかもしれない
あるスクープをめぐる
ジャーナリストたちの話。


「スポットライト」は地方新聞社の地味な部署が、
地道な取材と、ハラハラのせめぎ合いで
ホームランをかっ飛ばす!という展開だったけれど

こちらは
CBSニュースという大舞台で
経験もキャリアも十分な人々が主人公。

しかし、そんな彼らが経験する
「つまづき」の恐ろしさを描いていて
またハラハラなんですよ。



報道や、スクープにつきまとう
「ガセ」「ねつ造」「誤報」といった危険。

それを見抜けなかったことで
それまで築いたキャリアも、信頼も、
人生もすべてを失いかねない。


ニュースやジャーナリズムの世界には、
常にこうした
ヒリヒリするような緊張感があるのだと
改めて、怖いと思った。


そして、一度つまづくと
「問題の本質」から目はそらされ
「誰が責任を取るか」や、
失敗をした個人が徹底的に叩かれる。

さらに
報道する側もまた一企業であり、
政治や金に左右され、口をつぐみかねない恐ろしさ・・・。


でも、そのなかで
責任を一手に引き受けるケイト・ブランシェットと、
ダン・ラザー役のロバート・レッドフォードの絆や
彼女の下で働く調査員や記者の奮闘が光る。


そして、ジャーナリストだって人間。
思い込みや、勇み足による、判断の間違いだってあるんです、と
誠実に描かれているなと思いました。



権力に臆することなく、
つまづきに、いつまでも引っ張られるだけでなく

戦っている人々がいまもいる。――と、信じたい。
そう強く思った次第です。


正義が勝ってスカッとする・・・、とはいかないけど
これは重要な問いかけだと思います。

しかし
ケイト・ブランシェットの
クライマックスの反撃はマジかっこよすぎ。


★8/5(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開。

「ニュースの真相」公式サイト
コメント (2)
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ノーマ、世界を変える料理

2016-04-28 23:56:31 | な行

最近、映画の公開数も増え、
より注目されてる北欧。

なかでも、この「ノーマ」は
北欧ツウも含め、誰もが話題にしていました。


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「ノーマ、世界を変える料理」72点★★★★


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デンマーク出身の
カリスマシェフ、レネ・レゼビ氏(38歳)の
ドキュメンタリーです。

彼はかの「エル・ブリ」出身で
デンマークだけでなく北欧料理に革命をもたらした
すごい人。


彼のレストラン「ノーマ」は
「世界ベストレストラン50」の第1位に4回も輝いてる。
昨年は日本で1ヶ月だけ「ノーマ東京」をオープンして
大人気となったそうです。


しかし、そんな頂点の影には事件もあった。

フランス出身のピエール・デュシャン監督は
4年間、レネ氏に密着し
「いったい、何がそんなにカリスマなのか?」を
探っていきます。


その映像は見栄え良く、
スタイリッシュでカッコいい。

料理の一皿を
アーティスティックに切り取るテクも素敵ですが

かつ
ちゃんと「美味しそう」なのが
大事なポイントです。


レネ氏の料理は
蟻(アリンコね)がのっていたり(!)
血を発酵させたものだったり(!)
相当変わっていて

盛り付けもアッ!と驚かせるものなんですが、

エル・ブリのように人工的なイメージがなく
有機的で
「食べ物」を感じさせる。

北欧の豊かな森の恵みや、海の恵みが伝わってくるので
カッコだけじゃなくて、
ちゃんと味覚に訴えてくるんですね。


料理ドキュメンタリーでは
その味を、映像から想像するしかないので
これはとても大切なことだと思います。


さらに、
そんなカリスマシェフ・レネ氏が
マケドニア(旧ユーゴスラビア)からデンマークに渡った
イスラム系移民であること、
それによってどれだけの差別を受けたか・・・など
その出自もしっかり語られる。

さらに、世界一のレストランから
陥落した顛末なども盛り込まれ、

想像よりドラマが詰まっていて
おもしろかったです。

さまざまな苦難を乗り越えてきた
レネ氏が言う
「うまくいかないときでも
嵐はいずれ過ぎ去る。必ず何とかなる」が胸にしみました。

少し勇気もらえたかな。

ちなみに。

おなじみ「週刊朝日」ツウの一見で
レネ氏とも親しいコラムニスト中村孝則さんに
取材をさせていただきまして

最も気になった
アリンコを使う料理の意味を聞いたのですが

蟻には独特の酸味があり、
最初に使ったのは、おそらく
ブラジルのアレックス・アタラというシェフだそう。

彼のアマゾンの蟻を使った料理は
レモングラスの風味がぶわっ!とするほどだったそう。
また「環境」を考えさせる
メッセージ性もあるのでは、とのことでした。

なーる。謎が解けた~


★4/29(金)から新宿シネマカリテほか全国順次公開。

「ノーマ、世界を変える料理」公式サイト


さらにちなみに。

2006年から、10年にわたって連載してきた
『週刊朝日』「ツウの一見」ですが4/29号を持ちまして
終了することになりました。

映画を各界の専門家や
その道の“ツウ”の視点で語っていただく試みは
ワシのライフワークともなっていたので
終了は残念ではありますが

今後も
「映画を切り口に、社会を探る」をテーマに掲げ、
がんばっていきたいと思っております。

どうぞよろしくお願いいたします!

『週刊朝日』の映画欄では発売中の5/6-13号から
「今週のもう1本」という小コラムを書かせていただいております。
ご参考になれば幸いです。
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虹蛇と眠る女

2016-02-26 12:58:28 | な行

なかなかのミステリーでした。


「虹蛇と眠る女」72点★★★★


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オーストラリアの砂漠地帯にある
小さな町。

キャサリン(ニコール・キッドマン)は

夫(ジョセフ・ファインズ)と
娘のリリー(マディソン・ブラウン)、
まだ幼さの残る息子トミー(ニコラス・ハミルトン)とともに
都会から、越してきた。

キャサリンの心配事は、思春期まっただ中の
娘リリーのことだ。

そんなある朝、一家に異変が起こる。

二人の子どもたちが
忽然と姿を消したのだ――!


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ニコール・キッドマン主演の
オーストラリア映画。

失踪ミステリーであり、
心理サスペンスであり、
さらにホラー、というか怪奇に通じるような
異形の作品です。


導入から不安を煽る旋律が響き、
けっこう怖い。

で、
「子どもたちの失踪」という出来事が起きるわけですが
「事件だ!」「捜査だ!」というよりも
どこか神隠し的な要素をはらんでいるというか

オーストラリアの過酷な自然、先住民の信仰など
“大きな不気味”の存在を
うまく演出し、不安を煽るんですねえ。

しかし同時に
性的に早熟な娘の危うさ、一家を取り巻く田舎町の閉塞や噂話、
さらに家庭内部に問題が――?!など
リアル世界の淀みがどよんと物語を覆っていく。

なので
リアルと神秘のどっち側の事件なのか
けっこう揺さぶられる。

なかなかよくできているのです。

ヒタヒタと静かにだけど
けっこうエロスにも満ちていて
ヒヤヒヤしながら引き込まれました。

ニコール・キッドマンのすべてをさらけ出した
体当たり演技も迫力ですよ。


★2/27(土)からヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国で公開。

「虹蛇と眠る女」公式サイト
コメント (2)
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ネコのお葬式

2016-02-10 23:58:14 | な行

このタイトルは
正直、ワシにはキビシかったんですけどね(笑)


「ネコのお葬式」68点★★★☆


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青年ドンフン(カンイン)は
かつての恋人ジェヒ(パク・セヨン)を
1年ぶりに呼び出した。

二人で飼い始め、
別れたあとドンフンが引き取っていた
猫のクルムが亡くなったのだ。

二人はクルムのお葬式をするために
ある場所へと向かう。

出会いの瞬間や、一緒に暮らし始めたときのこと
さまざまな想い出を遡りながら二人がたどり着く場所とは――?

*******************************


別れたカップルが、同棲中に一緒に飼い始めたネコ。

そのネコが亡くなってしまい
弔いをするために二人が再会し、
かつての日々を回想していく――というお話。

あくまでも二人の恋物語が主流で
ことさらネコが可哀想な描写などないので
そこは安心してよいです。


野良猫設定のネコが
「あれ?これベンガルじゃね?」な純血&美貌に成長するなど
少々の「ん?」はあるんですが
まあ、このネコ、かわいいのでよしとしよう(笑)

しかしこの主人公も
せっかく可愛い彼女をゲットしたのに
ちょっとした「疑い」に揺さぶられ

でも彼女には肝心のところを聞き出せないという
モジモジぶりが救いがたい。(苦笑)

でもそのモジモジゆえに起こる
恋人たちの誤解やすれ違いはいかにもありそうで、
甘酸っぱく
けっこう見入ってしまいました。

こういう男の子、いかにもいそうな感じするしね。

久々に王道「韓国ボーイ・ミーツ・ガール」ものを見た感じ。


なによりワシ、ネコや動物を扱う映画は
「何か悪いことが起こるんじゃないか」のフラグが
ずっとつきまとうのが辛くて
見られなかったりすることも多いんですが

今回のような「最初から亡くなっている前提」は
まだ少しラクだったかも・・・とも思いました。


そして告知。
直前のお知らせで恐縮でございます。

明日2/11(祝・木)に下北沢のB&Bで
『ねこシネマ』(双葉社)を作られた
ねこシネマ研究会代表・猫田虎夫さんと
ワシ、中村千晶のイベントがあります。


「2016年ねこシネマブーム!? ねこシネマの魅力を語る」
~映画『ネコのお葬式』公開記念~


「ねこシネマ」について
猫田さんにいろいろ聞いちゃおうと思っていますので
どうぞお立ち寄りください~。


★2/13(土)からシネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次公開。

「ネコのお葬式」公式サイト
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