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ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ネオン・デーモン

2017-01-11 23:59:48 | な行

「ドライヴ」監督の新作です。


「ネオン・デーモン」70点★★★★


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モデルを目指して田舎町からロサンゼルスに出てきた
16歳のジェシー(エル・ファニング)。

本人は恥ずかしそうにオドオドするばかりだが
その美しさと存在感は
周囲が息をのむほど「完璧」だった。

すぐに有名カメラマンやデザイナーに見出された彼女は
成功を手にすると思えたが――?!


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田舎から出てきた無垢な少女モデル=エル・ファニングの
息してるだけで危うい
その存在感から、マジで目が離せない。


エル・ファニング自身は何もしていないのに
周囲に及ぼす、緊張感。
これは彼女の“不安定な完璧さ”で
成り立ってると思います。



「ドライヴ」(11年)
で心酔させ
「オンリー・ゴッド」(13年)で突き落とした(笑)
1970年、デンマーク生まれ、
ニコラス・ウィンディング・レフン監督。


この人の世界は
本当に徹底してるなあ・・・と絶句しますね。

超越と美と悪趣味の、きわどいバランス。

悪趣味一歩手前のところでやめておけばいいのに、
そこを超えちゃうところが
本物のヘンタイなんだろうなあと(笑)

モチーフ的に
岡崎京子氏の「へルタースケルター」を想起させる点も興味深く。


冒頭の衝撃的なシーンからつかまれるし
(これが「やられた!」感、満点)

非常に稀有な映画なんだけど、
ただ、残るのは美の余韻と感覚・・・なんだよね。

ストーリーが弱いのが、ちと不満ではありましたが
たしかに“美”を見せてもらいました。


★1/13(金)からTOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国順次公開。

「ネオン・デーモン」公式サイト
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ノーマ東京 世界一のレストランが日本にやって来た

2016-12-05 20:21:55 | な行

行ってみたかった・・・けど
お一人様、約7万円ですって!

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「ノーマ東京 世界一のレストランが日本にやって来た」69点★★★★


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「世界のベストレストラン50」の1位に4度も輝いた
デンマーク・コペンハーゲンのレストラン「ノーマ」。

今年4月に公開された
「ノーマ、世界を変える料理」
初めて
カリスマシェフ、レネ・レゼピ氏を知り
そのすごさを知ったワシですが

なんと
2015年の5週間のみ、東京で「ノーマ」がオープンしていたんですね。
その試みを追うドキュメンタリーです。


前の「ノーマ」を観た方は見るべし、です。
(監督は別の人だけど)


今回はやはり舞台が日本!ってことで
食材探しも興味津々だし、

数時間かかる蜆(シジミ)の殻むきや、山にアリを取りに行くとか
話には聞いていたけれど、こうやっているのか――!
実際を見ると、味の想像をしやすい。

それに
今回はかなりスタッフがクローズアップされ、
より「世界一のレストランの内情がわかる」のが見どころでしょうか。


レネ氏はスタッフに家族のように仲間のように、友のように
フレンドリーに接するんだけど
当然ながら味や仕事ぶりにはめちゃくちゃシビアで
厳しくビシビシと言う。

仕事をする上で
このバランスって、けっこう難しくないですか?

それをこなしていく彼の立ち振る舞いには
ビジネスシーンでの学びも多い気がします。


スタッフの“レネ評価”が聞けるのもおもしろいしね。


ただ、映画の構成がちょっと不親切かなと思う。

映画では出店15日前のレネ氏来日からオープンするまでが
カウントダウンされていくので
日本での食材探しがいつ頃の事なのか、時間軸がはっきりしないんですよ。

実際は2014年から準備は始まっていたそうで、
そこは伝えたほうが親切だったのでは?と思った。

しかし一度は食べてみたいなー。


★12/10(土)からヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAで公開。ほか全国順次公開。

「ノーマ東京 世界一のレストランが日本にやって来た」公式サイト
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ニコラス・ウィントンと669人の子どもたち

2016-11-23 23:57:43 | な行

素晴らしい実話。いい映画だと思う。

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「ニコラス・ウィントンと669人の子どもたち」71点★★★★


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1938年。
チェコスロバキアにナチスの手が迫るなか
ごく普通のイギリス人の若者が
チェコ在住のユダヤ人の子どもたちを国外に脱出させ命を救った・・・という
実話ドキュメンタリーです。


教科書に載っていてもおかしくないような話なのに
まったく知らなかった。
本当に世の中には「知られざる歴史の逸話」がまだまだあるんだなあ
びっくりしますが

まあそれもそのはず。
この話は最近まで、誰にも知られていなかったのです。

ニコラス・ウィントンは、669人の子を救ったあと
そのことを妻にも話さずにいた。
でも1988年に彼の妻が、50年間眠っていた彼のノートを見つけ
この歴史的な偉業が世に出ることになったんですね。


映画は105歳でも元気なニコラスへのインタビューも含め
彼に助けられた子どもたちの消息を追い、
インタビューをしている。

観客としては
成長した彼らが一様に立派な職業についているのにびっくりいたします(笑)

学者や企業家、教師――
その理由は彼らの通ったイギリスの“チェコ学校”にあるらしい。

このあたり、ぜひ教育関係者は参考にしていただきたいですね。


と、まあおもしろい題材なのですが
この映画をとりわけオススメしたい理由は
単なる「偉人伝」にしていないところ。

彼に助けられた子どもたちはその事実を知り
「恩返しやお礼をしたい」と
それぞれが善き活動を始めている。
さらに、それが孫世代にも繋がっている――というんです。

だから、感動が深いんですねえ。

ニコラスさんは2015年に106歳で亡くなったのですが
映像でも本当にお元気そうだし。
ラストの歌には、あまりにも善オーラが溢れすぎかと思ったけど(苦笑)
ぜひ授業などでも取り上げていただきたい作品だと思いました。

それにしても。
子どもを生き延びさせるためとはいえ
やはり「子どもと別れて、子どもだけを外国に逃がす」ことは
親にとっては辛い決断なのだな、とつくづく感じた。
こうした例がほかにあまりない理由はそこにあるんでしょうね。


★11/26(土)からYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開。

「ニコラス・ウィントンと669人の子どもたち」公式サイト
コメント (4)
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何者

2016-10-14 22:50:24 | な行



「桐島、部活やめるってよ」の
朝井リョウ氏、原作。


「何者」68点★★★☆


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大学生の拓人(佐藤健)は
ルームメイトで同級生の光太郎(菅田将暉)とともに
就活をスタートさせる。

そんなとき
拓人は同級生の瑞月(有村架純)と再会し
就活に燃える彼女のルームメイト、理香(二階堂ふみ)を紹介される。

“意識高い系”な理香から
「じゃあ私たちの部屋を“就活対策本部”にしよう!」と提案された拓人たちは
一丸となって就活を始めるのだが――?!


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いやあ
SNS時代の就活のしんどさが
マジでよ~くわかりました。

それだけでも、けっこう収穫かもしれません。


ここに描かれる就活の大変さは
実際に汗水垂らして、100社を回って・・・というのとはちと違う
(実際はそうだろうけど)。


「一緒にがんばろうね!」とか言っても
結局はライバルである学生同士の現実や、
ツイッターやFacebookなどSNSの時代こその
就活の苦しさ、怖さがメインなんですね。

「私は学生時代、こんなことをやってました!」
「友達、こんなにいます!」
「こんなに充実してます!」
そういうツールでアピールしないと、なんか負け、みたいな。

そこが、ヒヤリと怖い。

でもこれが現実なんだろうな。

いまでは企業の4割が(いや、実際はほとんどだと思う)
学生のSNSをチェックしてるっていうし
まあワシが人事部長でも
やると思う。ハッキリ言って。


そんな時代に、まだ「何者」でもない若者たちが
どうやって「自分」を演出していけばいいのか。

その迷いや大変さが、よくわかるし
その中でダークサイドに墜ちていってしまう主人公の気持ちも
わかるわ。

しかも
企業に自分が値踏みされるしんどさや
不採用の通知をもらったときの
自分の存在が否定されたような絶望感――

これは時代が変わっても、同じなんですよね。

そこがまた辛いつうか。


基本は若者向けの
共感&就活映画なんだろうけど
終盤に向かって
「ホラーか?!」となっていく展開も怖かったなあ(苦笑)


最後が尻切れっぽかったのが惜しいけど
“いま”を知ることができて、ありがたかったす。


★10/15(土)から全国東宝系で公開。

「何者」公式サイト
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永い言い訳

2016-10-09 20:38:01 | な行

西川美和監督の才能は
やっぱりすごい。


「永い言い訳」82点★★★★


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人気作家としてバラエティ番組にも登場する幸夫(本木雅弘)は
美容師の妻(深津絵里)と20年来の夫婦。

しかし、その関係は
静かに冷え切っていて

妻が友人とスキー旅行に出かけた夜も
幸夫は恋人(黒木華)との逢瀬を楽しんでいた。

が、翌朝。

幸夫はスキー旅行のバスが事故を起こし、
妻が亡くなったことを知る――。


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「ゆれる」「ディア・ドクター」の
西川美和監督の新作。

「ディア・ドクター」もかなり好きなんですが
この映画の、どこがそんなにすごかったのか。


「口に出せないけど、実際、あるだろうな」に
淡々と斬り込んだところですね。


妻がバス事故で亡くなっても涙も出ない夫――というのもそうなんだけど

それよりも
男性にとっての「子ども」「子育て」に
こんな風に斬り込んだ作品は初めてじゃないか?、ってところが大きい。



妻を亡くした主人公・幸夫は
妻と一緒に亡くなった、妻の友人のダンナと知り合い
彼の二人の子どもの世話をするようになるんです。

子どものいない幸夫と
子どもたちとのやりとりは微笑ましく、可笑しく

彼らに翻弄されながらも
幸夫は「癒やされてく」んですよね。

でもそんな幸夫を
自身も若くして子持ちという設定の
マネージャー(池松壮亮)がズサッと斬る。

「子育ては男の免罪符ですから。
自分がイヤな、ダメなヤツってことを帳消しにしてくれる逃げ場ですから」。

これ、利くよね。

「イクメン」とチヤホヤする世の中に、
冷や水を浴びせるような覚悟。
いい話、では終わらせない毒味が、ピリッとくるんですよ。


実はこの「ピリッ」は個人的に経験したことがある。

もう7年くらい前かなあ
若くして3人の子持ちとなったカメラマンに
「すごいねえ!いまの男の人は(育児もするし)エライよねえ」と言ったら
彼がこう返してきたんですよね。

「自分は(そういう世の中の好印象)『どうかな・・・』と思ってるんです。
子育てを言い訳にして、仕事から逃げてる男も多いから」って。

それ聞いたとき、ハッとした。
「やっぱり、そういうのあるの?」という共感もちょっとあって(笑)


実際、見てると子どもたちと一緒の幸夫さんは
確かに幸せそうだし(笑)
それでいいじゃん、と思いそうだけど
でも、そこから先に行かないと
問題は解決しない、と西川監督は厳しい。

さまざまな映画は
「喪失から立ち直る」手段をいろいろと提示してくれるけど
そこをもう一歩考えさせようとしている、というのが
すごいと思いました。


そして
「海よりもまだ深く」でもそうだったけど
そうやって映画に冷やかな視線をもたらす若者役に
池松壮亮氏はホントにハマる。
いいですねえ!(笑)


★10/14(金)から全国で公開。

「永い言い訳」公式サイト
コメント (3)
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