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ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

スイング・ステート

2021-09-20 00:09:43 | さ行

米選挙に関してはいまひとつちんぷんかんだけど

それでも、かなり、おもしろい。

 

「スイング・ステート」72点★★★★

 

***********************************

 

民主党の選挙参謀ゲイリー(スティーヴ・カレル)は

やり手と知られた男。

 

だが、2016年の大統領選挙で

ヒラリー・クリントンが大敗し、打ちのめされていた。

 

いかにして、民主党の票を取り戻すか――

 

次の手を考えていたとき

事務所のチームの若手が

バズってるYouTube動画を見つけてくる。

 

それは

ウィスコンシン州の小さな町で

不法移民のために立ち上がった

一市民ジャック(クリス・クーパー)の演説の映像。

 

彼にカリスマ性を感じたゲイリーは

中西部の農村で民主党の票を問り戻すため

彼を「アイコン」にしようと考える。

 

そしてゲイリーは田舎町を訪れ、

ジャックに

「町長選挙に民主党から出馬しないか」と持ちかける。

 

しかし、ゲイリーの動向をみた

共和党の選挙参謀フェイス(ローズ・バーン)が

そうはさせるか!とばかり、田舎町に乗り込んできて――?!

 

***********************************

 

米選挙やシステムはいまいち、よくわからない。

しかも、例によって予備知識なしなので

どこからどこまでが実話か、誇張かもよくわからない――

 

そんな状況で観たのに

いやいや、かなりおもしろいぞ?!という映画でした。

 

さすがスティーヴ・カレルというか、

政治話をコミカルに、親しみやすく、観客に近づけて、笑わせてくれるんだよね。

 

 

で、観終わって、資料を読んだら

全然実話ちゃうし(笑)

いや、現実に近い事件は端々で起こってるのか。

 

 

まずは選挙参謀のゲイリー(スティーヴ・カレル)。

もちろん切れ者なんだけど

いかにも「都会」「オレやり手」キャラを誇張してるのがおかしくて

 

その彼が

スマートなスーツを脱ぎ捨てて、L.L.Beanかコロンビアな服に着替え

車も4WDに乗り換えて

(芸細かいなあ。笑)

牧歌的な田舎町に乗り込んでくる。

 

ごっついおっさんたちに胡散臭そうにされ、

しかし、一度心を開かれると

妙にフレンドリーにされて戸惑ったり。

 

そして無愛想で口下手な退役軍人ジャック(クリス・クーパー)を口説き

町長選に出させるんですね。

演じるクリス・クーパーがまた味があっていいんですが

 

そこに「ちょっと待ったあ!」と

ライバル共和党のバリキャリ選挙参謀フェイス(ローズ・バーン)が殴り込み

 

のどかな町の町長選が

民主党VS共和党の争いに発展し

筆舌尽くしがたい泥仕合がはじまっていく――という展開。

 

政治ってコントかギャグ漫画か?という状況、

なんだか日本も変わらない気もしますが(苦笑)

 

そのドタバタのなかに

アメリカの都会と田舎、富裕層と一般市民のギャップが

うまく盛り込まれていて

「民主党支持者は、リベラル、富裕で高学歴なインテリ」

「共和党は保守、労働者の味方!」

と二分されるアメリカの世情を、捉えることができるんですよね。

 

データ解析などテクノロジーを駆使した

いまどき選挙の戦い方が描かれているのも興味深いし

(そこで起こる「え?」な事件も爆笑だけど、あり得そう・・・)

 

そして「都会」の人々が「田舎」の人々を

どこか上から目線で

コントロールしようとする構図もみえてくる。

 

が、しかし

ネタバレはしませんが

そこからの展開がまた痛快なんです。

 

それにしても

越智道雄さんがご存命だったら絶対、

素晴らしくわかりやすく、解説してくれただろうな――と

残念でなりません。改めて合掌。

 

★9/17(金)からTOHOシネマズ日比谷、渋谷シネクイントほか全国で公開。

「スイング・ステート」公式サイト

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Summer of 85

2021-08-23 02:21:55 | さ行

ひゃー!80年代カルチャー&みずみずしさにヤラレタ。

 

「Summer of 85」71点★★★★

 

************************************

 

1985年、フランスの海岸近くに住む

16歳のアレックス(フェリックス・ルフェーヴル)は

進路に悩むシャイな高校生だ。

 

ある日、一人ヨットで沖に出た彼は

突然の嵐に巻き込まれ、転覆してしまう。

 

絶体絶命のアレックスを救ったのは

18歳のダヴィド(バンジャマン・ヴォワザン)。

 

急速に惹かれ合い、愛し合うようになった二人は

「どちらかが先に死んだら、残されたほうは相手の墓の上で踊ろう」と

誓いを立てるのだが――。  

 

************************************

 

しょぱな、ザ・キュアーの「In Between Days」の軽快なギターが鳴る中、

80年代のフランスの海岸を

自転車に乗ってやってくる

ボーダー&ボタンシャツの少年――

 

って、ちょっと!フランソワ・オゾン監督!

胸キュンさせすぎですよ!(笑)

 

 

初恋ストーリーをみずみずしく、やさしく描きあげ

まさに原点回帰、という感じ。

 

加えて

そこにサスペンス風味が混じり

 

回想と現在の時間軸を自然につなぎながら

明るく輝く季節と、暗い告白のあいだに

「いったい、何があったのか?」と引き込まれる。

さすがです。

 

 

原作は1982年に発表された

アイダン・チャンバースの小説「Dance on My Grave」。

オゾン監督は17歳のときに読んで胸キュンしたそうで

それから35年。

当時のキュンをいまよみがえらせるのは

楽しかった反面、チャレンジングでもあっただろうなと。

 

(それにプレス資料などで監督は言及してないけど

「君の名前で僕を呼んで」(17年)

に突き動かされたのも、絶対あるだろうなあと思うw

グザヴィエ・ドランみたく)

 

して

単にみずみずしさ、ではなく

やはり、年を重ねての「真理」がある。

 

特にうーむ、とうなったのが

ダヴィドの描写。

 

快活で好奇心旺盛で、ひとたらしで

アレックスをリードしていくダヴィド。

彼でなければ、アレックスは恋に落ちなかった。

 

しかし、その美点は、諸刃となるわけで

ダヴィドは新しく出現した女の子に好奇心を移し、

アレックスと距離を取り始める。

 

しかもダヴィドくん、そのことをまったく悪びれない(苦笑)

 

真っ直ぐなアレックスにとってそれは

死ぬほどショックな裏切りで

そのことでアレックスはダヴィドに詰め寄るんですね。

 

まあ、よくある痴話げんかにもみえるんだけど

そこでダヴィドが言う

「変化がほしいんだ」は

 

単に「不実なヤツ」でなく

前のめりに走り、とにかく経験を重ねたい

生き急ぐような性質を持つ人の芯をとらえていて

そこにも、また悲しみがある、と感じさせた。

 

決して、アレックスを本当に「飽きた」んじゃないけど

あえて振り切った。

ダヴィドもまた、

「人は自分と同じではないんだ」ということを学んでいる途中なのだと。

 

二人が対峙するこのシーン、

ウッと胸にきました。

 

ダヴィドの母親役に

オゾン作品「ふたりの5つの分かれ路」(04年)ほか

最近では

「歓びのトスカーナ」(17年)もよかった

ヴァレリア・ブルーニ・デデスキをあてたのもグッド!

 

★8/20(金)から新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開。

「Summer of 85」公式サイト

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スザンヌ、16歳

2021-08-22 23:38:07 | さ行

新時代のなまいきシャルロット!

 

「スザンヌ、16歳」73点★★★★

 

************************************

 

パリに暮らすスザンヌ(スザンヌ・ランドン)は16歳。

 

ちょっと大人びて、物静かな彼女は

カフェでおしゃべりする同級生たちの輪に入らず

黙ってテーブルクロスにソーダの水滴をたらしている。

 

恋に憧れているけれど

同年代の子たちは退屈なのだ。

 

そんなある日、スザンヌは街の劇場の前で

20歳ほど年の離れた舞台俳優ラファエル(アルノー・ヴァロワ)に出会う。

 

どこか通じ合うものを感じた二人は

早朝のカフェで、劇場で、少しずつお互いを知り、

惹かれ合っていくのだが――。  

 

************************************

 

スザンヌ・ランドン監督が

15歳で書き上げた脚本をもとに

19歳で自ら主演し、作り上げた長編デビュー作です。

 

いつものように予備知識なく観たので

観た後に

彼女があのヴァンサン・ランドンの娘で

「君を想って海をゆく」(09年)とか「母の身終い」(12年)とか最高だす!)

お母さんは「ヴィオレット―ある作家の肖像―」(13年)とかに出てる

これまた実力派俳優のサンドリーヌ・キベルラン、だったとしって

えらく驚いた(笑)

 

超絶サラブレッドだったんですね。

 

白いシャツにジーンズのすらりとしたスタイル。

ちょっと物憂げで大人びた彼女が年上の男性に恋をする――

まさに新時代の「なまいきシャルロット」(1985年、クロード・ミレール監督)って感じですが

それをすべて

自分で作り上げたっていうのがスゴイ。

 

 

惹かれ合うようになった

スザンヌとラファエルの愛情の描写がなんとダンスだったりと

意表を突く演出もおもしろく

その先にいかない慎み深さに、余計に萌える(笑)

 

なのにけっこうエモーショナルで

ちゃんと痺れる心が描けてるし。

 

さらに驚かされたのが

思春期のスザンヌの心象描写だけでなく

スザンヌの母親や父親の目線にも

ちゃんとなれているところなんですよね。

 

シーンとしては少ないんだけど

お父さんとのちょっとしたやりとりや

自分から離れていく過程にある娘に対する母の想いなどを

実に自然に表現してて

どんだけの才能か?恐るべし、と感嘆。

 

そして

おなじみ『AERA』で

スザンヌ・ランドン監督にインタビューさせていただきました!

ちょっとはにかんだ感じは、映画のスザンヌそのままで

実にキュート!

 

両親への想いや「なまいきシャルロット」への想いなど

いろいろ語ってくれています。

 

8/31(火)発売の号に掲載予定ですので

ぜひ映画と併せてお楽しみください~

 

★8/21(土)からユーロスペースで公開。ほか全国順次公開。

「スザンヌ、16歳」公式サイト

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ジュゼップ 戦場の画家

2021-08-12 23:05:50 | さ行

こんな画家がいたとは

知らなかったのです。

 

「ジュゼップ 戦場の画家」72点★★★★

 

*************************************

 

1939年、冬。

スペイン内戦を逃れ、多くの人々が

凍てつく山を越え、フランスへと向かった。

 

が、たどり着いたフランスの強制収容所で

彼らはフランス憲兵たちに貶められ、

飢えと病魔に蝕まれていた。

 

そんな収容所で

ジュゼップ・バルトリ(声=セルジ・ロペス)は

一人、黙々と壁や地面に絵を描いていた。

その様子を見たフランス人憲兵セルジュ(声=ブルーノ・ソロ)は

ほかの憲兵にナイショで、彼にノートと鉛筆を手渡す。

 

やがて二人のあいだに

友情が生まれるのだが――。 

 

*************************************

 

実在の画家でイラストレーターの

ジュゼップ・バルトリの数奇な運命を描いた

フランス発の長編アニメーションです。

 

恥ずかしながらジュゼップ・バルトリという人を知らなかったのですが

スペイン内戦時代にフランスの強制収容所で過酷な難民生活を送り、

のちにメキシコに亡命して

フリーダ・カーロの愛人となり

晩年はニューヨークでジャクソン・ポッロックらと親交し

画家として名を成した人なのだそう。

フリーダ・カーロの映画とか観たのに知らなかったなあ・・・

 

で、

監督のオーレル氏はフランスの風刺画イラストレーターで

偶然、ジュゼップの絵に出会って衝撃を受け

10年をかけて本作を作り上げた。

 

おもしろそう、なのだけど

正直、最初は

このなにかと陰鬱なときに戦争の話かあ――と少し思ったんです。

 

実際、冒頭の

冷え冷えとしたモノトーンの雪山の描写に

「ちょっと、しんどそうかな」とも感じた。

が、しかし

そこから、いきなり場面がカラフルになり

現代のフランスに飛ぶんです。

 

で、現代の若者が祖父から

ジュゼップの話を聞く――という展開になる。

 

いまを生きる若者と、過去がつながるこの展開で

グッととっつきやすくなる。

 

これは「キリマンジャロの雪」(11年)の脚本を手がけた

ジャン=ルイ・ミレシが参加していることが

大きいと思います。

歴史の悲劇や社会の問題を

人間味あるドラマにする名手なんですね。

 

悲惨な収容所生活のなかでも

ジュゼップがどこかひょうひょうとしていて

収容所の女性たちに「かっこいいわよね」とモテたりする様子も

心を穏やかにしてくれます。

(実際、ググってみたら写真が出てきて、ホントにハンサムなんだ!と驚いた(笑)

 

さらにアニメーションに挟まる細密なイラストが

ジュゼップ本人の手によるものと知って

これも驚いた。

オーレル監督は、それを違和感なく動画と組み合わせていて

さすが。

 

映画からは

ジュゼップがどんな状況でも

排泄や呼吸をするのと同じように「描かないといられないのだ」という様子が

すごくリアルに感じられて

こういう人が、真のアーティストなんだな

きっと、オーレル監督自身に重なるんだろうな、とも思った。

 

と、想像よりも暗く重い映画ではないけれど

やはり強制収容所での出来事は酷い。

ジュゼップの筆は

非常時にこそ、人間の本質が露わになること

そして、その醜さを

いまに伝えている。

 

なにより

土地を追われ、逃れた先でも苦しめられるジュゼップらの姿は

現代の難民たちの姿にそのまま、かぶるんですよ。

 

いまこそ、継がれる意味のある物語だ、と

強く思うのでありました。

 

『キネマ旬報』でオーレル監督にインタビューをさせていただきました。

シンプルで印象的なアニメーションに、意外なルーツがあったりと

なかなかおもしろい内容になっているかと思います。

映画と併せて、ぜひご一読くださいませ!

 

★8/13(金)から新宿武蔵野館ほか全国順次公開。

「ジュゼップ 戦場の画家」公式サイト

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17歳の瞳に映る世界

2021-07-23 17:10:35 | さ行

ぜひ若い世代に伝えたい映画。

 

「17歳の瞳に映る世界」76点★★★★

 

**********************************

 

ニューヨークのすぐ下にある

ペンシルベニア州。

 

なんだか時が止まったような風情の小さな町で

17歳のオータム(シドニー・フラニガン)は

母と義父と、年の離れた妹と暮らしている。

 

地元のスーパーでレジ打ちのバイトをし

セクハラされながらも

「世の中なんて、こんなものよ」と

どこか割り切ってる。

 

が、オータムは最近、体の不調を感じていた。

 

地元のウィメンズクリニックで

まさか、と試した妊娠検査薬の

結果は陽性――。

 

悩んだオータムは

仲良しのいとこ、スカイラー(タリア・ライダー)に

状況を打ち明ける。

 

そして早朝、二人は

ある決断をするために

NYへと向かうのだが――?!

 

**********************************

 

「ティーンの予期せぬ妊娠」という

題材は、そう珍しくないかもしれない。

 

でも、この映画はすごく新しく

かつ「いま」だと思いました。

淡々と、どこかドキュメンタリーのようで

リアルな17歳のヒロインに、多くの女性の思いが重なるような。

 

といっても「現代の話」って

最初はわかんなかったんですよ(苦笑)

 

冒頭、

ヒロインのオータム(シドニー・フラニガン)が

高校の文化祭で歌ってる。

そこに男子生徒がヤジを飛ばしてくる。

 

カントリーチックな人々の服装、ファミレスや町の風景、

なにより男たちのマチズモ感に

1980年代くらいが舞台なんだと思って観てた。

 

しばらくしてメルアド、と会話があり、

Google検索してるし、あ、スマホが出てきた!で

ようやく、いまの話だってわかった。

 

このタイムスリップ感は、多分に意図的だと思う。

 

ニューヨークまで長距離バスで数時間、という場所なのに

この時の止まった感はなに?

いや、これが現実で

#MeTooやTime's Upにほど遠いアメリカが

まだまだたくさんあるんだ、と痛感させられました。

 

日本だって、同じだよね。

 

で、そんな世界で

17歳のオータムが予期せぬ妊娠をする。

 

このオータム、なかなか地に足ついた感じのキャラで

決して愛想がいいわけじゃないけど

そこそこしっかりしてて(歌もうまい!)

すごく魅力的。

 

でも妊娠のことは、親にも言えないし

しかもペンシルベニア州では「未成年の中絶には親の同意が必要」。

そこで

彼女はいとこに相談し、

二人でニューヨークに行くことにするんです。

 

オータムが経験する、こうしたことすべてが

女性が被る理不尽や不利益の象徴であり

彼女が被る心の傷も、身体的な傷も重い。

 

重いけど

彼女は自分で行動し、自分で決断する。

 

その一歩一歩が、力強く

こちらも力をもらえる。

 

それにそこには女性たちからのヘルプがたしかにある。

いとこのスカイラーとのシスターフッドをはじめ、

地元のウィメンズクリニックの様子や

NYの医師やカウンセラーたちのサポートなどなど。

 

「こういうときに、こういうヘルプがあるよ」

同じ思いをするかもしれないティーンに向けての

メッセージが多分に含まれていると感じました。

 

エリザ・ヒットマン監督は

2012年、中絶が違法なアイルランドで

体調を崩した女性が中絶手術を受けられずに

亡くなった事件をきっかけに、本作を生み出したのだそう。

込められた想いが、よく伝わってきました。

※ちなみにその後、国民投票の結果

2018年にアイルランドでは妊娠24週までの中絶は認められているそうです(映画プレスより)

 

★7/16(金)からTOHOシネマズ シャンテほかで公開中。

「17歳の瞳に映る世界」公式サイト

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