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ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ニューヨーク眺めのいい部屋売ります

2016-01-25 23:39:45 | な行

(1)気分が楽しくなる
(2)落ち着いてて、センス良さそうな映画が見たい
そういう思いを、ほぼ叶えてくれる逸品。


「ニューヨーク眺めのいい部屋売ります」80点★★★★


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ブルックリンの景色を一望できる
アパートメントの最上階に暮らす
夫アレックス(モーガン・フリーマン)と
妻ルース(ダイアン・キートン)。

二人にとってここは、理想的な家だったが
古い物件なためエレベーターがなく
夫と愛犬ドロシーも最近はヘトヘトだ。

夫を心配したルースは
エレベーター付きの物件に引っ越すことを決めるのだが――?!


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階段が辛くなった子ナシの初老夫婦。
さらに愛犬の病気や、家を売ることにまつわる騒動うんぬん……と
起こる出来事は決して明るくない。

でもこういう問題は、どこでも誰にでも起こること。
それをこんなにも軽やかに描いてくれるなんて
嬉しいじゃありませんか。

単純に
物件拝見ムービーとしても楽しいしね。


それにこの映画、
夫婦ドラマとしてかなりイイ。

モーガン・フリーマン演じる夫は
ちょっとネガティブで
「先のことを考え、最低を想定し、最善を尽くす」現実的タイプ。

ダイアン・キートン演じる妻は
楽観的でもっとエモーショナル。

二人の性格の違いは
例えば愛犬の治療についてのスタンスなどにも現れて、
すごくリアルだった。

でも意見の違いからケンカになっても
お互い、収まりどころを知っている感があって
そこが
長年の連れ合いの機微、という感じで美しい。


さらに
二人は真にまっとうな人間なんだけど
あらゆる意味で異端児でもあるんですねえ。

1970年代に黒人と白人のカップルだったということを筆頭に
妻は教職につきながら
子どもに恵まれなかったりもしている。

そうした二人の40年の歩みを伝える
回想シーンも効果的に挟まっている。

それに姪っ子役の
「セックス・アンド・ザ・シティ」のシンシア・ニクソンをはじめ、
物件を見に来る人のなかの
「悪い人じゃないんだけど、ちょっとイヤ」な人の描写も
的確すぎて笑っちゃうんです。

そのなかで
夫婦のアパートを「私たちに売って!」とお願いする
レズビアンカップルの手紙に
ホロリとくるのも無理はないわな(笑)
しかし、これも戦術かもしれないんだけどね。

とまあ、すごくいい映画なんですが
個人的に、この映画にハマった理由は
「いまこの歳で観た」ということが大きいのかもしれない。

歳を取ると
例えば駅の人混みのなかで
すれ違う一人一人の行動や、本当に些細なことが
ストップモーションのように
見渡せるようになってくるんですよ。
若いころには、そんなことなかったんだけど。

この映画には、まさにそんな
大勢の人の行動が、見えすぎてしまうような感じがあって
共感できる映画だったんですねえ。

さらに
驚くことに、この二人にはモデルとなった夫妻がいるそうですよ。

いいですねえ。
おすすめです。


★1/30(土)からシネスイッチ銀座、シネマカリテほか全国で公開。

「ニューヨーク眺めのいい部屋売ります」公式サイト
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ナイトクローラー

2015-08-20 00:07:22 | な行

見終わって思わず「やるう」、と声が。


「ナイトクローラー」79点★★★★


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米・ロサンゼルス。

ケチなコソ泥をしているルイス(ジェイク・ギレンホール)は
あるとき、交通事故の現場で
“ナイトクローラー”と呼ばれる報道専門のパパラッチに出会う。

彼らは警察の無線を傍受しては事件現場に急行し、
生々しく衝撃的な映像を
テレビ局に売っているのだ。

「これは俺にピッタリかも――」と思ったルイスは
簡易なビデオカメラと無線傍受機を買い、
ナイトクローラー業を始めるのだが――?!


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「ボーン・レガシー」の脚本家
ダン・ギルロイの初監督作。

思わず「やるぅ」と声を出してしまうほど
見ごたえありました。

題材の新しさ、おもしろさに加え
主演のルイス役のジェイク・ギレンホールが凄い!

この人、
「プリズナーズ」でも
感嘆したんですが、顔芸が凄い。

「プリズナーズ」は顔面チックをうまく使ってたけど
今回は、白眼。白眼の余白。
白眼芸と名付けましょう(笑)

その白眼芸とぬぼ~っとした不気味さが
死に神かハイエナか、ってくらい究極の“イヤなやつ”にハマるハマる。


彼が演じるルイスという男は
モラルも社会性もゼロなくせに
「自分は“もってる”」的な自己評価だけは高いという
“やっかいな若者”の見本のような男なんです。

そんな彼が
偶然に報道パパラッチの仕事に出会い
モラルも遠慮もないから
現場にずうずうしくグイグイ入り込み
それがテレビ会社に売れるわけですね。

ワシだって
「やだやだこういうの」とかいいながら
やっぱり衝撃映像は見ちゃうわけで。


で、それを嬉々として撮ってる男が
他者への思いやりなど微塵もなく、ネットとテレビの世界に暮らし、
そのくせ自己顕示欲だけは強い――という、このイヤ~なリアルさ。

ゾッとしつつ、それを見てる自分の胸にも
手を当ててしまうという。


物語も予想可能な方向に行くようでいて
いや、こうなるとはね、と。

ぜひお試しあれ。


★8/22(土)からヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほか、全国順次公開。

「ナイトクローラー」公式サイト
コメント (6)
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夏をゆく人々

2015-08-18 19:26:10 | な行

不思議に魅力的。


「夏をゆく人々」73点★★★★


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イタリア中部・トスカーナ周辺の田舎で
昔ながらの養蜂を営む一家。

父(サム・ルーウィック)は
長女ジェルソミーナ(マリア・アレクサンドラ・ルング)を特に寵愛し
養蜂の技術を彼女に託そうとしている。

ある日、一家が湖に遊びに行くと
テレビ番組の収録が行われていた。

女神のように美しい司会者(モニカ・ベルッチ)に
魅了されたジェルソミーナは
番組のコンテストに出たいと考え始める。

同じころ、一家は
一人の少年を預かることになり――?


*****************************


第67回カンヌ国際映画祭グランプリ作品です。


「養蜂」「少女」「少年」からイメージしたのは
やさしい陽光溢れる
ボーイミーツガールもの。

でも、全然違ってました(笑)


確かに陽光溢れてるんだけど
陰影もくっきり、ときにゴツゴツと荒々しい。

長女が巣箱から逃げた蜂を
手でグワッともとに戻すシーンとか、忘れられない。

でも、少女の心のゆらぎなどは繊細で、
説明少ないなかでもグイグイ引き込まれるんです。


まず「時代がいつか」の描写もないんですからねー。
たぶん現在だろうと思うけど。

主役となるのは
隣家も見当たらないような田舎で
小さなコミューンのようにして暮らす一家。

子どもたちは学校にも行ってないようだし
父親は外にマットレスを敷いて眠てるし(なんで?笑)。


そんな一家の長女ジェルソミーナは
養蜂家の後継として父親に頼りにされている。

彼女は誇らしさの反面、
休みなく奴隷のように働かされる理不尽さや、
長女であることの疎ましさも感じている。

が、あるとき
父が一人の少年を家で預かると言い出して
さらに一家の暮らしを
テレビ番組のロケ隊や
付近の農家がまき散らす除草剤が浸食していく――という展開。


「どんな映画?」と聞かれて
一番困るタイプではあるんですが(苦笑)
現実をきちんと主軸にし、詩的で幻想的な世界が
広がってる感じが、とてもいい。

ラストシーンもいいんです、これが。


お話にはアリーチェ・ロルヴァケル監督の
自伝的要素も入っているらしいです。本人ははっきり言ってないそうですが。

そして彼女は
一家のお母さん役のアルバ・ロルヴァケルの妹なんですって。
ちなみに
アルバ・ロルヴァケルって
「ミラノ、愛に生きる」
ティルダ・スウィントンにそっくりな娘役だったあの人です。
ほへぇ~。


★8/22(土)から岩波ホールほか全国で公開。

「夏をゆく人々」公式サイト
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二重生活

2015-01-25 20:56:42 | な行

中国の“問題児”監督のひとり。


「二重生活」59点★★★


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現代の中国。

ルー・ジエ(ハオ・レイ)は可愛い娘と
稼ぎよく優しい夫(チン・ハオ)を持つ幸せな主婦。

彼女は娘の幼稚園で、同じクラスの男の子の母親
サン・チー(チー・シー)に
「ママ友にならない?」と声をかけられる。

気軽に応じたルー・ジエだったが
実はその裏には事情があり――?!

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「天安門、恋人たち」で天安門事件を扱ったり、
同性愛を扱った「スプリング・フィーバー」など
中国のタブーに触れ続けるロウ・イエ監督作品。

中国当局からは活動禁止処分を受けるも

カンヌ国際映画祭をはじめ
海外で高い評価を受け、創作を続けている監督です。

で、本作は
本妻と愛人家庭を行き来する夫と、
それに気づいた妻の、つまりは泥沼話。


まず
「スプリング・フィーバー」でもそうだったけど
“詩人”と言われるこの監督は登場人物の心を表すような
“揺れる”カメラワークが独特で
ハマる方にはハマるらしいんですが

ワシは
“詩人”というより、これに酔うんですわ・・・・・・(苦笑)。


中身もミステリーかと思いきや
そういう感じではなかった。

だめんずの不倫から始まる悲劇なんて
死ぬほど転がってる話だし

男女のドロドロ、いわゆる“ソープオペラ”には
記憶に新しい「ゴーン・ガール」があるからなおさら分が悪い。

ただ
一人っ子政策によって
「どうしても跡取りの息子が欲しい」という
主人公の母親の圧力などは、現代中国を描いているのかなと思いました。



★1/24(土)から新宿K'sシネマ、渋谷アップリンクほか全国順次公開。

「二重生活」公式サイト
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ナショナル・ギャラリー 英国の至宝

2015-01-14 22:30:50 | な行

181分!

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「ナショナル・ギャラリー 英国の至宝」67点★★★

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「パリ・オペラ座のすべて」(09年)
「クレイジー・ホース・パリ」(11年)などで最近おなじみ
巨匠フレデリック・ワイズマン監督が

ミケランジェロやレンブラント、ターナー、ゴッホ、モネ・・・・・・などなど
すんごいコレクションを持つイギリスの国立美術館
「ナショナル・ギャラリー」を撮ったドキュメンタリー。

普通、美術館のドキュメンタリーと言われて
想像するものとは100パーセント違うと断言できます(笑)


美術館を探訪するようなものではまったくなく
ナレーションも解説もなく
登場するスタッフたちの名前も肩書きもない。

徹底して、静かに、
そこで見たものをそのまま描いた“観察映画”。


美術館で働くスタッフのほか
絵画を熱心にみる一般の人々の表情が映されるのが特徴的で

この映画は“美術館”視点ではなく
一貫して
絵画を愛して情熱を一心に注ぐ人々に
視点を注いでいるのだと感じました。


大人気となる「ダ・ヴィンチ」展の開催までの様子、
修復、X線による謎解きのくだりなどなど
ドラマチックでおもしろい。

ですが、あまりにも静かで
181分すべてを寝ずに見るのは
ワシのなまくら頭には不可能でした。


★1/17(土)からBunkamura ルシネマほか全国順次公開。

「ナショナル・ギャラリー 英国の至宝」公式サイト
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